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04 王女とバレてしまったからには越権だろうと口を塞ぎたい
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「……あ、あの……」
騎士の声が掠れる。
「はい。貴方の女神セシリアです」
「はぁ……」
見つめあう一秒ごとに、胸が熱くなっていく。
「夢ではありません」
「そっくりさ……」
「セシリアです」
騎士は突然、滝のような汗をかいて震え出した。
「おっ、おっ、おっ、王女様……!? こんなところでなにを……ッ!?」
「貴方が先ほど言っていたように、妹の結婚が悔しくて部屋で泣いておりましたら花嫁道具というものが見てみたくなってしまったのです。私は、用意してもらった事もありませんから……」
「くはぁっ」
彼は私のファンと言った。
私を女神と言った。
だったら、甘えても許されるはず。
「きっと一生、花嫁衣裳も着る事がないでしょう。だって私、……魔女って、蔑まれてますもの」
「おっ、おっ? おっ。王女様……!?」
「なに?」
逃げていきそうな手を両手できゅっと握って、握って……握って、離さない。
離すもんですか!
「ほっ、ホンモノ!?」
「ええ。セシリアです」
「ふぁーーーっ!」
騎士は私と手をつないだまま、がくりと頽れた。
肩で息をしながら、なにやら独り言を呟いている。高速で口走っていると言ってもいい。
「……」
彼は今、正気を失っている。
「貴方」
「はい!?」
「私を斬ろうとしましたね?」
「────」
彫刻のように美しい彼は、彫刻になった。
そう、私は見られてはいけない姿を見られてしまった恥ずかしい王女。
でも、この忌々しい肉体を悪用しなくたって、騎士の口ひとつ塞ぐのは難しい事ではない。
なぜならこの国の第一王女だから!
(そして彼にとっては女神だから!)
「もしこの事が国王の耳に入」
「妹の花嫁道具っすよね?」
「────」
な ん で す っ て ?
「いくらなんでも、一国の王女様が妹の結婚ぶち壊しちゃだめでしょう! 国益に関わりますよ。大問題だ。それに魔女だ淫乱だなんていうのはみんな根も葉もない当てこすりだってわかって言ってるんです。でもこうなったら話は変わってきますよね? だって妹の花嫁衣裳破こうとして、もったいなくて着ようとして、パツパツで入らなくて泣きながらそっと畳んだ後は、舐めるような目線で一品ずつ品定めしていたんですからッ」
「……貴方……っ」
見 て い た の ね …… !!
「嫉妬に狂った惨めな行き遅れ王女ってバレたら、恥ずかしいですよねえっ!? そんなの嫌ですよねッ? だったらこれは俺たちふたりだけの秘密じゃあないですかッ!? 貴女が忍び込んだ事も、俺が斬ろうとした事も、だれにも言わなきゃ、だれも気付かない……ッ!!」
彼も命が掛かっている。
一介の騎士が王女を手にかけようとしたなど、ギロチン超特急だ。
「そっ、そうね、貴方の言うとおりだわ。それじゃあ、今日の事はお互い忘れましょう……」
「喋りたい……ッ!」
「えええっ!?」
騎士が悶えている。
私も悶えてしまう。
「でもでもだって、貴方っ、今ふたりだけの秘密にしようって言ったじゃない!」
「嫉妬に狂うセシリアも爆乳エロムチボディも騎士を出し抜く見事な防御も、とても俺ひとりの胸にしまっておけないぃぃぃ……くはっ」
「なっ」
っていうか、呼び捨て。
「それに……それに俺は、俺は……!」
「?」
「セシリアと握手したんだぁぁぁぁあああああッ!! ──自慢したい」
愕然と彼を見つめた。
そうだ。彼は言っていた。
隠れファンが、多いって。
「あ……まっ、早まらないで……っ」
ダメ。
せっかく私を好いてくれている人たちに、こんな恥ずかしい姿を知られてしまうなんて。
「セシリアと握手。セシリアと握手。セシリアと握手。セシ(はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ)」
「──!」
だめえぇぇぇっ!!
