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第1章 はじまるまでの5週間
26、5週目 土曜日 <空港にてお迎え>
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たろさんはわたしの頭にぽんと手を置いた。
「お迎えありがとう。知られたくなかったんじゃなくて、あいつらと仲よさそうにしてるの見てちょっと複雑だっただけ。堀ちゃん、俺にはずっと敬語だよね」
あ、そこでしたか。
「わたしそのへんフランクになれないんですよ。年上にタメ口はどうも無理ですね」
「まぁそいうとこ堀ちゃんらしくていいんだけどね」
そう言ってもらえると助かります。
敬語やめろとか言われるのは正直きつい。
「ちょっと遠いトコ停めちゃいました。車取って来ましょうか?」
車は空港の有料駐車場に停めてきた。
たろさんは出張帰りなので何と言われてもわたしが運転する気でいた。
「そんなに重くないから大丈夫。会社の駐車場、土曜の夜なら置けただろうから経理に聞いとけば良かったね」
……あー、と。
やっぱり今も駐車場の管理は経理が担当しているのかぁ。
だったら━━
「いえ、いいです、大丈夫です」
「そう? どうせ空いてるんだからちょっと停めるくらい大丈夫だと思うけど。堀ちゃんなんだし」
「まあ……そうなんですけどね」
複雑なんですよ、わたしも。
うーん、態度が不自然になっちゃったかな。
「まぁ、あそこ狭いから停めにくいか」
たろさんは少し不思議そうだったけど、そう言ってくれた。
たろさんは、優しい。
二人で来るままで歩き、荷物は後部座席乗せた。私が運転席に座りキーレスですぐに車のロックをする。
「堀ちゃん、鍵しめる人なんだ」
「まぁ、防犯ですねぇ。一人で乗ってて信号待ちで乗り込まれた、とかニュースとか聞くと夜は怖いですし。さくらを乗せるようになったから余計に」
子供用のシートに乗せてベルトもちゃんと着用しているが、それでも鍵に手が届いて開けたら、と思うと怖い。
最近、内側からは開けられなくなるチャイルドロックなる機能を知ったばかりだ。
もっと早く知りたかった。
そう言ったら、たろさんは笑いながらまた頭を撫でてくれた。
身長が低いからちびっこ扱いされている気がする。
少し体をひねってシートベルトを留めようとすると、ふとたろさんが上半身を寄せてきた。
顔を上げると目が合って、軽く唇が重なった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
うぅ、めちゃくちゃ照れる。
街灯からは離れているし、人影もないとはいえ。
その後たろさんはおとなしくシートベルトを着用してくれた。
運転しないといけないのに動悸がすごい状態なんですけど。
ただでさえ男の人を乗せての運転は緊張すると言うのに。
だって、絶対男の人の方が運転上手なんだもん。
駐車とか1回で決められないから恥ずかしい気がして余計にあせる。
たろさんの言動は素直だ。
わたしが誤解しないよう、誤解しそうな時はちゃんと色々言ってくれる。
わたしも見習うべきだ。
「あのですね、さっきの駐車場の事なんですけどね」
「ん?」
あー、言いづらい。
一つ、大きく深呼吸する。
「会社の駐車場借りてくれるって事は、どこが空いてるか経理と連絡取らなきゃいけないじゃないですか。それでですね、今も女の子が担当してるんだったら、ちょっと、その、なんというか嫌じゃないんですけど、わたしもちょっと複雑になっちゃいまして」
一度息を整えた。
ハンドルを握る手が震える。
そりゃまぁ、会社勤めである以上、いろんな女性と接する機会はいくらでもあるんだから、こんな事を言うのは本当に嫌な女だと分かってるんだけど。
「仕事で話すのは全然気にならないんですけど、何と言うかある意味、仕事じゃないじゃないですか。せっかく言ってくれたのに、もうホントすみません」
自分がかつてあの部署にいて、男性社員との距離が近い事を知っているから。
出張者の飛行機は往路は経理で準備するが、復路は休業日に決まったりするので基本的に自力で手配する。
出張に出てしまえば、次に経理と関わるのは出張費の精算だけだ。
だから、必要以上に普段以上に話す機会が増えるのが、複雑だった。
いやだと、思ってしまったのだ。
「うわ」
たろさんが驚いたようにこちらを見て、ポツリと言った。
うわ、「うわ」って言われた。
そりゃそうだよな。
わたしは運転中なので前を向いていたけれど、たろさんがものすごく驚いているのが気配で分かった。
あぁ、もう。嫌だなぁ。
いい年した社会人がこんな我が儘言って。
めんどくさい女だよなぁ。
ちょっと泣きたい。
あぁ、動悸が一向に治まらない。
「堀ちゃんかわいい」
━━あの、何を聞いていたんですか?
