婚約破棄になりかけましたが、彼は私がいいそうです。

百谷シカ

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7 暖かい冬を

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 秋の終わり、雪が降る前に。
 生まれ育ったサント領へ数日間の里帰りをするのが、結婚してからの習慣だった。でも去年は産後すぐだったので、春に妹を招く形で再会したのだ。

 あれから半年余り。


「お姉様。長旅お疲れ様でした」

「オクタヴィア……!」


 詰襟のドレスをかっちり着こなす妹は、凛としていて美しい。
 女伯爵として生きる妹の立派な姿を見て、熱い想いがこみあげる。

 外套を急いで脱いで、私は妹に駆け寄り抱きしめた。


「会いたかったわ」

「ええ、私も。お元気そうでなによりです」


 微笑む妹の顔が、はっきり見える。
 眼鏡のおかげで私の世界は驚くほど光り輝いた。我が子と同じくらい、妹の表情がいつでもどこからでもよく見えるのが本当に嬉しい。嬉しくてたまらない。


「さあ、こちらへ。暖炉であたたまってください」


 妹がいつものように、暖炉の間に誘導してくれた。
 もう周囲がよく見えているけれど、妹がいつも私を支えて歩き回ってくれた生家を並んで歩くのは、感動以外のなにものでもない。

 夫と子供たちと乳母と、そして妹と、妹の雇った新しい使用人と。
 私たちは和やかな時間を過ごした。


「見て」


 夕食後の団欒で、私は新しいショールを妹に渡した。
 

「ああ、また腕をあげましたね。ありがとうございます」


 妹が目を細めて、両手でそっと、受け取ってくれる。
 そして慣れた手つきで羽織ったり、首に巻いたりと使い心地を確かめる。


「年ごとに増えていくので心強いです。お姉様のショールがないと、秋冬春は過ごせません」

「役に立てて嬉しいわ。あたたかくして過ごしてね」

「はい。お姉様、もしよかったら来年は膝掛をお願いできますか?」

  
 思わぬリクエストに心が弾んだ。


「ええ、もちろんよ!」

「座ったまま書類仕事をしていると、だんだん足が石になっていくようで」

「大変だわ。もう、すぐにでも編み始めるわ!」

「来年が楽しみです。今年はショールを重ねて乗り切ります」


 そこへ、新しい執事が顔を出した。


「ご主人様。ジェラルド様より贈り物が届きました」

「また?」


 妹がぐるんと目を回して執事を睨んだ。


「はい。随分と熱烈でいらっしゃいます」

「他にやる事はないのかしら。ないのよ。ない。それが呑気な三男坊。ハァ」

「オクタヴィア?」


 額を押さえる妹の、ほんのりと頬が染まった呆れ顔を覗き込む。

 カメルレンゴ侯爵令息ジェラルド・ジンガレッティ様が、サント伯爵レディ・サントに夢中……という噂は私も聞いているけれど、これは満更ではない様子。


「まあっ。まあ、まあ……っ」


 私までときめいて、頬が熱くなってしまう。
 

「包を開けたらどうだい? オクタヴィア」


 子供を膝に乗せてあやしながら促す夫まで、妹は睨んだ。


「早く返事を書かないと本人が乗り込んでくるぞ」


 夫が揶揄うように言うと、ついに妹は颯爽と立ちあがり、執事から箱を受取り、その場で開いて、美しい毛皮の外套を広げた。


「まあ……!」


 素敵!!
 目が眩むほどの、光沢と毛並み。スマートなシルエットが上品で落ち着いた雰囲気の妹によく似合う。


「無駄遣いはおよしになってと書かなければ」


 そう言いながら、妹は丁寧に畳んで箱に戻した。
 真顔だけれど、やっぱり、頬がほんのりと赤い。


「……」


 胸の中が、熱く、煌めく。

 妹が素敵な人に愛されて、幸せな花嫁になる。
 そんな風景が、はっきりと思い描けた。

 次は妹の番だ。

 美しくて優しい、私の愛するオクタヴィア。
 もっと、もっと、幸せになって。



                              (終)
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