「いいわ!」
「!?」
私は、なぜそんな事をしてしまったのかわからない。
きっと、彼の口を塞ぎたい一心で、理性を失っていたのだ。
「この胸を貴方にあげる!!」
「──!?」
騎士の手を、胸に、押し付けていた。
騎士の声が掠れる。
「はい。貴方の女神セシリアです」
「はぁ……」
見つめあう一秒ごとに、胸が熱くなっていく。
「夢ではありません」
「そっくりさ……」
「セシリアです」
騎士は突然、滝のような汗をかいて震え出した。
「おっ、おっ、おっ、王女様……!? こんなところでなにを……ッ!?」
「貴方が先ほど言っていたように、妹の結婚が悔しくて部屋で泣いておりましたら花嫁道具というものが見てみたくなってしまったのです。私は、用意してもらった事もありませんから……」
「くはぁっ」
彼は私のファンと言った。
私を女神と言った。
だったら、甘えても許されるはず。
「きっと一生、花嫁衣裳も着る事がないでしょう。だって私、……魔女って、蔑まれてますもの」
「おっ、おっ? おっ。王女様……!?」
「なに?」
逃げていきそうな手を両手できゅっと握って、握って……握って、離さない。
離すもんですか!
「ほっ、ホンモノ!?」
「ええ。セシリアです」
「ふぁーーーっ!」
騎士は私と手をつないだまま、がくりと頽れた。
肩で息をしながら、なにやら独り言を呟いている。高速で口走っていると言ってもいい。
「……」
彼は今、正気を失っている。
「貴方」
「はい!?」
「私を斬ろうとしましたね?」
「────」
彫刻のように美しい彼は、彫刻になった。
そう、私は見られてはいけない姿を見られてしまった恥ずかしい王女。
でも、この忌々しい肉体を悪用しなくたって、騎士の口ひとつ塞ぐのは難しい事ではない。
なぜならこの国の第一王女だから!
(そして彼にとっては女神だから!)
「もしこの事が国王の耳に入」
「妹の花嫁道具っすよね?」
「────」
な ん で す っ て ?
「いくらなんでも、一国の王女様が妹の結婚ぶち壊しちゃだめでしょう! 国益に関わりますよ。大問題だ。それに魔女だ淫乱だなんていうのはみんな根も葉もない当てこすりだってわかって言ってるんです。でもこうなったら話は変わってきますよね? だって妹の花嫁衣裳破こうとして、もったいなくて着ようとして、パツパツで入らなくて泣きながらそっと畳んだ後は、舐めるような目線で一品ずつ品定めしていたんですからッ」
「……貴方……っ」
見 て い た の ね …… !!
「嫉妬に狂った惨めな行き遅れ王女ってバレたら、恥ずかしいですよねえっ!? そんなの嫌ですよねッ? だったらこれは俺たちふたりだけの秘密じゃあないですかッ!? 貴女が忍び込んだ事も、俺が斬ろうとした事も、だれにも言わなきゃ、だれも気付かない……ッ!!」
彼も命が掛かっている。
一介の騎士が王女を手にかけようとしたなど、ギロチン超特急だ。
「そっ、そうね、貴方の言うとおりだわ。それじゃあ、今日の事はお互い忘れましょう……」
「喋りたい……ッ!」
「えええっ!?」
騎士が悶えている。
私も悶えてしまう。
「でもでもだって、貴方っ、今ふたりだけの秘密にしようって言ったじゃない!」
「嫉妬に狂うセシリアも爆乳エロムチボディも騎士を出し抜く見事な防御も、とても俺ひとりの胸にしまっておけないぃぃぃ……くはっ」
「なっ」
っていうか、呼び捨て。
「それに……それに俺は、俺は……!」
「?」
「セシリアと握手したんだぁぁぁぁあああああッ!! ──自慢したい」
愕然と彼を見つめた。
そうだ。彼は言っていた。
隠れファンが、多いって。
「あ……まっ、早まらないで……っ」
ダメ。
せっかく私を好いてくれている人たちに、こんな恥ずかしい姿を知られてしまうなんて。
「セシリアと握手。セシリアと握手。セシリアと握手。セシ(はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ)」
「──!」
だめえぇぇぇっ!!
「いいわ!」
「!?」
私は、なぜそんな事をしてしまったのかわからない。
きっと、彼の口を塞ぎたい一心で、理性を失っていたのだ。
「この胸を貴方にあげる!!」
「──!?」
騎士の手を、胸に、押し付けていた。
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