「うわー、ちょ、堀ちゃん。それはズルいって。反則すぎ」
綺麗な顔を両手で覆ってうつむくたろさんの一言で、動悸は一瞬で落ち着いた。
よく分からないけど、次はたろさんが落ち着かないといけない番だと思う。
「お迎えありがとう。知られたくなかったんじゃなくて、あいつらと仲よさそうにしてるの見てちょっと複雑だっただけ。堀ちゃん、俺にはずっと敬語だよね」
あ、そこでしたか。
「わたしそのへんフランクになれないんですよ。年上にタメ口はどうも無理ですね」
「まぁそいうとこ堀ちゃんらしくていいんだけどね」
そう言ってもらえると助かります。
敬語やめろとか言われるのは正直きつい。
「ちょっと遠いトコ停めちゃいました。車取って来ましょうか?」
車は空港の有料駐車場に停めてきた。
たろさんは出張帰りなので何と言われてもわたしが運転する気でいた。
「そんなに重くないから大丈夫。会社の駐車場、土曜の夜なら置けただろうから経理に聞いとけば良かったね」
……あー、と。
やっぱり今も駐車場の管理は経理が担当しているのかぁ。
だったら━━
「いえ、いいです、大丈夫です」
「そう? どうせ空いてるんだからちょっと停めるくらい大丈夫だと思うけど。堀ちゃんなんだし」
「まあ……そうなんですけどね」
複雑なんですよ、わたしも。
うーん、態度が不自然になっちゃったかな。
「まぁ、あそこ狭いから停めにくいか」
たろさんは少し不思議そうだったけど、そう言ってくれた。
たろさんは、優しい。
二人で来るままで歩き、荷物は後部座席乗せた。私が運転席に座りキーレスですぐに車のロックをする。
「堀ちゃん、鍵しめる人なんだ」
「まぁ、防犯ですねぇ。一人で乗ってて信号待ちで乗り込まれた、とかニュースとか聞くと夜は怖いですし。さくらを乗せるようになったから余計に」
子供用のシートに乗せてベルトもちゃんと着用しているが、それでも鍵に手が届いて開けたら、と思うと怖い。
最近、内側からは開けられなくなるチャイルドロックなる機能を知ったばかりだ。
もっと早く知りたかった。
そう言ったら、たろさんは笑いながらまた頭を撫でてくれた。
身長が低いからちびっこ扱いされている気がする。
少し体をひねってシートベルトを留めようとすると、ふとたろさんが上半身を寄せてきた。
顔を上げると目が合って、軽く唇が重なった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
うぅ、めちゃくちゃ照れる。
街灯からは離れているし、人影もないとはいえ。
その後たろさんはおとなしくシートベルトを着用してくれた。
運転しないといけないのに動悸がすごい状態なんですけど。
ただでさえ男の人を乗せての運転は緊張すると言うのに。
だって、絶対男の人の方が運転上手なんだもん。
駐車とか1回で決められないから恥ずかしい気がして余計にあせる。
たろさんの言動は素直だ。
わたしが誤解しないよう、誤解しそうな時はちゃんと色々言ってくれる。
わたしも見習うべきだ。
「あのですね、さっきの駐車場の事なんですけどね」
「ん?」
あー、言いづらい。
一つ、大きく深呼吸する。
「会社の駐車場借りてくれるって事は、どこが空いてるか経理と連絡取らなきゃいけないじゃないですか。それでですね、今も女の子が担当してるんだったら、ちょっと、その、なんというか嫌じゃないんですけど、わたしもちょっと複雑になっちゃいまして」
一度息を整えた。
ハンドルを握る手が震える。
そりゃまぁ、会社勤めである以上、いろんな女性と接する機会はいくらでもあるんだから、こんな事を言うのは本当に嫌な女だと分かってるんだけど。
「仕事で話すのは全然気にならないんですけど、何と言うかある意味、仕事じゃないじゃないですか。せっかく言ってくれたのに、もうホントすみません」
自分がかつてあの部署にいて、男性社員との距離が近い事を知っているから。
出張者の飛行機は往路は経理で準備するが、復路は休業日に決まったりするので基本的に自力で手配する。
出張に出てしまえば、次に経理と関わるのは出張費の精算だけだ。
だから、必要以上に普段以上に話す機会が増えるのが、複雑だった。
いやだと、思ってしまったのだ。
「うわ」
たろさんが驚いたようにこちらを見て、ポツリと言った。
うわ、「うわ」って言われた。
そりゃそうだよな。
わたしは運転中なので前を向いていたけれど、たろさんがものすごく驚いているのが気配で分かった。
あぁ、もう。嫌だなぁ。
いい年した社会人がこんな我が儘言って。
めんどくさい女だよなぁ。
ちょっと泣きたい。
あぁ、動悸が一向に治まらない。
「堀ちゃんかわいい」
━━あの、何を聞いていたんですか?
「うわー、ちょ、堀ちゃん。それはズルいって。反則すぎ」
綺麗な顔を両手で覆ってうつむくたろさんの一言で、動悸は一瞬で落ち着いた。
よく分からないけど、次はたろさんが落ち着かないといけない番だと思う。
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