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5 結ばれた夫婦の幸せな話
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「35才だった。クィンシーの眠る顔は、苦しみのひとつもない、優しいものだったよ。最期に苦しみから解放されて、よかったと……思っているんだ」
「……そうね」
私は涙を拭いた。
感傷的になっているという事もあるけれど、メイスフィールド伯爵もクィンシーも、深く愛しあい、そして人々に愛されていたのに、引き裂かれてしまったのだ。きっと、もっと長い年月を共に過ごしたかったに違いない。愛しあったからこそ、その哀しみはひときわ深いはずだ。
神様は、時に痛みを負わせる。
それには意味があると、信じたいけれど……
「奥様は、あなたと過ごせて、本当に幸せだったと思います」
「ああ。自分で言うのもおかしな話だが、そう思うよ」
「おかしくなんかありません」
「ありがとう。本当に、私たちは幸せだった」
メイスフィールド伯爵は涙を零さずに、微笑んだ。
私は、彼の隣で、静かに祈りを捧げた。
クィンシーとメイスフィールド伯爵のために。
それからしばらく、互いに黙って座っていた。
やがてメイスフィールド伯爵は呟いた。
「君は、優しいんだな」
そうだろうか。
私みたいに甘ったれた末っ子令嬢だとしても、美しく悲しい愛の前には、心が洗われてしまう。当然の話だ。
私は静かに首をふった。
「そうだ」
ふいに、メイスフィールド伯爵は明るい声をあげた。
驚いてその顔を見ると、彼はやはり、希望に満ちた笑みで私を見つめていた。
「私が君の後見人になろう」
「え?」
「10人の貴族に太刀打ちできない御父上にも、私の名前を出してもらえたら、それなりに力になれるはずだよ」
「……え?」
「父はローダム侯爵、伯母はゾーン公爵夫人、もうひとりの伯母は隣のラトランド国王妃で、私も遡ると曽祖父が先国王だ」
「ええっ!?」
野太い声が出ちゃった。
でも、そんな事を気にする余裕もなく、私は再び椅子から飛び跳ねた。
そして微妙な距離をとる。
「えっ、えっ? あっ、おっ、王族!?」
「血筋をひけらかすのは好きではないが、それで君の役に立つなら」
待って。
嘘かも。
でもその時。
「メイスフィールド伯爵ッ!?」
父がすっ飛んできた。
そして、メイスフィールド伯爵の前で片膝をついて挨拶……
「お、お父様」
「メイスフィールド伯爵、娘がなにか御無礼を……!?」
「いやいや」
父は、ここオリファントの領主、オリファント伯爵。
それが同じ爵位の伯爵相手に這い蹲る理由があるとすれば、それは……さっきのあれが嘘ではなく、真実だから。それしかない。
「……そうね」
私は涙を拭いた。
感傷的になっているという事もあるけれど、メイスフィールド伯爵もクィンシーも、深く愛しあい、そして人々に愛されていたのに、引き裂かれてしまったのだ。きっと、もっと長い年月を共に過ごしたかったに違いない。愛しあったからこそ、その哀しみはひときわ深いはずだ。
神様は、時に痛みを負わせる。
それには意味があると、信じたいけれど……
「奥様は、あなたと過ごせて、本当に幸せだったと思います」
「ああ。自分で言うのもおかしな話だが、そう思うよ」
「おかしくなんかありません」
「ありがとう。本当に、私たちは幸せだった」
メイスフィールド伯爵は涙を零さずに、微笑んだ。
私は、彼の隣で、静かに祈りを捧げた。
クィンシーとメイスフィールド伯爵のために。
それからしばらく、互いに黙って座っていた。
やがてメイスフィールド伯爵は呟いた。
「君は、優しいんだな」
そうだろうか。
私みたいに甘ったれた末っ子令嬢だとしても、美しく悲しい愛の前には、心が洗われてしまう。当然の話だ。
私は静かに首をふった。
「そうだ」
ふいに、メイスフィールド伯爵は明るい声をあげた。
驚いてその顔を見ると、彼はやはり、希望に満ちた笑みで私を見つめていた。
「私が君の後見人になろう」
「え?」
「10人の貴族に太刀打ちできない御父上にも、私の名前を出してもらえたら、それなりに力になれるはずだよ」
「……え?」
「父はローダム侯爵、伯母はゾーン公爵夫人、もうひとりの伯母は隣のラトランド国王妃で、私も遡ると曽祖父が先国王だ」
「ええっ!?」
野太い声が出ちゃった。
でも、そんな事を気にする余裕もなく、私は再び椅子から飛び跳ねた。
そして微妙な距離をとる。
「えっ、えっ? あっ、おっ、王族!?」
「血筋をひけらかすのは好きではないが、それで君の役に立つなら」
待って。
嘘かも。
でもその時。
「メイスフィールド伯爵ッ!?」
父がすっ飛んできた。
そして、メイスフィールド伯爵の前で片膝をついて挨拶……
「お、お父様」
「メイスフィールド伯爵、娘がなにか御無礼を……!?」
「いやいや」
父は、ここオリファントの領主、オリファント伯爵。
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