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8 心細い夜に

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「本当に助かりますわ! どうもありがとうございますぅ♪」

「いやいや。こんな別嬪さんのお役に立てるなら、この歳まで老いさらばえた甲斐もあったというもんじゃい」

「まぁ。もう、まだまだ素敵な殿方ですわよ♪」

「んもう。マグダちゃんたら♪」


 宿場町に着いて彼女がしたのは、宿を確保する事だった。
 

「ねえ、今更ですけど陛下」

「うん?」

「彼女のどこがお好きなんです?」

「うーん。明るくて、心が強いところかな」


 あれは、厚かましいというのよ。


「お顔が好みなのではなくて?」

「うん、美人だよね。あなたもあなたなりに美しいよ」

「どうも」

「マグダちゃんの許嫁は幸せだねぇ! こんな別嬪さんに加えて可愛い妹さんも一緒だなんて。両手に花とはこの事だな。羨ましいぜぇっ! だぁはははは♪」

「おほほほほ♪」

「本当にあの人が好きなの?」


 我が夫ながら、国王オズヴァルド2世の神経を疑う。
 
 とはいえ、私たちは安心して休める宿を得た。
 夫とその恋人と同じ部屋で寝起きするという事以外は、逃亡中という状況を鑑みれば充分だ。


「……」


 私、毒されてきてる?
 自分の感覚がだんだん疑わしくなってきて、胸の前で手を揉みあわせる。


「どうしたんだい、我が妹よ」


 妻よ。


「ちょっと、心細くて……」

「大丈夫よ! この私が、なにがあってもふたりを生き延びさせるから♪」

「……」


 どちらが有能かで言えば、夫よりマグダな気がして尚の事モヤモヤが募る。


「……」


 こんな夜、彼がいてくれたら……。


「?」


 私、今……イーヴォ公爵の事を恋しく想ってしまった。
 

「……」


 その想いを自覚してしまったら、もう、逃げられなかった。
 首、頬、頭のてっぺんまで順に熱があがっていく。私は頬を押さえて俯いた。


「なに? 具合が悪いの?」

「……いいえ」


 マグダに声をかけられて、気まずいったらない。
 夫の恋人に体調を気遣われながら、夫ではない男性を想って火照るなんて。


「こんな事、許されないわ」

「ちょっと、馬鹿な事を言わないで頂戴。国家転覆なんて物騒な事、私が生きているうちは絶対に起きてもらっちゃ困るわよ。平和にやってくれなきゃ。そのためにも、あなたたちふたりには元気に長生きしてもらいたいの♪ ねっ、クレリアちゃん♪」

「……頑張ります」


 なぜ、夫の恋人に背中をさすられ、励まされているのか。
 混迷を極める夜、並べたベッドに3人で転がり、ひたすら寝返りを打った。夫とその恋人がのんきに仲睦まじく、鼾をかいて眠っている。それももう、妬ましくなくなっていた。


「ジェルマーノ……」


 彼に会いたい。
 どうか、無事でいて。
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