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第2章 その後のふたり

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「相変わらず遅い時間な上に不規則になるから。振り回すのは悪いし」
 そう言うたろさんとは平日はほとんど会わないし、お泊りもあまりない。
 お互いの週末の出勤状態による。
 まぁ、休日はなんとかそれなりに会えているから、ありがたい話だ。

「付き合い始めからいきなり入りびたってたら、なあなあになるしね。そのまま一日家で過ごすようになるのはまだ早いかな、と思うんだけど」
 ロマンチストなのか、それともこっちが年下だから「外でデートしたいんじゃないか」的な事を気にしてくれているのか。
 くすぐったい気もするけど、やっぱり嬉しい。

 ただ、ふと以前、わたしがあまり会わなくていい方だと言っていたのを気にしているのかと思って聞いてみた事がある。
 うちで夕飯を食べていた時の事だ。
「ああ、ごめん。忘れてた。そう言ってたよね。あの会社でそれなりに会えてるから満足してた、かな。俺としてはもうちょっと会いたい気もするけど……月に2,3回会えたら良かったんだっけ?」
 そう、珍しく意地悪な笑みを浮かべて言われた。
 そんな表情、初めて見るかも。役得だわぁ。

 はい、確かにワタクシそういう人でした。
 実際たろさんにそう言っちゃってるしね。

「長期出張になると1ヵ月とか会えない可能性がある事を考えると、会えるうちに会っとくという方針に変更しました。さすがに1ヵ月はさみしくなると思いますのでご安心ください」
 たろさんに合わせていじけたように返せば、どうやら何かのスイッチを入れてしまったらしい。
 その日は「猫かわいがり」の猫の方を、身をもって体験する事になった。

「まぁご不在の間に普段出来ないような事を、しこたま実行する可能性も大いにありますけどね。悲観するよりも有意義に過ごした方が、お互い精神的にもいいと思うんですよね」
 たろさんの腕の中でそう宣言すれば、そこからはもっと大変だった。
 ぎゅーっと、かなり強く抱きしめられた後、それが緩められるとともにたろさんは大きな吐息を一つ。
 そして一言。
「堀ちゃん、最高です」
 肩口に顔をうずめられていたので表情は見えなかった。
 たろさん、それは言い過ぎだと思います!
 あ、ちなみにすべて着衣の状態ですから。

◆◇◆

 先日、最近のバレンタイン事情の調査を行うという、なんとも乙女な行為を何年か振りにしてしまった。
 悩みに悩んだ末、これまた恐ろしく久し振りにガトーショコラを作り、残業帰りのたろさんに寄ってもらった。
 車を停める所がないので渡すだけになったになっちゃったけど。たろさんご飯食べてないしね。
 というのもこの所たろさんはお忙しくて、『終わりが読めない』タイプの残業続き。その帰りに寄ってもらうのが申し訳ないくらいだった。
 
 その時たろさんは「角の所に月極めあるよね? あそこ借りようかな、と企んでるんだけど……いいかな?」と、そんな事を言い出した。

 確かに近所に月極の駐車場がある。
 田舎なので一戸建ての人はみんな家に停められるせいもあって、ほとんど借りられてない。
 なぜあそこで月極駐車場をしようと思ったのか、と思った事もある場所だ。
 この辺りの相場は月3千円から5千円と言ったところだけど。

「あ、まだ入り浸るつもりはありませんので」
 毎月それだけ出費させるのもなぁ、と思っていたらそう言われたので笑ってしまった。
 ただでさえ「家での食事代の代わりに」と、外出先の食事代のほとんどをたろさんが出してくれているというのに。
 たろさんばかりに負担させるのは心苦しい物があるんだけど━━
 ホテル代に比べたら安い物かと思う事にして納得する事にした。

 こちらも働いているんだから、デート代などフィフティ&フィフティが理想なわけで、本音を言うとホテル代だって負担したい派である。
 友達には「世間一般ではそんなの少数派だけど、あんたらしい」と言われる。
 うん、分かってる。
 そして仮にわたしが実家暮らしだった場合、たろさんは絶対に出させる人ではないわけで。

 それが現在一人暮らし。
 行く必要もなかろうという事で、そこは経費ゼロとみなそうではないか。
 羞恥心と戦いながら、その辺りを協議する過酷な時間を設けなくていいのは非常に助かった。
 その代わり、頑張って美味しい物を作るよう心がけます。

 個人の手作り看板の連絡先に問い合わせたら、月極駐車場の隣が持ち主だったそうで、その日から置かせてもらえるようになったらしい。
 しかも月5千円だけど、今月は半分終わってるから千円でいいって。
 どんな計算方法なんだろう。
 あれだけ空いてるから、借りてもらえるだけで嬉しいのかもしれない。
 田舎の土地持ちのおばさま、ありがとう。
 この辺りのおばちゃんはアバウトで話しやすくてあったかい人が多い。

「ご家族とか友達が来た時に停めてもらっていいから」
 そう言ってくれたたろさん。
 その見事なまでの配慮に思わずときめいてしまった。

 これまでの付き合いを考えると、そういうのは主にわたしがメインだったように思う。
 キャラが逆転したようなこの関係は、とても新鮮だったし、なんとも穏やかな安心感を与えてもらえる。
 ああ、もう、ほんとに。
 たろさんも最高ですよ。
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