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職場変更に異議あり 1
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「こらアンリ、シャキッとしないか!」
朝から元気な同僚は、そう言って俺の腰を叩いた。
ズーンと重怠い腰が気持ちいい。
「もっと叩いて……」
「おまっ、そんな縋るような目で見るな……。俺は既婚者なんだ――」
同僚は叫びながら走って行った。
「縋りたくもなる……」
腰が痛い。初めて情事が何時間やっていたのか覚えていないが、朝のあの男はしつこかった。一日休みを潰したくらいで復活できるほど……まぁ二日酔いもあったけど。
「アンリ、おはよう。長官が呼んでるって」
席につくと同期がそう言った。
「おはよう、え、俺へましたっけ?」
「お前、先輩の結婚式抜け出しただろう。凄いイケメンと」
「見てたの?」
まさか見られていたとは。
「クロだっけ。何か犬みたいな名前だなと思ったけど、お前めちゃ愛想いい笑いしてたから馬車まで一緒に送ったんだ。仲いいんだな」
「なっ……」
おかしいと思ったんだ。知り合いだらけのあの場から酔っ払って前後不覚になっている俺がどうして連れ出されたのか。
「ん? 大変そうだったぜ。お姫様抱っこだもんな。オマエらが主役かって思ったぜ」
「お前か――! お前のせいか! しかもお姫様抱っこだと? ……俺、もう帰る。一日皆におちょくられるのいやだ……」
俺の職場はこいつ以外皆年上だ。既婚者が多いせいか『早く結婚しろ』が口癖だ。
結婚なんてとんでもない。俺があの男で知っているのは甘い物が好きだとかやたらしつこいとかキスがうまいとか……ゴホン、そんなものだ。
「馬鹿、長官が呼んでるって言っただろう。さっさと行ってこい」
長官にまで揶揄われたらどうしようと思いながら部屋に行った。と言っても廊下を挟んで反対側の部屋なだけで。こっちが十二人で使ってる部屋と同じ間取りをエドウィン長官と補佐がつかっている。財務管理官室と書いてある扉をノックして「アンリです」と名乗ると「どうぞ」と声が聞こえた。
「アンリ、一昨日は心配したぞ。家に帰られたのか?」
「はい。帰りました」
はぁとため息を吐かれた。始まったよ、これだよ。
「お前はもっと遊びなさい。元は悪くないんだ。男でも女でもいい。誰かいないのかね」
いたけど、一昨日結婚しましたとは言えない。
「長官、越権行為です。静かに部下を見守ってください」
こうやって言い返せるところはいいところなんだが、この財務省はなれ合いすぎだと思う。親戚の叔父さんと話している気がしてならない。
「アンリ、今日からお前は財務から外務に移籍する」
「どうしてですか! 俺が……恋人も作れないからですか!」
馬鹿馬鹿しい理由だがないとは限らない。こういうお金に関する仕事というのは守るものがある人間ほど向いているのだ。大金を前にちらつく家族の顔というものが抑止力になると思われている。
「アンリ、違う――。今回は外務からの頼みなんだ。ここで貸しを作っておきたい」
エドウィン長官の笑みが黒い。
「長官、売ったんですね!」
「売ったとは人聞きが悪いぞ。まぁ、貸し出しのつもりだ。戻ってきた大使の補佐官がしばらく引き継ぎで帰ってこられないそうだから、優秀な人材を欲しいと言われてな」
「優秀な人材なんて外務の方が沢山いるでしょう!」
外務は花形なのだ。
「それが……補佐官になりたい人間が沢山いてな……。昨日の午後だけで殺伐とした雰囲気ができあがってたまらんと外務長官に泣きつかれてな……」
「そんな地獄みたいなところに俺を貸し出すんですか! 長官!」
泣き落としは効かなかった。
「とりあえず挨拶に行ってこい。どうしても雰囲気が駄目だったら帰ってきてもいい。ただし、私の顔に泥を塗る覚悟でな」
ぎゃーそんなの無理無理。
「はい。……行ってきます」
「まぁしょげるな。イケメンだし、結婚相手にも悪くないぞ」
ダメ押しか! と扉を壊す勢いで閉じた。廊下にいるものは何事かと俺の方をみる。
「イケメンの大売り出しかよ」
この前までイケメンなんてぶつかったこともないのに。
独り言はむなしく空に融けた。
とりあえず外務省に行くことにした。金持ちや身分の高いものが多い外務は俺にとってあまり行きたい場所じゃない。
