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3 ブチギレマダム(※ペリエ伯爵夫人視点)
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「お黙り! この泥棒猫がッ!!」
「!」
忌々しい息子の嫁アンナの顔に唾を吹きかけ、鉄格子の外から鍵をかけた。
問題のある使用人や突発的な盗人などに対応するための、地下の懲罰部屋。そこが今では、アバズレ・アンナの住処よ。
「お待ちください! 私と肉体関係を持ったというのは、アルフレッドがそう言っただけですよね? あの男の言う事を信じるんですか? 平民の男娼の話を?」
「黙れと言っているのよ!!」
「お腹の子はお義母様の孫、未来のペリエ伯爵かもしれないとはお考えになれないのですか? そんなに若い男を寝取られたのが堪えました? 私が襲われたとしても、そうやって嫉妬に狂って私を責めるのですか? ペリエ伯爵夫人ともあろう方が?」
「弁明するふりしながら私を侮辱するなんていい度胸ね!」
鉄格子を蹴ってやったわ。
でも、アンナは肝が据わっていた。
妊婦だから、肉体的に危害を加えられはしない。そう高を括っている。確かに、それはそう。だからって許されると思ったら大間違いよ。
「でも本当の事ですよね? 私を地下牢に閉じ込めるなんて、エドモンが何て言うか。だいたい、何度も申し上げたように、お腹の子はエドモンの子で間違いありません」
「そんなわけないでしょ!」
いけしゃあしゃあと言ってのけるアンナに、私は実際、かなり煽られていた。いい年して、もう喉が嗄れるくらい怒鳴り続けている。
憤りを抑えられないし、抑える気もない。
「息子の夫婦生活に首を突っ込むなんて、やっぱり夫に見向きもされない女はやる事が違いますね!」
この期に及んで私を嘲笑う、汚嫁。
どういう神経してるの?
「馬鹿言うんじゃないわよ! 息子の夫婦生活なんて興味もないけど、あの子は新婚旅行のあと持病の痔が悪化して4ヶ月も臥せっていたのよ! 横向きにね!!」
だから、今回のアンナの妊娠に合致する時期に、息子は種を仕込めなかった。それは私だけでなく、夫も医者も使用人たちも承知している周知の事実。
「披露宴で馬を自慢したがったのはエドモンなので、痔は私のせいではありません」
全く悪びれもせず、若い恋人を失って正気も失いつつある私を嘲笑うアンナ。
「それに、痔が悪化したからって私との新婚生活がなかったなんて、本気でそんな事を? 平民の男娼の甘言を真に受けて、すっかり愚かになられて。いいから、早くここから出してください。今ならエドモンには秘密に致します。さあ、ほら。負け犬オバサン」
「──」
本当に、どういう神経?
礼儀もなければ良心もなさそう。
結婚なんて、シャガール伯爵家の令嬢なら姉だろうと妹だろうとどっちでもいいと思っていたけど、絶対、姉のライサとあのまま結婚していたほうがよかったはず。
そうすれば、アルフレッドは……
「言っておきますがね、アルフレッドは男娼ではなくてよ」
「ああ、はいはい。恋人ですね」
「それに、散々棄てられただの夫には見向きもされないだの言ってくれたけれどね、状況がわかっていないのはあんた。夫は親友で、今回の裏切りにきちんと同情してくれていて、全面的に私の味方よ」
「だから? 私をここに閉じ込めて、悪役はそちらでしょう? 状況がわかっていないのはお義母様のほうですわ。私、妊婦なの。妊婦虐待なんて堕ちる所まで堕ちた証拠じゃありませんの?」
「そうやって余裕をこいているのも今のうちよ。忘れた? アルフレッドの浅黒い肌や、栗毛色の髪を。琥珀色の瞳を。あんたとも、当然エドモンとも違う肌・髪・瞳。産まれて来た赤ん坊が、あんたの罪を証言してくれるでしょうよ」
「御託はいいから出してくださいな、お義母様。こんなの、現実的じゃありませんわ。今後の事を話すなら、もっとまともな場所で、お茶でも飲んで協議いたしません?」
「馬鹿なの?」
状況も立場もわかっていない。
盗人猛々しいとは、正にこの事。
私は、ついに言ってやった。
調子に乗るだけ乗せておいて、効果的な時期をちゃんと待っていたのだ。
「エドモンは結婚を無効にする手続きを取りました。あんたはペリエ伯爵家の嫁ではなく、既に、女主の恋人に手を付けたアバズレの使用人なのよ」
「え?」
調子が変わった。
やっと、自分の状況を理解し始めたのかしら。
「とりあえず、こどもが生まれるまで衣食住は与えてあげます。小窓から陽も入るでしょう?」
「お、お義母様……?」
「奥様とお呼び! あと、次に来るときは仕事を持ってきてあげる。それまで反省して待っていなくてもいいわよ。許す気ありませんから。オホホ♪ せいぜい醜く不平不満をぶちまけなさい、メ・ス・ブ・タ♪」
思い知らせてやったら、多少、気が晴れた。
これからじっくり時間をかけて、その美貌もプライドも粉々にしてやるんだから、覚えてらっしゃい。
