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第3章 オーク、誘拐される。
14、お茶会に響くは幼女の悲鳴
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いつものように俺のためにあつらえてくださったガーデンセットで陛下とお茶をいただく。
「いーーーーやぁぁぁぁぁ!」
演習場の中央、軍人の皆さんが作る人垣の中から悲鳴にも、気合いにも聞こえる少女の奇声が響く。
空中に舞いあがったのは赤い重厚なドレス姿で大きな剣を振りかぶり、カイルに向かう少女。その顔は鬼気迫るものがあり、西洋人形が人を襲っているようにしか見えない。
なんか、ホラー系の洋画にそういうのがあったなと遠い目になる。
「……ドレスなんですね」
どうしてもっと動きやすい格好じゃないのか。
「アレは基本的にああいう格好しかしないからな。あの格好で動けないといざという時に意味がないんだ」
陛下が優雅に紅茶を一口飲んだあとカップを戻しながらそう微笑む。
至極まっとうな理由だった。
リリアちゃんごめんな。お姫様のプライドかと思っちゃったわ。
「まぁ淑女の戦闘服ってやつだな」
そう言って陛下がきれいに口元に笑みを浮かべる。
……なんか違う気がする。
真偽を確かめようとついチラリとバドルスさんを見やると「何も言うまい」顔だった。この人も苦労人なんだろうなぁ。
バカは刃物を持って襲いかかってくる「呪いの西洋人形」みたいなリリアちゃんに向かって剣を引いて構える。振り下ろされたリリアちゃんの刃を剣で受け止めるや押し返すように小さな体を簡単に弾き飛ばした。
空を飛んだ西洋人形は着地地点でのろのろ動いていた全身甲冑の兵の胸を蹴って再度空中からバカに向かう。
プレートアーマーさんはむごたらしい勢いでふっ飛ばされ、けたたましい音を立ててひっくり返った。中身はルディアス王弟殿下だ。
ルディアス王子は幼い妹の暴走を止めるべき立場だった。
その責務を果たさないばかりか正当な理由もなく王家の秘術を私的乱用した。それも第三者の立ち合いもなしで。
数え切れない程の違反行為に陛下は性根を叩き直してやると罰と報いとして新兵として軍への入隊を命じた。プレートアーマー姿で。
全身甲冑でロクに動けない兄を踏み台するという、鬼のような所業を見せるリリアちゃん。
「うまい」
陛下は満足そうにリリアちゃんの所業を笑顔で評価した。
どこの家も姉や妹には虐げられがちなんだよな、男って。
「もぉぉぉ……いやぁぁぁぁぁ!!」
泣き言にも聞こえるが半泣きという事もなく、むしろ気合の発声だ。
殺意さえ滲みそうな形相で、何度いなされても踏ん張ってリリアちゃんは向かって行く。とんでもないバイタリティだ。
「根性がある」
陛下は目を細め実に楽しそうに笑みを浮かべて妹の頑張りを見守っているがコレ大丈夫だろうか。
ていうか俺が思っていた形と完全に違うんだよ。
俺がリリアちゃんに言った「一緒に」っていうのはこの席で一緒にお茶しましょう、の意味だったワケで。
決して訓練場の中でバカと一緒に剣を振り回せばいいと言ったんじゃなかったのに。
なんでこんな「え、これ虐待にあたらない?」みたいな事になってるんだろう。
ちらりと陛下の横顔を見る。
「どうして彼らが日々訓練に励むのか、それがどれほど過酷なのかあいつらは身をもって学ぶべきだし、自分がしでかした事の重大さを知るべきなんだ。気にしなくていい」
そう言う陛下の目はいつになく真剣だった。
「さて、私も腹ごなしがてらしごいてくるかな」
軽く笑っているが、参戦した陛下は実の弟、妹を相手にするだけあって容赦がない。まだバカの方が手加減しているのが分かるくらいだった。アイツ手加減とか出来たんだなぁ。
国のトップに立つ人はそれだけの覚悟があるんだろうなと思うけど、嬲るように喜々として弟や妹の相手をしている所を見るとありがちな『長女の横暴』にも見える。
