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7 望んでいない珍道中

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「イーヴォ公爵」

「わかっています」

「女性を全員、鍵のかかる部屋に」

「ええ必ず」


 裏門で柵越しに公爵と最終確認をしてたら、外套を引っ張られた。


「そんな何度も言わなくったって心得ているわよ」

「……」


 マグダ……なんだか憎々しい。


「名残惜しいのはわかるけど、死にゃあしないから」

「身分を隠すべき緊急事態である事は確かだが、王妃クレリアにくれぐれも失礼のないように」

「わぁーかったわぁーかったから! 行くわよ、クレリア」

「な……ッ!?」


 夫の恋人に名前を呼び捨てにされた王妃な私の代わりに、イーヴォ公爵が激高して震えている。ジト目で睨んでいても仕方ない。私は手を伸ばし公爵の腕辺りを軽く叩いで宥めた。


「気をつけてね」

「クレリア……」

「ほら! イチャついてないで早くしなさいよ!」

「ん゛ん゛ん゛……ッ」


 苦悶する公爵と離れるのは心細いけれど、無事に再会する覚悟で別れる以外に歩むべき道はなかった。

 夫であり国王でもあるオズヴァルドが御者に扮し、私はマグダとふたりで狭い荷馬車に乗り込んだ。空はどんよりとした曇り空。どうかこれ以上、崩れないでほしい。


「ちょっと、王妃様」

「……」


 妖艶で憎々しい夫の恋人を睨む。
 農婦のような粗末な服をはちきる勢いの胸が、荷馬車の揺れに合わせて揺れる。


「楽にしてください。気を張り過ぎると倒れますよ」

「……あなたに耐え続けて鍛えられましたから大丈夫です」

「とりあえず王妃様の威厳を脱いで、小娘みたいにして頂けます? 私より年下だし繊細そうな顔をしているから、私に面倒を見られていないと不自然です」

「あなたに、面倒を見てもらう?」

「ええ。これから身を寄せる場所々々できっと私に感謝しますわよ」


 いけしゃあしゃあと笑っている。
 悔しいけれど、今は太々しく逞しいマグダが本当に頼りになりそうな気がして、私は唇を噛んだ。


「ちょっと! やめなさいって! 揺れてるんだから!!」


 揺れてるのはあなたの胸よ。
 ……なんてはしたない事は言わないけれど、私も唇を噛むのをやめ目を逸らした。


「一緒に行けたらよかったけど、本当の意味で信頼できる側近はジェルマーノだけだし。王妃様、ココだけの話、彼ってオズヴァルドの又従兄弟じゃなくて異母兄かもしれないわよ」

「あなたはいったいどういう者なのです? 愛妾の身でありながら妻の私に気安く接したり、女優でありながら王妃の私やイーヴォ公爵に馴れ馴れしかったり」


 マグダがうふっと笑った。


「女優よ」

「ええ、だから……」

「女はみんな女優。クレリア、あなたも今は王妃じゃないの」

「……では、あなたが役を決めてください」

「うふ♪ じゃあ、私とオズヴァルドは許嫁で、あなたはオズヴァルドの可愛い可愛い妹っていうのはどう? お兄様を盗られて不貞腐れているの。でもあなたを想う別の男性も身近にいるのよぉ~♪」

「……」


 この……調子に乗って。
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