離れている外務の宮まで行くのは、今の俺の身体では辛かった。ため息を何度も飲み込んで、宮仕えって辛いよな~と歩きながら思った。
朝から元気な同僚は、そう言って俺の腰を叩いた。
ズーンと重怠い腰が気持ちいい。
「もっと叩いて……」
「おまっ、そんな縋るような目で見るな……。俺は既婚者なんだ――」
同僚は叫びながら走って行った。
「縋りたくもなる……」
腰が痛い。初めて情事が何時間やっていたのか覚えていないが、朝のあの男はしつこかった。一日休みを潰したくらいで復活できるほど……まぁ二日酔いもあったけど。
「アンリ、おはよう。長官が呼んでるって」
席につくと同期がそう言った。
「おはよう、え、俺へましたっけ?」
「お前、先輩の結婚式抜け出しただろう。凄いイケメンと」
「見てたの?」
まさか見られていたとは。
「クロだっけ。何か犬みたいな名前だなと思ったけど、お前めちゃ愛想いい笑いしてたから馬車まで一緒に送ったんだ。仲いいんだな」
「なっ……」
おかしいと思ったんだ。知り合いだらけのあの場から酔っ払って前後不覚になっている俺がどうして連れ出されたのか。
「ん? 大変そうだったぜ。お姫様抱っこだもんな。オマエらが主役かって思ったぜ」
「お前か――! お前のせいか! しかもお姫様抱っこだと? ……俺、もう帰る。一日皆におちょくられるのいやだ……」
俺の職場はこいつ以外皆年上だ。既婚者が多いせいか『早く結婚しろ』が口癖だ。
結婚なんてとんでもない。俺があの男で知っているのは甘い物が好きだとかやたらしつこいとかキスがうまいとか……ゴホン、そんなものだ。
「馬鹿、長官が呼んでるって言っただろう。さっさと行ってこい」
長官にまで揶揄われたらどうしようと思いながら部屋に行った。と言っても廊下を挟んで反対側の部屋なだけで。こっちが十二人で使ってる部屋と同じ間取りをエドウィン長官と補佐がつかっている。財務管理官室と書いてある扉をノックして「アンリです」と名乗ると「どうぞ」と声が聞こえた。
「アンリ、一昨日は心配したぞ。家に帰られたのか?」
「はい。帰りました」
はぁとため息を吐かれた。始まったよ、これだよ。
「お前はもっと遊びなさい。元は悪くないんだ。男でも女でもいい。誰かいないのかね」
いたけど、一昨日結婚しましたとは言えない。
「長官、越権行為です。静かに部下を見守ってください」
こうやって言い返せるところはいいところなんだが、この財務省はなれ合いすぎだと思う。親戚の叔父さんと話している気がしてならない。
「アンリ、今日からお前は財務から外務に移籍する」
「どうしてですか! 俺が……恋人も作れないからですか!」
馬鹿馬鹿しい理由だがないとは限らない。こういうお金に関する仕事というのは守るものがある人間ほど向いているのだ。大金を前にちらつく家族の顔というものが抑止力になると思われている。
「アンリ、違う――。今回は外務からの頼みなんだ。ここで貸しを作っておきたい」
エドウィン長官の笑みが黒い。
「長官、売ったんですね!」
「売ったとは人聞きが悪いぞ。まぁ、貸し出しのつもりだ。戻ってきた大使の補佐官がしばらく引き継ぎで帰ってこられないそうだから、優秀な人材を欲しいと言われてな」
「優秀な人材なんて外務の方が沢山いるでしょう!」
外務は花形なのだ。
「それが……補佐官になりたい人間が沢山いてな……。昨日の午後だけで殺伐とした雰囲気ができあがってたまらんと外務長官に泣きつかれてな……」
「そんな地獄みたいなところに俺を貸し出すんですか! 長官!」
泣き落としは効かなかった。
「とりあえず挨拶に行ってこい。どうしても雰囲気が駄目だったら帰ってきてもいい。ただし、私の顔に泥を塗る覚悟でな」
ぎゃーそんなの無理無理。
「はい。……行ってきます」
「まぁしょげるな。イケメンだし、結婚相手にも悪くないぞ」
ダメ押しか! と扉を壊す勢いで閉じた。廊下にいるものは何事かと俺の方をみる。
「イケメンの大売り出しかよ」
この前までイケメンなんてぶつかったこともないのに。
独り言はむなしく空に融けた。
とりあえず外務省に行くことにした。金持ちや身分の高いものが多い外務は俺にとってあまり行きたい場所じゃない。
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