妹が最優先という事で婚約破棄なさいましたよね? 復縁なんてお断りよッ!!

百谷シカ

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4 オリファント伯爵令嬢として

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「ごっ、ごめんなさい! 私……!」

「いや、いいんだ」


 メイスフィールド伯爵は穏やかに言ってくれた。
 でも、そうはいかない。

 私は椅子から立ちあがり、彼の前で膝をつき、深く頭をさげた。


「やめなさい。そんな事をする必要はないんだよ」

「とんでもありません……! 奥様を亡くした方に、自分勝手な身の上話なんてお聞かせしてしまい、その上、子供みたいに泣き喚くだなんて」

「アデル」

「申し訳ありませんでした」


 私はオリファント伯爵令嬢。
 この地の領主の娘だ。

 弁えなければいけないあらゆる事を、私は忘れてしまっていた。


「アデル、いいから、顔をあげてくれ。というか、ほら、こちらへ座って」

「とんでもありません。お詫びさせて頂きます」


 妻を亡くした悲しみと、その祈りを抱いて、メイスフィールド伯爵はこの教会へ赴いたはずだ。たしかに私は身勝手な男に婚約を破棄された可哀そうな令嬢で、慰めや癒しを必要としている。

 でも、メイスフィールド伯爵ほどではない。
 メイスフィールド伯爵は私より悲しいはずだ。


「アデル。そうしたら、今度は私の思い出話を聞いてくれ」

「はい」

「さあ、座って」


 私は、しっかりと涙をふいて、隣に座り背筋を伸ばした。
 そしてまっすぐにメイスフィールド伯爵を見つめる。

 目尻にうっすら皴のある、でも、優しそうで美しい伯爵。
 この優しい微笑みには、悲しみが詰まっていると思うと、胸に迫るものがある。


「では、聞いてくれ」


 メイスフィールド伯爵は微笑んで頷き、目線を前に向けた。
 思い出を、懐かしむように。


「クィンシーは織物職人の娘だった。私は、母と伯母にせがまれて、オリファント名物の織物を買い付けに来たんだ。そしてクィンシーに出会った。私たちは一目で恋に落ち、愛しあった」

「素敵なお話」


 それに、クィンシーの両親が作った織物が家にもあるかも。
 

「多少の反対もあったが、クィンシーの人柄は人の心を和らげた。私たちは、祝福され、結婚した。クィンシーは社交界でも他の貴族に劣る事のない礼節を弁えていたし、なにより人に好かれた。私が愛した妻は、そういう女性だった」

「素晴らしい方だったのね」

「ああ。只一つ、私たちにはなかなか子供ができなくてね。でも、親戚が多いからそこまで大事には至らなかった」

「奥様ご本人がみんなに愛されていたんだわ」

「ああ、本当にそうだった。だが、死んでしまった」


 メイスフィールド伯爵の瞳が、きらりと光る。
 美しく悲しい涙に、私も目頭が熱くなる。
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