「お義母様、待って! あんまりだわ!!」
鉄格子をガシャガシャ言わしちゃって。
はぁ、いい気味。
「!」
忌々しい息子の嫁アンナの顔に唾を吹きかけ、鉄格子の外から鍵をかけた。
問題のある使用人や突発的な盗人などに対応するための、地下の懲罰部屋。そこが今では、アバズレ・アンナの住処よ。
「お待ちください! 私と肉体関係を持ったというのは、アルフレッドがそう言っただけですよね? あの男の言う事を信じるんですか? 平民の男娼の話を?」
「黙れと言っているのよ!!」
「お腹の子はお義母様の孫、未来のペリエ伯爵かもしれないとはお考えになれないのですか? そんなに若い男を寝取られたのが堪えました? 私が襲われたとしても、そうやって嫉妬に狂って私を責めるのですか? ペリエ伯爵夫人ともあろう方が?」
「弁明するふりしながら私を侮辱するなんていい度胸ね!」
鉄格子を蹴ってやったわ。
でも、アンナは肝が据わっていた。
妊婦だから、肉体的に危害を加えられはしない。そう高を括っている。確かに、それはそう。だからって許されると思ったら大間違いよ。
「でも本当の事ですよね? 私を地下牢に閉じ込めるなんて、エドモンが何て言うか。だいたい、何度も申し上げたように、お腹の子はエドモンの子で間違いありません」
「そんなわけないでしょ!」
いけしゃあしゃあと言ってのけるアンナに、私は実際、かなり煽られていた。いい年して、もう喉が嗄れるくらい怒鳴り続けている。
憤りを抑えられないし、抑える気もない。
「息子の夫婦生活に首を突っ込むなんて、やっぱり夫に見向きもされない女はやる事が違いますね!」
この期に及んで私を嘲笑う、汚嫁。
どういう神経してるの?
「馬鹿言うんじゃないわよ! 息子の夫婦生活なんて興味もないけど、あの子は新婚旅行のあと持病の痔が悪化して4ヶ月も臥せっていたのよ! 横向きにね!!」
だから、今回のアンナの妊娠に合致する時期に、息子は種を仕込めなかった。それは私だけでなく、夫も医者も使用人たちも承知している周知の事実。
「披露宴で馬を自慢したがったのはエドモンなので、痔は私のせいではありません」
全く悪びれもせず、若い恋人を失って正気も失いつつある私を嘲笑うアンナ。
「それに、痔が悪化したからって私との新婚生活がなかったなんて、本気でそんな事を? 平民の男娼の甘言を真に受けて、すっかり愚かになられて。いいから、早くここから出してください。今ならエドモンには秘密に致します。さあ、ほら。負け犬オバサン」
「──」
本当に、どういう神経?
礼儀もなければ良心もなさそう。
結婚なんて、シャガール伯爵家の令嬢なら姉だろうと妹だろうとどっちでもいいと思っていたけど、絶対、姉のライサとあのまま結婚していたほうがよかったはず。
そうすれば、アルフレッドは……
「言っておきますがね、アルフレッドは男娼ではなくてよ」
「ああ、はいはい。恋人ですね」
「それに、散々棄てられただの夫には見向きもされないだの言ってくれたけれどね、状況がわかっていないのはあんた。夫は親友で、今回の裏切りにきちんと同情してくれていて、全面的に私の味方よ」
「だから? 私をここに閉じ込めて、悪役はそちらでしょう? 状況がわかっていないのはお義母様のほうですわ。私、妊婦なの。妊婦虐待なんて堕ちる所まで堕ちた証拠じゃありませんの?」
「そうやって余裕をこいているのも今のうちよ。忘れた? アルフレッドの浅黒い肌や、栗毛色の髪を。琥珀色の瞳を。あんたとも、当然エドモンとも違う肌・髪・瞳。産まれて来た赤ん坊が、あんたの罪を証言してくれるでしょうよ」
「御託はいいから出してくださいな、お義母様。こんなの、現実的じゃありませんわ。今後の事を話すなら、もっとまともな場所で、お茶でも飲んで協議いたしません?」
「馬鹿なの?」
状況も立場もわかっていない。
盗人猛々しいとは、正にこの事。
私は、ついに言ってやった。
調子に乗るだけ乗せておいて、効果的な時期をちゃんと待っていたのだ。
「エドモンは結婚を無効にする手続きを取りました。あんたはペリエ伯爵家の嫁ではなく、既に、女主の恋人に手を付けたアバズレの使用人なのよ」
「え?」
調子が変わった。
やっと、自分の状況を理解し始めたのかしら。
「とりあえず、こどもが生まれるまで衣食住は与えてあげます。小窓から陽も入るでしょう?」
「お、お義母様……?」
「奥様とお呼び! あと、次に来るときは仕事を持ってきてあげる。それまで反省して待っていなくてもいいわよ。許す気ありませんから。オホホ♪ せいぜい醜く不平不満をぶちまけなさい、メ・ス・ブ・タ♪」
思い知らせてやったら、多少、気が晴れた。
これからじっくり時間をかけて、その美貌もプライドも粉々にしてやるんだから、覚えてらっしゃい。
「お義母様、待って! あんまりだわ!!」
鉄格子をガシャガシャ言わしちゃって。
はぁ、いい気味。
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