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職場変更に異議あり 2
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「こちらです」
値踏みから始まり、勝ったという優越感を漂わせて女が案内してくれた。わかりやすすぎる。狸や狐の巣窟とまで言われた外務がそんなことでいいのかと思いながらノックした。
「どうぞ」
軽やかな声、声までイケメンて――と思いながら、あれどっかで同じように思ったなと思い出した。
「アンリです。財務長官から命じられてこちらに来ました」
扉を開けるとイケメンがいた。おお、金色キラキラなサラサラ王子様。いや、金色サラサラなキラキラ王子様か。間違えると砂になっていく王子様になるなと思いながらやはり既視感が。
「やぁ、アンリ。待っていたよ」
大使は軽やかに立ち上がり、俺を抱きしめた。
「えっ」
ギュッと抱きしめて俺の匂いを嗅ぐ。
フンフン……って、まさかクロ?
「クロ? 髪の色も目の色も違うけど……」
「ワン」
金髪緑の瞳のキラキラ王子様がワンと鳴きました。
「クロ……ード……だったっけ」
かろうじて覚えていた。
「そうだよ。クロード・リスホード。やっと名乗れて嬉しいよ」
「……どうして。俺のこと知ってて呼んだのか?」
突然の移動は嫌がらせかなんかだろうか。
「もう一度会いたかったんだ、アンリ」
低い声が耳朶を打つ。
「俺は別に会いたくなんて――」
「好きだ」
チュッと鼻の先にキスされた。
「す、好き? 会ったばかりで――」
運命の出会いなんて信じてない。そもそもこの男は新婦を諦められなくてあんな愁嘆場を演じていたのではなかったか。
「時間なんて関係ないよ――」
「あ……っ、ちょっと――クッ」
クロと呼ぼうとしたところをヌルッと舌が入ってきた。俺の好きなところという上顎の丸い部分をクロが舐めた。背筋を走ったのは紛れもない快感だ。
「んっ、アンリ――。可愛い」
器用な指が乳首を摘まんで、先を人差し指がなぞる。
「あっ! クロっ、やめ――」
脚が震えて立っていられなくなったところにガチャっと人が入ってきた。さっきの女だ。
「呼んでない、勝手に入ってくるな」
焦りをみせない冷静な声、胸元が開けた状態でなんてごまかすのかとドキマギしていたら、ひっくり返ったような声で女が訊ねた。
「クロード様? 何を――」
「具合が悪そうなので支えている。冷たい飲み物でも運んできてくれ」
まぁ顔も赤いし、息も整えてる最中だし、見た感じ具合がわるそ――なわけあるか!
「それでしたら、救護室へお連れしますわ。クロード様に移っては大変ですもの」
カチンときたけれど、それよりクロードの方がお怒りモードにはいった。
「お前は言われたことを理解できないのか?」
それに気づいた女は、慌てて踵を返した。
「は、はいっ、ただいまお持ちいたします」
「行け――」
冷や汗を掻いた。酷い、職場で襲われるとかありえない。これはお家に(財務に)帰っていい案件ではないだろうか。
「ごめんね、アンリ。我慢できなかったんだ」
叱られた犬のようにしょんぼりしたクロードは、そう言って来客用のソファに俺を運んだ。胸のボタンをはめて、名残おしそうに指が離れていった。
「俺は財務に帰る――」
「そんなこと言わないで――。帰ってきたばかりで慣れてないんだ。私を厳しく叱ってくれるアンリがいないときっと仕事ができないよ」
「お前、大使だろう。めちゃくちゃ優秀じゃないか」
「違う違う、名前だけだよ。ほら、家柄だけはいいから――。皆優しいから、仕事できなくても大丈夫なんだよ。だから、ほら、アンリのように私を甘やかさない人が側にいて欲しいんだ」
