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第3章 オーク、誘拐される。
5、バカが嗤いし時、戦慄が走る。
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「カイル、国を出るのか?」
バドルスさんは王子姿の俺を一瞥したあと見切りをつけるように俺から視線を外し、そう言ってバカを振り返った。
バカの腕の中でオーク姿の王子が息を飲んでバカを見上げる。アイツでかい図体して女の子みたいに横座りしてバカにしなだれかかってんだよ。腹立つな。俺そんな事しねぇよ。
ちっこいイケオジの隊長さんが何か言いたげに口を開いたが、苦しそうな顔でそれを飲み込んだ。
「分かった。面倒は任せろ」
バカの返事を待たず陛下は腹を決めた様子で頷く。
国を守る鉄壁と、魔族との交渉が出来る貴重なオークを失う。陛下はそれを受け入れざるを得ないという。
バカとオーク姿の王子が国を出る━━
俺を置いて。
オークとしての自分は凌辱の日々を送っていた。
これからは法を犯した王子として断罪され、糾弾される日々?
……俺かわいそう過ぎるだろ。
「どうせ無理矢理の横暴理論を展開させるだけなのでお気になさらず。なんだかんだで丸め込むの上手ですから」
困惑顔をしているらしいオークにバドルスさんが皮肉気に笑う。
オークの表情って分かりにくいなクソ。そしてこちらを振り返ったバドルスさんの冷たい目にぞっとして、思わず体を後方に引いて背後のリリアちゃんを念入りに隠した。
ちらりと振り返ったリリアちゃんの顔は真っ青で、愛らしかった唇も血の気が引いて戦慄いている。
「……ああ、そういうことか」
緊迫した空気の中、ふとバカがぽつりとつぶやいた。
「ふ━━ふふ」
続いて唐突に笑い声を発する。
バカだ。バカが笑っている。
静かに、けれど実に楽しそうに。
陛下とバドルスさんが気持ち悪いものを見るようにひどく嫌そうにバカに視線を向けた。ああ、さすがはお二人は分かってらっしゃるんだなぁ。
「そこか」
陛下の向こうでひとしきり笑ったバカがぽつりと声を上げ、こちらに視点を定める。同時にぞわりと何か寒いものが背筋を走った。
バカがゆらりと立ち上がる。
って、おいバカの足元にいるオーク! そんな縋るみたいな目でバカを見上げてんじゃねぇよ!
もーアイツほんとイヤ。
そしてこちらを見るバカは嗤っている。いつか見た昏い笑み。これは間違いなくロクでもない事をしようとしている。
バカの目は完全にこちらを目標として捉えていた。俺とリリアちゃんの処罰を陛下に丸投げしたっぽかったのに気が済まなかったのか。ヤバい。
リリアちゃんをバカから庇いながらじわりと後退する。
「考えたな。これなら俺はお前を殺せない。俺に取り入ってどうする気だ。反乱でも起こすか?」
バカがオーク姿のルディアス王子に鋭い視線を向ける。
「ハルがモノ欲しそうな顔で俺を見るわけがないだろうが」
バカは鼻で笑ってそう言った。
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
「従います、虐めてくださいみたいな顔されても萎えるだけなんだよ」
吐き捨てるように言うバカ。
さすが。
クズだ。クズの発言だ。思った以上にロクでもなかった。
そうだ。コイツは抵抗されるほど盛り上がる性質だった。
咄嗟にリリアちゃんの頭を抱え込んで耳を塞いで正解だった。血まみれの手だけど仕方ない。小さい女の子に聞かせていい内容じゃない。
オーク専じゃなくてただのサディストじゃねぇか。
こちらを見るバカの目は爛々としており、喜々としたものを混じらせている。
これは━━
「カイル?」
尋常ならざる様子に陛下が訝しんだように呼ぶが、呼ばれたバカはそれを無視して俺の前に片膝をつく。
「ごめんな。痛かったか?」
何やら悲痛な面持ちで顔に手を添えられた。
バレてる。
バドルスさんは王子姿の俺を一瞥したあと見切りをつけるように俺から視線を外し、そう言ってバカを振り返った。
バカの腕の中でオーク姿の王子が息を飲んでバカを見上げる。アイツでかい図体して女の子みたいに横座りしてバカにしなだれかかってんだよ。腹立つな。俺そんな事しねぇよ。
ちっこいイケオジの隊長さんが何か言いたげに口を開いたが、苦しそうな顔でそれを飲み込んだ。
「分かった。面倒は任せろ」
バカの返事を待たず陛下は腹を決めた様子で頷く。
国を守る鉄壁と、魔族との交渉が出来る貴重なオークを失う。陛下はそれを受け入れざるを得ないという。
バカとオーク姿の王子が国を出る━━
俺を置いて。
オークとしての自分は凌辱の日々を送っていた。
これからは法を犯した王子として断罪され、糾弾される日々?
