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第二章 書籍部の先輩
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しおりを挟むあれは、文集会議の翌日。「家庭教師のお礼のケーキを奢るわ!」と奈津美先輩に連れられ、学校帰りに喫茶店に寄った日のことだ。
静かで落ち着いた雰囲気を醸し出した店内で、ボックス席に案内された僕たちは、ティーセットを頼んだ。
そしてその数分後、注文を取ったのと別のウエイトレスがやって来て、こう言ったのだ。
『本日、レディースデイとなっておりますので、こちらサービスのスコーンになります』
まあ、ここまではいい。奈津美先輩も一緒にいるのだから、特に問題はない。
しかし、このウエイトレスはなぜか僕の前にもスコーンを配膳したのだ。
で、僕が『あの、僕、男ですけど……』と言ったら、ウエイトレスは僕の顔と制服(主にテーブルの下に隠れた夏服のズボン)をもう一度よく確認し、慌てた様子で謝ってきたのだ。
『し、失礼いたしました! 綺麗なお顔立ちでしたので、てっきり女性かと!』
ウエイトレスの謝罪文句に、僕は口をあんぐり、奈津美先輩はお腹を抱えて大笑いだ。
その後、ウエイトレスは『お詫びの印に……』と、さらにスコーンを追加して去っていった。ちなみに、そのスコーンは物欲しそうにしていた奈津美先輩にあげた。
今思い出してみても、あれは僕にとって人生でワースト3に入るであろう黒歴史だ。
身長が160センチと低くて童顔なことは僕のコンプレックスなのだけど、まさかこの歳で女性に間違われる日が来るなんて……。あの日はショックで、夜遅くまで枕を濡らした。このままだと、今夜も思い出し泣きで濡らすかもしれない。
そんな僕視点ではとても悲惨な出来事を、この人はペラペラと……。しかも、十日も経たないうちに……。
「で、でもね悠里君、これはある意味、とても素晴らしいことだと思うの。だって、女の子と勘違いされるくらい端正な顔立ちってことだし! うちのクラスの子たちも、悠里君の写真を見て、『男の娘もいける!』って太鼓判を捺しているのよ。それに悠里君は昔から綺麗な顔で、女の私から見ても羨ましいって思うくらいだったわ!」
「……へぇ、そうですか。だったら、小学生の頃から全然変わっていない先輩の胸囲も、大変素晴らしいってことですね」
小声で呟いてみたら、奈津美先輩がピシリと音を立てて固まった。
「ひ、ひどい! ちゃんと変わってるもん。少しは成長しているもん!」
「それ、単純に肋骨が成長した分増えただけですよ、きっと」
「なんてことを……。悠里君、顔と違って性格ひん曲がり過ぎよ! 白雪姫の継母やシンデレラの姉みたい!」
「どっちも女性じゃないですか! あなたも人のこと言えないですよ!」
醜い罵り合いを演じ、荒い息をつく僕と奈津美先輩。互いのコンプレックスを叩き合って、ふたりとも心がすっかりグロッキーだ。
そんな書籍部の後輩たちの姿を目の当たりにし、真菜さんはおかしそうに「あはは!」と笑った。
「ふたりとも、おもしろいね。いつもそんな風に漫才してるの?」
「「していません!」」
真菜さんに抗議するように言い返すと、奈津美先輩と声が重なってしまった。台詞までバッチリ一緒だ。何となく恥ずかしくなって、これまたふたり揃って顔を赤くする。
すると真菜さんは、「息ピッタリだ」とさらに大きな声を上げて笑った。
もはや色々とドツボだ。何を言っても漫才になってしまう。
「いや~、おもしろいものを見せてもらっちゃった。ふたりとも、ありがとう!」
望まない感謝を受けた僕たちは、これでダブルノックダウン。醜い部内闘争は、こうして呆気なく幕切れとなった。
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