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7 爆速フォーリンラブ
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「お気持ちは尤もだ、レディ・モリー。この通り、心からお詫びします」
ピタァァァァァァッ、と。
脳天から尾てい骨まで一直線の、世にも美しい頭の下げ方に私もハッと我に返った。
「あ、いえ。その」
「モォリィ~~ぃんっ!!」
「!?」
巨体がすっ飛んでくる。
「ヒィッ!」
と、デビッドが怯えたので、母がその尻を叩いた。
「んぐふっ」
「ごめんなさいっ、モリー! 私っ、私……本当に無神経だったわっ!!」
「いえ、そうじゃなくて……!」
「私……っ」
キャスリンがほろほろと涙を零し、力なく崩れ落ちた。
それでも、頭が私のみぞおちにくるんだけど。
なんて大きいの、キャシー。
「私……っ、どうしても……結婚したかったの……っ」
「……」
切実に泣き崩れる姿に、胸が痛む。
だって、好き好んでこの容姿に生まれたわけじゃないんだもの。
「わかってるわ」
慰めずにはいられない。
寄り添う目的で折った膝を改めて伸ばし、腰を曲げて肩に手を添えた。
……肩パットじゃなかったのね、キャシー。
「あなたを責めたんじゃないの。私が言いたかったのはつまり……」
兄 が 美 麗 で 妹 は ゲ テ モ ノ っ て ど う い う 地 獄 よ っ て 事 な ん だ け ど と て も そ う は 言 え な い か ら
「あなたはもっと愛されるべきだって事」
嘘じゃない。
私は最善を尽くしたに過ぎない。
「モリィ……っ」
「いい結婚相手を見つけるのが父兄の義務よ。あなたたちは、当然の事をしたまでだわ」
「レディ・モリー……」
兄妹が感極まった表情で私を見つめる。
同時に見つめるのは、やめてほしい。
「まったく、不甲斐ないばかりです」
兄のほうが先に目を逸らし、私は安堵の溜息を洩らした。
「母親のいないキャスリンを、なんとか幸せな花嫁にしようと父とふたりであれこれ画策したのですが……」
「え?」
母親が、いない?
とても特殊な誕生の仕方をしたのだとしても、ふしぎじゃないけど……
「キャスリンのために、あなたの心を傷つけてしまった」
兄妹は本気で心を痛めているようだった。
私は傷ついてはいない。
困惑しているだけ。
「あの……誤解してほしくないのだけど、彼に未練があるって意味じゃなくて、純粋に疑問だから訊くのだけれど……」
兄妹は、躊躇いながら言葉を紡ぐ私に、傾聴の見本と言っても過言ではない態度で耳を傾けている。
気まずい。
目が、今日だけ見えなければいいのに。
泣けばいいのかしら。
…………………………………………出ないわ。
私は意を決して禁断の言葉を口にした。
「許婚を一目惚れなんて理由で棄てるような男でいいの?」
「薄情な裏切り者だ」
父が便乗。
「私はいいのよ。もうデビッドは必要ない。でも、あなたのような善い人に、こんな軟弱で薄情で無責任で身の程知らずな浮気者は、ぜんぜん相応しくない。あなたにはもっといいお相手がいるはずよ」
「……モリィん……」
「モリーよ。発音はモリー」
ばっさばさの睫に覆われたくりっくりな目がキラキラ私を見つめる。
呑み込まれそうだけれど、きっと安全なはずよ、モリー。
気を確かに。目技なら負けない。
「いいの」
しょんぼりでもしっとりでもなく、キャスリンはときめきに頬を染めた。
「私は自分がどういう姿をしているかわかっているわ。だから、結婚なんてどんなに望んでも手の届かない夢だって思ってた。そんな私に、デビッドは求婚してくれた。私は幸せを感じたの。幸せよ。それだけでいいの。それだけで、彼のために生きたいって思える。彼を愛しているの。彼が私を、本当はどう思っていたとしても」
「……ああ、キャシー」
私はキャスリンの頭を胸に抱いた。
覚悟したより大きかったけれど、とても愛しく感じた。
母親がいない?
なんなら私がママになってもいいわ。大きさは関係ない。どんなに大きくったって母性の前には天使ちゃんは他の何者でもなく天──
「キャシー……っ!」
────え?
「デビッド……?」
むくり、と。
キャスリンが私の胸から顔をあげる。
私は恐る恐る首を回した。
「……」
デビッドが頬を染めていた。
「…………」
え。
なんで?
やっぱり夢???
「キャシー。キャスリン。僕は……間違っていたよ!」
すたっ。
デビッドが私の隣に跪く。
そしてキャスリンの手を恭しくとり、包み込……めはしなかったけれど、それらしく握った。
私はスッと場を譲った。
見つめあうふたり。
もちろんデビッドがキャスリンを見あげている。
「君は身も心も世界一美しい女性だ。僕が馬鹿だった。許してほしい」
「……デビちゃん……」
「改めて申し込むよ。キャスリン・グウィルト、僕と結婚してください」
私は目を逸らした。
無論、嫉妬じゃない。
──と、そのとき。
「!?」
私の前にイケメンプリンスが跪いた。
「えっ、なっ、なにっ!?」
「モリー・ドノヴァン。君は素晴らしい女性だ。どうか私の妻になってください」
「……………………」
こ の 状 況 で ?
