33 / 62
第三章 書架の暗号
3-3
しおりを挟む
「あ、戻ってきた。ふたりとも、お疲れ様」
棚の前には、陽菜乃さんが立っていた。たぶん、僕たちの様子を見に来たんだろう。
「どう? 何か困ったことや変わったことはない?」
その証拠に、陽菜乃さんはふわりと微笑みながら、仕事の状況を聞いてきた。
「いいえ。たまに子供たちから質問を受けるくらいで、困ったことは特にないです」
「それを困ったことがないって言えちゃうところが、一ノ瀬君のすごいところよね。普通の学生さんたちは、化粧室の場所を聞かれただけでも目を白黒させちゃうのに」
陽菜乃さんが、おかしそうにクスクスと笑う。どうやら褒めてもらえたらしい。
「それはそうと、もう四時を回ったから、そろそろ事務室に戻ろっか。ふたりとも今日で最後だから、課長たちに挨拶してきましょう」
奈津美先輩と揃って「はい!」と返事をする。
そうか。僕らがこの図書館のスタッフでいられるのも、あと一時間弱しかないんだ。ものすごく名残惜しい……。
その時だ。棚の影から児童書担当のパートさんが姿を現した。
「あ、清森さん。ちょうどいいところに」
「黒部さん? どうかしたんですか?」
駆け寄ってきたパートさんを、陽菜乃さんが首を傾げながら迎える。
「いやね、あっちの棚で、また例のイタズラが……」
「ああ、あれですか。ここのところは落ち着いていたのに、またやられましたか」
例のイタズラ? 何だか、あんまり穏やかじゃない感じだな。
何があったのか聞いてみたいところだけど、僕らが口出ししていいものか……。
「あの、陽菜乃さん。例のイタズラって何ですか?」
僕が逡巡している間に、奈津美先輩が果敢に突っ込んでいった。
奈津美先輩の空気を読めないところが、こんな時に役立つとは……! グッジョブです、先輩!
「ああ、イタズラって言っても、些細なものなんだけどね。ほら、あっちに最下段が開いている書架があるでしょ。その空いている棚に、本が何冊か勝手に並べられているのよ」
陽菜乃さんが、棚がある方を指さしながら言う。
確かに書架整理中、最下段が空いている棚を見た。あそこが事件現場か。
「けど、それだけじゃあ、イタズラとは言えないんじゃないですか。誰かが、読み終わった本を適当に入れていっただけかもしれませんし」
「これが一回や二回なら、私たちも一ノ瀬君と同じように思うわ。けど、七月の頭から、毎日のように本が置かれていたのよ。しかも、時間は決まって夕方四時頃で、職員の目がない隙に本が置かれているの」
これじゃあ、誰かが意図的にやっているとしか思いないでしょう? と、陽菜乃さんが困り顔で僕を見る。
うーん、そこまで来ると、やっぱりイタズラなのかな?
職員も忙しいから、ずっと同じ書架を見張っているわけにはいかない。隙をつくのは簡単だろう。ならば、職員をからかうための子供のイタズラというのは、十分に考えられる。
「夏休みに入った辺りからは、パタリと止んでいたんだけどね。またやり始めたんだとしたら、ちょっと困りものね」
陽菜乃さんが、悩まし気にため息をついた。
「その書架、ちょっと見に行ってもいいですか?」
「構わないわよ。私も一緒に行くわ。――黒部さん、本は私が配架し直しておきますので、お仕事を続けてください」
「そうですか? じゃあ、お願いしますね」
ぺこりと頭を下げて、パートさんが去っていく。
それを見送り、僕と奈津美先輩、陽菜乃さんは、件の書架へと移動した。
棚の前には、陽菜乃さんが立っていた。たぶん、僕たちの様子を見に来たんだろう。
「どう? 何か困ったことや変わったことはない?」
その証拠に、陽菜乃さんはふわりと微笑みながら、仕事の状況を聞いてきた。
「いいえ。たまに子供たちから質問を受けるくらいで、困ったことは特にないです」
「それを困ったことがないって言えちゃうところが、一ノ瀬君のすごいところよね。普通の学生さんたちは、化粧室の場所を聞かれただけでも目を白黒させちゃうのに」
陽菜乃さんが、おかしそうにクスクスと笑う。どうやら褒めてもらえたらしい。
「それはそうと、もう四時を回ったから、そろそろ事務室に戻ろっか。ふたりとも今日で最後だから、課長たちに挨拶してきましょう」
奈津美先輩と揃って「はい!」と返事をする。
そうか。僕らがこの図書館のスタッフでいられるのも、あと一時間弱しかないんだ。ものすごく名残惜しい……。
その時だ。棚の影から児童書担当のパートさんが姿を現した。
「あ、清森さん。ちょうどいいところに」
「黒部さん? どうかしたんですか?」
駆け寄ってきたパートさんを、陽菜乃さんが首を傾げながら迎える。
「いやね、あっちの棚で、また例のイタズラが……」
「ああ、あれですか。ここのところは落ち着いていたのに、またやられましたか」
例のイタズラ? 何だか、あんまり穏やかじゃない感じだな。
何があったのか聞いてみたいところだけど、僕らが口出ししていいものか……。
「あの、陽菜乃さん。例のイタズラって何ですか?」
僕が逡巡している間に、奈津美先輩が果敢に突っ込んでいった。
奈津美先輩の空気を読めないところが、こんな時に役立つとは……! グッジョブです、先輩!
「ああ、イタズラって言っても、些細なものなんだけどね。ほら、あっちに最下段が開いている書架があるでしょ。その空いている棚に、本が何冊か勝手に並べられているのよ」
陽菜乃さんが、棚がある方を指さしながら言う。
確かに書架整理中、最下段が空いている棚を見た。あそこが事件現場か。
「けど、それだけじゃあ、イタズラとは言えないんじゃないですか。誰かが、読み終わった本を適当に入れていっただけかもしれませんし」
「これが一回や二回なら、私たちも一ノ瀬君と同じように思うわ。けど、七月の頭から、毎日のように本が置かれていたのよ。しかも、時間は決まって夕方四時頃で、職員の目がない隙に本が置かれているの」
これじゃあ、誰かが意図的にやっているとしか思いないでしょう? と、陽菜乃さんが困り顔で僕を見る。
うーん、そこまで来ると、やっぱりイタズラなのかな?
職員も忙しいから、ずっと同じ書架を見張っているわけにはいかない。隙をつくのは簡単だろう。ならば、職員をからかうための子供のイタズラというのは、十分に考えられる。
「夏休みに入った辺りからは、パタリと止んでいたんだけどね。またやり始めたんだとしたら、ちょっと困りものね」
陽菜乃さんが、悩まし気にため息をついた。
「その書架、ちょっと見に行ってもいいですか?」
「構わないわよ。私も一緒に行くわ。――黒部さん、本は私が配架し直しておきますので、お仕事を続けてください」
「そうですか? じゃあ、お願いしますね」
ぺこりと頭を下げて、パートさんが去っていく。
それを見送り、僕と奈津美先輩、陽菜乃さんは、件の書架へと移動した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -
設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる