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第五章 宝探し
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「悠里君、ずっとここにいて、クラスの方は大丈夫なの?」
「うちのクラスはポスター展示だけですから、文化祭中は自由にしていて問題ありません。みんな文化祭期間中は思いっきり遊びたいってことで、この出し物になりました」
「なるほど。賢い選択ね」
「ありがとうございます。先輩こそ、ずっとここにいて大丈夫なんですか? 確か、クラスでメイド喫茶店をやっているんですよね」
ソファーに座って本を読んでいる奈津美先輩に、問い掛け返す。この人も、僕と同じく今朝からずっと部室にいる。クラスの手伝いに行く気配はない。
「私の当番は、今日の午後からなの。だから、まだここにいても大丈夫よ」
奈津美先輩が掛け時計の方を見ながら微笑んだ。時計が差す時刻は午前十時だ。確かに、余裕である。
「あ、そうそう。私が当番をしている間に、うちのクラスに来ちゃダメよ」
「どうしてですか?」
「だって恥ずかしいじゃない。――いい? これは部長命令よ。絶対に来ちゃダメだからね」
「わかりました。万難を排して先輩のメイド姿を見に行きます。ああ、楽しみだな~」
駄目だと言われると、ついついやりたくなってしまう。僕は、「来るな」と念を押す奈津美先輩に、満面の笑顔で返事をした。
あれこれ悩みつつもこれだけ軽口を叩けるのだから、僕も奈津美先輩ほどではないが、相当図太いか鈍感なのかもしれない。もしくは、単に一年半も奈津美先輩と漫才のようなやり取りを続けてきた成果か。条件反射的に軽口が出てきたところを見るに、後者の可能性の方が高いと思われる。僕も随分と鍛えられたものだ。
一方、奈津美先輩は「悠里君は本当に意地が悪いわね」と言って頬を膨らませた。見ていて思わず和んでしまう。
すると、穏やかに笑う僕が気に入らなかったのだろう。奈津美先輩が眉を逆立てて、僕を指さした。
「むしろ、悠里君がメイド服を着て、先輩兼部長である私に給仕しなさい。大丈夫。悠里君なら、絶対にメイド服が似合うから!」
「わけわからないことを言わないでください。何で僕が先輩のクラスで給仕をやらなきゃいけないんですか。第一、僕は死んでもメイド服なんて着ません」
「む~。じゃあ、悠里君は私が当番の間、文集の警備をしていなさい。いい? これは部長命令よ」
「文集の警備は僕が行くまでもなく間に合っています。安心してください」
「む~! む~!」
いちいち反論をぶつけていたら、奈津美先輩が駄々をこねる子供のように握った拳を上下に振った。その姿を見て、僕はより一層和んでしまう。
コロコロ変わる奈津美先輩の表情を見ていたら、なぜか色んな悩みを忘れられた。前にも思ったが、やはり僕はSなんだろうか。
ちなみに、僕ら書籍部の出し物である手製本文集『アルカンシエル』は、図書室に展示してある。図書委員会との合同展示という扱いだ。図書室には常に文化祭担当の図書委員が詰めているので、こちらもあとはお任せ状態だ。
よって、僕は本当にやることがない。精々、明日の勝負に向けて、英気を養っておくくらいだ。
奈津美先輩を適当にからかっているうちに時間は過ぎていき、あっという間に十二時を回った。少し早目に昼食を取った奈津美先輩は、カバンを手に資料室から出て行く……と思ったら、書架の間から眉根を寄せた顔を覗かせた。
「いい、悠里君。絶対に来ちゃダメだからね!」
「はいはい。他ならぬ先輩の命令ですからね。……善処します」
命令を守る、とは言っていない。
「ホントにホントだからね。じゃあ、行ってきます!」
「お気を付けて~」
ドタバタと出て行く奈津美先輩を、のんびりと見送る。
さて、僕も出かける準備をするか。どうせここにいたって、あれこれ答えの出ない考え事をしてしまうだけだ。だったら、文化祭を楽しんでいた方が建設的だし、精神衛生上も好ましい。
