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070 Дмитрий

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 それまで真摯に向き合ってくれていたまりえの表情が、歪んだ。もちろん、責める気も、逃げるつもりもない。僕はまりえに救われた。彼女に懺悔して、裁かれ、できたら葬ってもらいたいとさえ思い始めていた。

「どういうこと?」

 用心深く、まりえは目を細め、僕を見あげた。とても一言で説明できないが、言葉を選びながら白状する。僕の罪でまりえを汚してしまいそうで怖いのに、おかしな心地よさも感じ、止まらなかった。
 これで、楽になれる。

「クズネツォフ家の子どもは、暗殺者から逃げながら育った。僕らは6人兄弟で、母親は4人だ。僕を産んだ女性は僕が赤ん坊のときに被弾していて、僕にとっての母さんは、オーリャのお母さんだった。オーリャは、さっき帰った妹だよ」

 まりえは一言も聞きもらすまいというように、真剣に僕の話を聞いている。どうして手を離さないのか、不思議だった。まりえはさっきからちょっとおかしい。

「その日も逃げていた。オーリャの母さんは、赤ん坊だったオーリャを人に預けて、僕らと一緒にいたんだ。船で逃げていたんだよ。雪が降ってた。ふたりの姉と、僕と、弟。いちばん上の姉は、まだ小さかった弟を抱いていて、母さんは僕と手をつないでくれていた。すぐ上の姉は、僕と同じ女性から産まれていて、あのとき、たしか8歳だ。リュボフィーって言って、ヴィヤーニカって呼んでた。前の晩、約束したんだ。ヴィヤーニカは本当のマーマに会いに行く。僕は、マーマを捕まえている。でも僕は約束を破った。ヴィヤーニカが海に落ちて、僕が手を離して、マーマも海に落ちた。ふたりとも溺れて死んだ」

 罪の告白は、あっけなかった。
 まりえが少し首を傾げて、疑わしそうに眉を寄せる。それから、断言した。

「おかしいわ」

 最初、何を言われたのかわからなかった。ただ予想にかすりもしない反応だったせいで、僕の思考は完全に止まった。ぼんやりしているうちに、まりえが怒った顔で言った。

「そんなのおかしい。あなたはいくつだったの?」
「……5歳」

 なんとかそれだけ答える。歳を訊かれる予定はなかった。まりえは更に苦みばしった顔をして、僕の手の関節を小さな親指でちろちろ撫でた。

「本当につらい出来事だったのだと思う。私なんかには何も言えない。だけど、あなたさっき、ヴィヤーニカのこと“たしか8歳”って言ったのよ。ショックが大きすぎて、とても5歳の子には受け止められない。だからおぼろげなの」

 急にまりえが恐ろしくなる。せりあがってきたのが吐き気なのか寒気なのかわからないが、僕はぶるりとふるえた。慌てて手をひっこめようとしても、まりえにがっちりつかまえられていて諦めるしかなかった。小さな手なのに、すごい力だ。ゆらめく瞳が、黄金色に光る。

「あなたに言ったのはだれ? お兄さん?」

 僕は一瞬言葉を失って、慌てて首をふった。

「ラーチカは、乗っていなかったよ。僕たちは、兄と父が待つ基地へ向かっていたんだ」
「その基地はどこなの?」

 頭が真っ白になった。

「シベリア」

 口が勝手に、言葉を放った。
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