世界に忌み嫌われた俺が、幼馴染との再会をきっかけに"救世の英雄"になるまで

まっさん

文字の大きさ
2 / 17
異端の翼

禁忌の祓魔師-2

しおりを挟む



冷たい夜の風が、錆びついた鉄骨を軋ませる。

廃工業団地──そこは、長年放棄され、朽ち果てた金属とコンクリートが無造作に積み上げられた”死の街”。
街灯の光も届かず、闇だけが支配する場所。

そこに、異様な空気が漂っていた。

血の匂い。

鼻を刺すような、鉄臭さと死の香り。
普通の人間ならば、一歩足を踏み入れただけで本能的な拒絶反応を覚えるだろう。

だが──俺は違った。

「……いや、あまりにもそれっぽすぎるだろ」

ボソリと独りごちる。

崩れかけた建物。ひび割れたアスファルト。
無機質なはずの構造物が、どこか生々しく歪んで見えるのは、そこに”異質な存在”が入り込んでいるからだ。

朽ち果てた工場の奥に、確かに感じる。



バイクを隠し、夜喰やくいの柄に軽く触れながら進む。

ここからは”戦場”だ。油断は、命取りになる。

深く息を吸い込み、思考を研ぎ澄ませた。



暗闇の中、何かが”這い回る”音が聞こえた。

ザリ……ザリ……ギチギチ……

……蜘蛛か?

否。

壁の上、天井の梁の上、建物の影――四方八方から、“それ”は忍び寄っていた。

ギチギチと異様に軋む関節。

赤く染まった双眸が、不規則な動きで光を反射する。

眷属。

元は人間だったはずの”それ”は、今やただの異形。

──身体は皮膚が裂け、指の先は異常に伸び、骨が浮き上がっている。

関節は完全に逆向きに曲がり、蜘蛛のような異常な動きで壁を這いずり回る。
口元は裂け、牙が異常に伸びている。

そいつらが、一斉に「ギイイ……」と、不快な唸りを上げた。

気づかれたか。

俺は静かに愛刀、夜喰やくいの鞘を握った。

「……始末するか」

次の瞬間、俺の姿は”闇に溶ける”ように消えた。

──刹那の刃

ザンッ──!

鋼が風を切る音。

一閃。

俺が着地した瞬間、眷属たちは膝をついた。

刹那の間に、“喉を断ち”、“心臓を貫き”、“脊髄を断ち切った”。

無駄な叫びを上げる暇すら与えず、沈黙させる。

だが――

「ッ……!!」

俺は、ほんの一瞬、躊躇った。

消滅する間際、眷属の瞳に浮かんでいたのは──

苦悶と、解放の入り混じった感情。

“救い”を求めるような目。

だが、それを気にしている暇はない。

俺は夜喰を軽く振り、血の跡を払った。

そして──次の敵を探しながら進む。



静寂の闇の中、微かな”悲鳴”が聞こえた。

「ッ……チッ」

俺は身を潜め、音のする方へと向かう。

そこには、一人の少女が眷属に追われていた。

「……攫われた人間か?」

眷属たちは、歯を剥き出しにしながら、少女を包囲するようにジリジリと距離を詰めていく。

少女は怯えた目で後ずさるが、背後はすでに壁。

──逃げ場はない。

「面倒なことになったな……」

だが、放っておく理由もない。

俺は静かに夜喰を構え、闇の中から”狩る者”として姿を現した。

ザシュッ──!

