婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。

百谷シカ

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8 事態の収束

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 どこからともなく忍び込んでいたらしいフィリップ卿は、ドレヴァンツ伯爵家とランデル公爵家の男たちに取り押さえられ、容赦なく鎖でつながれた。昼食会の間にはとても温和で軽快な顔をしていた両家の人々も、緊急事態となればまるで人が変わったかのようだった。

 誕生祝いの集いを台無しにされたドレヴァンツ伯爵は、私を責めなかった。
 ただ、危険人物を侵入させてしまった事と、結果ランデル公爵に怪我をさせてしまった事を重々しく詫びた。ランデル公爵は私の境遇を丁寧に説明して、協力を仰いだ。

 本当なら、私がドレヴァンツ伯爵に謝らなければいけなかった。
 それなのに、ドレヴァンツ伯爵を含めドレヴァンツ伯爵家の人々は、心から私を慰めて労い、励ましてくれた。

 
「我らがランデル公爵夫人をお守りしましょう」

 
 ずっとフィリップ卿に負け続けていた私は、目の前で起きた団結に驚いた。そしてじわりと、ほんの少しだけ、公爵夫人という立場の責任の重さを始めて感じた。
 私は酷く弱い者だった。けれど、この人たちを守るべき側に、もう立っているのだ。もちろん今は、怯えて逃げ惑い泣いてばかりだった私のまま。そして、守られるがまま。

 それでも、いつか、両家の絆に相応しい公爵夫人になれるように、頑張ろう。努力しよう。ランデル公爵の優しさに報いるのと同じように。

 慌ただしく過ぎる日々の中で、私はそう決意した。

 フィリップ卿は監獄に収監された。
 この件は単純に、公爵夫人殺害未遂と公爵への傷害が罪に問われたのだ。私への執着の度合いや、それが私をどんなに苦しめたかという事はあまり問われなかった。それでよかったと思う。誰かに聞かれる事も、誰かに話す事も、ただ傷つくだけだから。

 もとから素行に問題のあったフィリップ卿は、ほかの兄弟と違って領地や役職を継承しておらず、ほぼ放置されていたらしい。けれど父親であるイスフェルト侯爵も、さすがに私が公爵と結婚した事で最悪の事態を危惧し、一旦は息子を幽閉したのだと後から知らされた。
 しかしながらフィリップ卿は脱走し、親族であるドレヴァンツ伯爵家の昼食会を聞きつけ、凶行に及んだ。

 彼は今、政治犯や国家反逆罪を犯した罪人たちと同じ場所で独房を宛がわれ、ひとり静かに暮らしている。

 フィリップ卿の処遇が広く知れ渡ると、思わぬ人から便りがあった。
 フィリップ卿との仲を疑い、私をふしだらだと決めつけて婚約を破棄した元婚約者、リンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツ。彼の丁寧な謝罪は、私に対する私的なものと、ランデル公爵に対する丁重なものと、両方あった。


「真剣だという事はわかった」


 ランデル公爵──ゴトフリートは、静かにそう洩らし目をあげた。
 夫の書斎に立ち入るという、特別に許された妻のような私もまた、彼を見つめていた。
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