……俺かわいそう過ぎるだろ。
「どうせ無理矢理の横暴理論を展開させるだけなのでお気になさらず。なんだかんだで丸め込むの上手ですから」
困惑顔をしているらしいオークにバドルスさんが皮肉気に笑う。
オークの表情って分かりにくいなクソ。そしてこちらを振り返ったバドルスさんの冷たい目にぞっとして、思わず体を後方に引いて背後のリリアちゃんを念入りに隠した。
ちらりと振り返ったリリアちゃんの顔は真っ青で、愛らしかった唇も血の気が引いて戦慄いている。
「……ああ、そういうことか」
緊迫した空気の中、ふとバカがぽつりとつぶやいた。
「ふ━━ふふ」
続いて唐突に笑い声を発する。
バカだ。バカが笑っている。
静かに、けれど実に楽しそうに。
陛下とバドルスさんが気持ち悪いものを見るようにひどく嫌そうにバカに視線を向けた。ああ、さすがはお二人は分かってらっしゃるんだなぁ。
「そこか」
陛下の向こうでひとしきり笑ったバカがぽつりと声を上げ、こちらに視点を定める。同時にぞわりと何か寒いものが背筋を走った。
バカがゆらりと立ち上がる。
って、おいバカの足元にいるオーク! そんな縋るみたいな目でバカを見上げてんじゃねぇよ!
もーアイツほんとイヤ。
そしてこちらを見るバカは嗤っている。いつか見た昏い笑み。これは間違いなくロクでもない事をしようとしている。
バカの目は完全にこちらを目標として捉えていた。俺とリリアちゃんの処罰を陛下に丸投げしたっぽかったのに気が済まなかったのか。ヤバい。
リリアちゃんをバカから庇いながらじわりと後退する。
「考えたな。これなら俺はお前を殺せない。俺に取り入ってどうする気だ。反乱でも起こすか?」
バカがオーク姿のルディアス王子に鋭い視線を向ける。
「ハルがモノ欲しそうな顔で俺を見るわけがないだろうが」
バカは鼻で笑ってそう言った。
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
「従います、虐めてくださいみたいな顔されても萎えるだけなんだよ」
吐き捨てるように言うバカ。
さすが。
クズだ。クズの発言だ。思った以上にロクでもなかった。
そうだ。コイツは抵抗されるほど盛り上がる性質だった。
咄嗟にリリアちゃんの頭を抱え込んで耳を塞いで正解だった。血まみれの手だけど仕方ない。小さい女の子に聞かせていい内容じゃない。
オーク専じゃなくてただのサディストじゃねぇか。
こちらを見るバカの目は爛々としており、喜々としたものを混じらせている。
これは━━
「カイル?」
尋常ならざる様子に陛下が訝しんだように呼ぶが、呼ばれたバカはそれを無視して俺の前に片膝をつく。
「ごめんな。痛かったか?」
何やら悲痛な面持ちで顔に手を添えられた。
バレてる。
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