一瞬の剣閃。

眷属たちは、断末魔を上げる間もなく消滅した。

その音に気づいた少女が、俺の方を振り向く。

次の瞬間、彼女は震えながら──

俺に、しがみついてきた。

「……っ!」

「ちょっ、急に抱きつくな!」

「す、すいません……っ」

彼女はぐずぐずと泣きながら、必死に俺にしがみついている。

俺は思わず狼狽し、彼女の肩に手を置いた。

「とりあえず落ち着ける場所に移動しよう」

俺は彼女の肩をそっと引き剥がし、廃工場の影へと移動した。

「助けてくれて、ありがとうございます……」

少女は小さく礼を言い、かすれた声で続ける。

「私は……美琴みことです」

「美琴、か。俺は朔夜だ」

「……朔夜さん」

彼女の目は怯えながらも、どこか安心したような色を帯びていた。

俺は短く息を吐き、問いかける。

「美琴、お前は何でここにいる?」

「……知らない人たちに囲まれて……気づいたら、こんな場所に連れてこられていました……」

「……そうか」

やはり、“餌”として捕らえられていたらしい。

俺は、彼女の首筋に”微かな牙の跡”を見つけた。

「……お前、血を吸われたのか?」

美琴は、震えながら頷いた。

最悪だな。

吸血鬼は、直接魂を喰らうのではなく、血を通して少しずつ”魂を蝕んでいく”。

つまり、美琴の魂は”少しずつ削られている”状態。

「……美琴、吸血鬼の居場所は分かるか?」

「いえ……私はずっと暗い部屋に閉じ込められていたので……」

「そっか」

俺は目を細め、考える。

ここで美琴を置いていくのは危険だ。

「美琴、お前も連れて行く。ただし、俺の指示には絶対に従え」

「……分かりました」

少女は不安げながらも、小さく頷いた。

俺は夜喰を握り直し、ゆっくりと立ち上がる。

「よし、行くか」

俺たちは、吸血鬼の元へ向かうため、再び”闇の中”へと足を踏み入れた。





物陰から慎重に様子を伺う。

闇の中、赤黒い光がちらついている。

──そこにいたのは、獲物に牙を突き立てる吸血鬼だった。

人間の首筋に喰らいつき、血を吸う音が静寂を切り裂く。

吸われている人間はすでに意識を失い、蒼白い顔で痙攣している。

……だが、まだ完全には死んでいない。

血を抜かれながらも、魂が消える寸前で止められている。

まるで、喰らう快楽を長く味わうかのように。

その場面を見た瞬間、俺は殺意を隠せなくなった。

──その時だった。

「……おや?」

吸血鬼がふと動きを止め、顔を上げる。

吸血行為の最中にも関わらず、まるで獲物に気づいた捕食者のように、辺りの空気を嗅ぐように鼻をひくつかせた。

「これは……ずいぶん変わった血の匂いだな?」

気配じゃなく”血の匂い”で俺の存在を察知したか。
もう隠れている意味はない。

俺は堂々と姿を現し、吸血鬼と対峙する。

「おやおや……祓魔師か」

吸血鬼は赤い唇を血で濡らしながら、余裕たっぷりの微笑みを浮かべた。

「上手く存在を誤魔化せていたつもりだったが、どうやら随分と鼻が利くヤツがいたようだ」

吸血鬼は、目の前の人間を無造作に放り投げた。

血を吸われた男が地面に叩きつけられ、虚ろな目でこちらを見ている。

「クソが……」

怒りが胸を満たす。

だが、吸血鬼はあくまで余裕を崩さず、漆黒のコートの裾を軽く払った。

「私の名はヴァルドリオ」

彼はゆっくりと胸に手を当て、優雅に一礼する。

「ようこそ”血の宴”へ」

ヴァルドリオは軽く指を鳴らす。

「お前の赤も、私の中で踊るだろう?」

吸血鬼の楽園

その瞬間、空気が変わった。

気配が一変する。

俺はすかさず構えを取る。

血霧隠しブラッド・ミスト

ヴァルドリオが呟くと、足元から赤黒い霧が発生した。

一瞬のうちに霧は広がり、辺りを包み込む。
──視界が奪われた。

「どうだい? 何も見えないだろう?」

霧の向こうから、嘲笑混じりの声が響く。

「安心しろ。私にはお前の心臓の音が聞こえている」

ドクン、ドクン──

確かに、血が脈打つ音がやけに大きく聞こえる。

「この霧の中では、お前の鼓動、血流、呼吸の全てが私には丸分かりだ……さあ、どうやって逃げる?」

「ハッ、見えてりゃ関係ねぇ」

俺は迷わず夜喰を構えた。

「《霧切り》」

──一瞬の踏み込み。

剣圧が霧を裂くように走る。

視界を遮る赤黒い靄が一瞬だけ散り、ヴァルドリオの姿が露わになる。

「っ……!?」

ヴァルドリオは反射的に身を翻したが、すでに遅い。

シュッ──!

顔に一筋の切り傷が走る。

「ほう……いい刃だな」

ヴァルドリオは、頬を伝う自らの血を指で拭い、舐めるように笑った。

「この私に傷をつけるとは……少しは楽しめそうだ」

「……遊びに付き合う気はねぇよ」

俺は刀を振り、再度構える。

「《交叉斬り》」

刃がX字に交差する軌道で襲い掛かる。

だが、ヴァルドリオもまた、ただの悪魔ではない。

「愚かな──血槍撃ブラッド・ランス

地面から無数の血の槍が飛び出し、俺を狙う。

俺はすぐさま《月影連斬》で槍を斬り払いながら接近。

刀に焔を纏わせ、一気に斬撃を叩き込む。

「《焔纏い》!」

焔の刃がヴァルドリオの胸元を抉る。

「ぐっ……!」

ヴァルドリオは一瞬たじろぐが、すぐに笑みを浮かべる。

傷口から滲んだ血が、触れる端から燃え上がり、再生を妨げていた。

「再生阻害……か。なるほど、厄介な能力を持っているな」

ヴァルドリオは僅かに後退しながら、目を細める。

「だが……」

「なぁんだ、大したことないな」

俺は余裕を見せるように呟く。

「所詮、進化したばかりの3級悪魔か」

──それは、悪魔にとって最大の屈辱だった。

ヴァルドリオの顔から笑みが消える。

代わりに、憤怒の炎がその赤い瞳に灯った。

「……き、貴様……!!」

指先が震えるほどに握り込まれる。

「私を……舐めるなよ、祓魔師!私の世界で血と踊れ!」

怒号と共に、ヴァルドリオは天に向かって両手を掲げた。

──その瞬間、周囲の空気が揺らぐ。

まるで世界そのものが悲鳴を上げるかのように、空間が歪み始めた。

堕落楽園ルシフェリア・エデン──!」

──血の世界が顕現する。

辺り一面が赤黒く染まり、天には”血の月”が浮かぶ。

空気は重く、異質な魔力の波動が肌を刺すように感じられる。

「──ようこそ、私の楽園へ」

ヴァルドリオは唇を吊り上げながら、腕を広げる。

「さぁ、祓魔師よ……お前の血を、私のものにしよう」

俺は静かに夜喰刀を握り直す。
それと同時に、俺の唇にも無意識の笑みが浮かんでいた。

「……へぇ、面白くなってきたじゃねぇか」

“悪魔の本気”を拝ませてもらうとするか──。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...