僕は財布と資料室の鍵を手に、賑やかな文化祭へと繰り出していった。
「うちのクラスはポスター展示だけですから、文化祭中は自由にしていて問題ありません。みんな文化祭期間中は思いっきり遊びたいってことで、この出し物になりました」
「なるほど。賢い選択ね」
「ありがとうございます。先輩こそ、ずっとここにいて大丈夫なんですか? 確か、クラスでメイド喫茶店をやっているんですよね」
ソファーに座って本を読んでいる奈津美先輩に、問い掛け返す。この人も、僕と同じく今朝からずっと部室にいる。クラスの手伝いに行く気配はない。
「私の当番は、今日の午後からなの。だから、まだここにいても大丈夫よ」
奈津美先輩が掛け時計の方を見ながら微笑んだ。時計が差す時刻は午前十時だ。確かに、余裕である。
「あ、そうそう。私が当番をしている間に、うちのクラスに来ちゃダメよ」
「どうしてですか?」
「だって恥ずかしいじゃない。――いい? これは部長命令よ。絶対に来ちゃダメだからね」
「わかりました。万難を排して先輩のメイド姿を見に行きます。ああ、楽しみだな~」
駄目だと言われると、ついついやりたくなってしまう。僕は、「来るな」と念を押す奈津美先輩に、満面の笑顔で返事をした。
あれこれ悩みつつもこれだけ軽口を叩けるのだから、僕も奈津美先輩ほどではないが、相当図太いか鈍感なのかもしれない。もしくは、単に一年半も奈津美先輩と漫才のようなやり取りを続けてきた成果か。条件反射的に軽口が出てきたところを見るに、後者の可能性の方が高いと思われる。僕も随分と鍛えられたものだ。
一方、奈津美先輩は「悠里君は本当に意地が悪いわね」と言って頬を膨らませた。見ていて思わず和んでしまう。
すると、穏やかに笑う僕が気に入らなかったのだろう。奈津美先輩が眉を逆立てて、僕を指さした。
「むしろ、悠里君がメイド服を着て、先輩兼部長である私に給仕しなさい。大丈夫。悠里君なら、絶対にメイド服が似合うから!」
「わけわからないことを言わないでください。何で僕が先輩のクラスで給仕をやらなきゃいけないんですか。第一、僕は死んでもメイド服なんて着ません」
「む~。じゃあ、悠里君は私が当番の間、文集の警備をしていなさい。いい? これは部長命令よ」
「文集の警備は僕が行くまでもなく間に合っています。安心してください」
「む~! む~!」
いちいち反論をぶつけていたら、奈津美先輩が駄々をこねる子供のように握った拳を上下に振った。その姿を見て、僕はより一層和んでしまう。
コロコロ変わる奈津美先輩の表情を見ていたら、なぜか色んな悩みを忘れられた。前にも思ったが、やはり僕はSなんだろうか。
ちなみに、僕ら書籍部の出し物である手製本文集『アルカンシエル』は、図書室に展示してある。図書委員会との合同展示という扱いだ。図書室には常に文化祭担当の図書委員が詰めているので、こちらもあとはお任せ状態だ。
よって、僕は本当にやることがない。精々、明日の勝負に向けて、英気を養っておくくらいだ。
奈津美先輩を適当にからかっているうちに時間は過ぎていき、あっという間に十二時を回った。少し早目に昼食を取った奈津美先輩は、カバンを手に資料室から出て行く……と思ったら、書架の間から眉根を寄せた顔を覗かせた。
「いい、悠里君。絶対に来ちゃダメだからね!」
「はいはい。他ならぬ先輩の命令ですからね。……善処します」
命令を守る、とは言っていない。
「ホントにホントだからね。じゃあ、行ってきます!」
「お気を付けて~」
ドタバタと出て行く奈津美先輩を、のんびりと見送る。
さて、僕も出かける準備をするか。どうせここにいたって、あれこれ答えの出ない考え事をしてしまうだけだ。だったら、文化祭を楽しんでいた方が建設的だし、精神衛生上も好ましい。
僕は財布と資料室の鍵を手に、賑やかな文化祭へと繰り出していった。
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