「────!」
むかつく。
なに考えてるのこのクソイケメンプリンス。
「バカ言ってんじゃないわよッ!!」
怒鳴ったわよ。
当然でしょ。
ピタァァァァァァッ、と。
脳天から尾てい骨まで一直線の、世にも美しい頭の下げ方に私もハッと我に返った。
「あ、いえ。その」
「モォリィ~~ぃんっ!!」
「!?」
巨体がすっ飛んでくる。
「ヒィッ!」
と、デビッドが怯えたので、母がその尻を叩いた。
「んぐふっ」
「ごめんなさいっ、モリー! 私っ、私……本当に無神経だったわっ!!」
「いえ、そうじゃなくて……!」
「私……っ」
キャスリンがほろほろと涙を零し、力なく崩れ落ちた。
それでも、頭が私のみぞおちにくるんだけど。
なんて大きいの、キャシー。
「私……っ、どうしても……結婚したかったの……っ」
「……」
切実に泣き崩れる姿に、胸が痛む。
だって、好き好んでこの容姿に生まれたわけじゃないんだもの。
「わかってるわ」
慰めずにはいられない。
寄り添う目的で折った膝を改めて伸ばし、腰を曲げて肩に手を添えた。
……肩パットじゃなかったのね、キャシー。
「あなたを責めたんじゃないの。私が言いたかったのはつまり……」
兄 が 美 麗 で 妹 は ゲ テ モ ノ っ て ど う い う 地 獄 よ っ て 事 な ん だ け ど と て も そ う は 言 え な い か ら
「あなたはもっと愛されるべきだって事」
嘘じゃない。
私は最善を尽くしたに過ぎない。
「モリィ……っ」
「いい結婚相手を見つけるのが父兄の義務よ。あなたたちは、当然の事をしたまでだわ」
「レディ・モリー……」
兄妹が感極まった表情で私を見つめる。
同時に見つめるのは、やめてほしい。
「まったく、不甲斐ないばかりです」
兄のほうが先に目を逸らし、私は安堵の溜息を洩らした。
「母親のいないキャスリンを、なんとか幸せな花嫁にしようと父とふたりであれこれ画策したのですが……」
「え?」
母親が、いない?
とても特殊な誕生の仕方をしたのだとしても、ふしぎじゃないけど……
「キャスリンのために、あなたの心を傷つけてしまった」
兄妹は本気で心を痛めているようだった。
私は傷ついてはいない。
困惑しているだけ。
「あの……誤解してほしくないのだけど、彼に未練があるって意味じゃなくて、純粋に疑問だから訊くのだけれど……」
兄妹は、躊躇いながら言葉を紡ぐ私に、傾聴の見本と言っても過言ではない態度で耳を傾けている。
気まずい。
目が、今日だけ見えなければいいのに。
泣けばいいのかしら。
…………………………………………出ないわ。
私は意を決して禁断の言葉を口にした。
「許婚を一目惚れなんて理由で棄てるような男でいいの?」
「薄情な裏切り者だ」
父が便乗。
「私はいいのよ。もうデビッドは必要ない。でも、あなたのような善い人に、こんな軟弱で薄情で無責任で身の程知らずな浮気者は、ぜんぜん相応しくない。あなたにはもっといいお相手がいるはずよ」
「……モリィん……」
「モリーよ。発音はモリー」
ばっさばさの睫に覆われたくりっくりな目がキラキラ私を見つめる。
呑み込まれそうだけれど、きっと安全なはずよ、モリー。
気を確かに。目技なら負けない。
「いいの」
しょんぼりでもしっとりでもなく、キャスリンはときめきに頬を染めた。
「私は自分がどういう姿をしているかわかっているわ。だから、結婚なんてどんなに望んでも手の届かない夢だって思ってた。そんな私に、デビッドは求婚してくれた。私は幸せを感じたの。幸せよ。それだけでいいの。それだけで、彼のために生きたいって思える。彼を愛しているの。彼が私を、本当はどう思っていたとしても」
「……ああ、キャシー」
私はキャスリンの頭を胸に抱いた。
覚悟したより大きかったけれど、とても愛しく感じた。
母親がいない?
なんなら私がママになってもいいわ。大きさは関係ない。どんなに大きくったって母性の前には天使ちゃんは他の何者でもなく天──
「キャシー……っ!」
────え?
「デビッド……?」
むくり、と。
キャスリンが私の胸から顔をあげる。
私は恐る恐る首を回した。
「……」
デビッドが頬を染めていた。
「…………」
え。
なんで?
やっぱり夢???
「キャシー。キャスリン。僕は……間違っていたよ!」
すたっ。
デビッドが私の隣に跪く。
そしてキャスリンの手を恭しくとり、包み込……めはしなかったけれど、それらしく握った。
私はスッと場を譲った。
見つめあうふたり。
もちろんデビッドがキャスリンを見あげている。
「君は身も心も世界一美しい女性だ。僕が馬鹿だった。許してほしい」
「……デビちゃん……」
「改めて申し込むよ。キャスリン・グウィルト、僕と結婚してください」
私は目を逸らした。
無論、嫉妬じゃない。
──と、そのとき。
「!?」
私の前にイケメンプリンスが跪いた。
「えっ、なっ、なにっ!?」
「モリー・ドノヴァン。君は素晴らしい女性だ。どうか私の妻になってください」
「……………………」
こ の 状 況 で ?
「────!」
むかつく。
なに考えてるのこのクソイケメンプリンス。
「バカ言ってんじゃないわよッ!!」
怒鳴ったわよ。
当然でしょ。
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