けっして兄妹仲が悪いとか冷めているというわけではなく、これまで時間がなかっただけなんだろう。
そう思いたい。切実に。
「いーーーーやぁぁぁぁぁ!」
演習場の中央、軍人の皆さんが作る人垣の中から悲鳴にも、気合いにも聞こえる少女の奇声が響く。
空中に舞いあがったのは赤い重厚なドレス姿で大きな剣を振りかぶり、カイルに向かう少女。その顔は鬼気迫るものがあり、西洋人形が人を襲っているようにしか見えない。
なんか、ホラー系の洋画にそういうのがあったなと遠い目になる。
「……ドレスなんですね」
どうしてもっと動きやすい格好じゃないのか。
「アレは基本的にああいう格好しかしないからな。あの格好で動けないといざという時に意味がないんだ」
陛下が優雅に紅茶を一口飲んだあとカップを戻しながらそう微笑む。
至極まっとうな理由だった。
リリアちゃんごめんな。お姫様のプライドかと思っちゃったわ。
「まぁ淑女の戦闘服ってやつだな」
そう言って陛下がきれいに口元に笑みを浮かべる。
……なんか違う気がする。
真偽を確かめようとついチラリとバドルスさんを見やると「何も言うまい」顔だった。この人も苦労人なんだろうなぁ。
バカは刃物を持って襲いかかってくる「呪いの西洋人形」みたいなリリアちゃんに向かって剣を引いて構える。振り下ろされたリリアちゃんの刃を剣で受け止めるや押し返すように小さな体を簡単に弾き飛ばした。
空を飛んだ西洋人形は着地地点でのろのろ動いていた全身甲冑の兵の胸を蹴って再度空中からバカに向かう。
プレートアーマーさんはむごたらしい勢いでふっ飛ばされ、けたたましい音を立ててひっくり返った。中身はルディアス王弟殿下だ。
ルディアス王子は幼い妹の暴走を止めるべき立場だった。
その責務を果たさないばかりか正当な理由もなく王家の秘術を私的乱用した。それも第三者の立ち合いもなしで。
数え切れない程の違反行為に陛下は性根を叩き直してやると罰と報いとして新兵として軍への入隊を命じた。プレートアーマー姿で。
全身甲冑でロクに動けない兄を踏み台するという、鬼のような所業を見せるリリアちゃん。
「うまい」
陛下は満足そうにリリアちゃんの所業を笑顔で評価した。
どこの家も姉や妹には虐げられがちなんだよな、男って。
「もぉぉぉ……いやぁぁぁぁぁ!!」
泣き言にも聞こえるが半泣きという事もなく、むしろ気合の発声だ。
殺意さえ滲みそうな形相で、何度いなされても踏ん張ってリリアちゃんは向かって行く。とんでもないバイタリティだ。
「根性がある」
陛下は目を細め実に楽しそうに笑みを浮かべて妹の頑張りを見守っているがコレ大丈夫だろうか。
ていうか俺が思っていた形と完全に違うんだよ。
俺がリリアちゃんに言った「一緒に」っていうのはこの席で一緒にお茶しましょう、の意味だったワケで。
決して訓練場の中でバカと一緒に剣を振り回せばいいと言ったんじゃなかったのに。
なんでこんな「え、これ虐待にあたらない?」みたいな事になってるんだろう。
ちらりと陛下の横顔を見る。
「どうして彼らが日々訓練に励むのか、それがどれほど過酷なのかあいつらは身をもって学ぶべきだし、自分がしでかした事の重大さを知るべきなんだ。気にしなくていい」
そう言う陛下の目はいつになく真剣だった。
「さて、私も腹ごなしがてらしごいてくるかな」
軽く笑っているが、参戦した陛下は実の弟、妹を相手にするだけあって容赦がない。まだバカの方が手加減しているのが分かるくらいだった。アイツ手加減とか出来たんだなぁ。
国のトップに立つ人はそれだけの覚悟があるんだろうなと思うけど、嬲るように喜々として弟や妹の相手をしている所を見るとありがちな『長女の横暴』にも見える。
けっして兄妹仲が悪いとか冷めているというわけではなく、これまで時間がなかっただけなんだろう。
そう思いたい。切実に。
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