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01 午後のお茶とお客様

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「ほれ、フレヤ。お茶が入ったよ」

「ありがとうお爺さん」


 信じられない事だが、私は森の奥の小さな家で、ご近所の木こりのお爺さんとお茶を呑む日々を送っている。
 毎日、毎日。
 朝と、昼と、夕方に。たまに就寝前も。


「今日はキイチゴのパイも焼いて来たよ。お食べなさい」

「太っちゃう」

「若いんだからそんな事は心配するな。さあ、可愛いお嬢さん」


 物腰穏やかなお爺さんは、いつも優しく世話をやいてくれる。
 鬱陶しいと感じる事も多いけど、私には今、お爺さんしかいない。


「頂くわ」

「ああ、お食べなさい」


 キイチゴのパイをペロッと平らげて、お爺さんに愚痴をぶちまける。
 それも、もう日常だ。


「私、本当に頑張って来たのよ。小さい頃からお師匠様について、どんな危険な場所にも行ったし、1000人以上リザレクションで生き返らせてあげたのに」

「うんうん」

「変な噂を真に受けて、みんなが私を魔女だって……。ほんと酷い。それもこれも、二股かけた王子のせい。お爺さんもそう思うでしょ?」

「うーん。こんなに愛らしいお嬢さんが恋人だったら、余所見なんてせんがのう」

「でもしたの。フィリップ王子は、私に結婚も申し込んだのよ。それなのに、貴族のミアだかモアだかって女の子に入れ込んで、妊娠させて、私を棄てた」

「可哀相に」


 お爺さんが優しく頭を撫でてくれる。
 お爺さんの優しさに、今日もまた、泣けてきた。


「愛してたのに……何がいけなかったの?」

「お嬢さんは何も悪くない。王子は見る目がなかったんだよ」

「違うわ。だって、私、婚約破棄されて今まで以上に世界平和を守ろうと頑張ったのに、今度はパーティーから追い出されたのよ。勇者にもう要らないって言われる聖女って、なんなの?」

「フレヤは立派な聖女様だよ。勇者はそれがわからない愚か者だ。名前は……なんと言ったかな?」

「アバン。信頼してたのに……男はやっぱり、新しい若い女を選ぶのよ。私じゃなくて、ろくに回復魔法も使えない新米聖女をね」

「ヴィヴィだったかな?」

「イルヴァよ。ぜんぜん違うじゃない。ボケ防止の薬草もっとあげるから煎じて毎日飲んで」

「ああ、ありがとう。心優しい聖女フレヤ」


 私が涙を拭いていると、鳥の羽音が騒がしくなった。
 誰かがこの森の奥へ入って来たのだ。


「おや、どうしたかな」


 わかっているのかボケているのか、お爺さんはハテナと首を傾げた。
 私は今度こそ涙を止めて、しっかりと拭いて、気持ちを引き締めた。

 噂が噂を呼んで魔女と呼ばれるようになった私の元には、ときどき身の程知らずの愚民どもがお忍びでやってくる。
 私をけちょんけちょんに虐めておいて、助けを求めるなんて言語道断だ。


「フレヤ?」


 席を立つと、お爺さんが心配そうな声をあげる。


「またお客さんかい?」

「ええ」

「あまり意地悪しちゃいけないよ」

「ええ。わかってるわお爺さん」


 やり返すだけよ。

 お爺さんは逞しいけど皺くちゃな指でカップを弄り、なにか言いたそうに眉を寄せて呻っている。

 優しいお爺さん。
 この世がお爺さんみたいな善い人ばかりだったらよかったのにね。
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