手を握られて、ジッと緑の瞳が不安そうに揺れているのをみると、思わず頷いてしまった。駄目――駄目なのに。
「嬉しい、アンリ。私も頑張るよ。もう大使は返上したんだ。ずっとここで、アンリと一緒にお仕事できるよ。昼ご飯は会議で潰れることが多いから、十時と十五時におやつを食べようね」
「ずっとって――、補佐官が帰ってくるまでじゃ――」
「アンリは、私と一緒にいたくないの?」
「そういうことじゃないけど!」
「良かった。大丈夫。前の補佐官はきっと帰ってこないと思うんだ。寿退職してると思うから、安心して?」
きっぱり断れない自分がうらめしい。
「寿退職って男じゃなかったっけ? 結婚しても仕事を続けるだろう」
「うん、でも向こうの王子に見初められて結婚だから、帰って来られないんじゃないかな」
「王子様に見初められたってすごい人だったんだな」
「凄く優秀だったからね――。だから困るんだ。私一人じゃ……」
自分の犬がそんな不安そうな顔をしていて見ていられる飼い主がいるだろうか。いや、いない。
「わかったよ、でも俺そんな人と比べられても困るからな……。頑張るけど」
「うんうん、嬉しいよ。私もアンリが見ててくれたら頑張れるよ」
そうやって情だかなんだかに訴えられて俺はクロードの補佐官になることになってしまった。
冷たい飲み物は、何故か先にクロードが飲もうとして女が悲鳴を上げて取り上げた。
え、毒味? しかも何をいれたの。怖い、怖いよ外務。
次の日、俺が補佐官として正式に紹介されたとき、その女の人の姿は見えなかった。
値踏みから始まり、勝ったという優越感を漂わせて女が案内してくれた。わかりやすすぎる。狸や狐の巣窟とまで言われた外務がそんなことでいいのかと思いながらノックした。
「どうぞ」
軽やかな声、声までイケメンて――と思いながら、あれどっかで同じように思ったなと思い出した。
「アンリです。財務長官から命じられてこちらに来ました」
扉を開けるとイケメンがいた。おお、金色キラキラなサラサラ王子様。いや、金色サラサラなキラキラ王子様か。間違えると砂になっていく王子様になるなと思いながらやはり既視感が。
「やぁ、アンリ。待っていたよ」
大使は軽やかに立ち上がり、俺を抱きしめた。
「えっ」
ギュッと抱きしめて俺の匂いを嗅ぐ。
フンフン……って、まさかクロ?
「クロ? 髪の色も目の色も違うけど……」
「ワン」
金髪緑の瞳のキラキラ王子様がワンと鳴きました。
「クロ……ード……だったっけ」
かろうじて覚えていた。
「そうだよ。クロード・リスホード。やっと名乗れて嬉しいよ」
「……どうして。俺のこと知ってて呼んだのか?」
突然の移動は嫌がらせかなんかだろうか。
「もう一度会いたかったんだ、アンリ」
低い声が耳朶を打つ。
「俺は別に会いたくなんて――」
「好きだ」
チュッと鼻の先にキスされた。
「す、好き? 会ったばかりで――」
運命の出会いなんて信じてない。そもそもこの男は新婦を諦められなくてあんな愁嘆場を演じていたのではなかったか。
「時間なんて関係ないよ――」
「あ……っ、ちょっと――クッ」
クロと呼ぼうとしたところをヌルッと舌が入ってきた。俺の好きなところという上顎の丸い部分をクロが舐めた。背筋を走ったのは紛れもない快感だ。
「んっ、アンリ――。可愛い」
器用な指が乳首を摘まんで、先を人差し指がなぞる。
「あっ! クロっ、やめ――」
脚が震えて立っていられなくなったところにガチャっと人が入ってきた。さっきの女だ。
「呼んでない、勝手に入ってくるな」
焦りをみせない冷静な声、胸元が開けた状態でなんてごまかすのかとドキマギしていたら、ひっくり返ったような声で女が訊ねた。
「クロード様? 何を――」
「具合が悪そうなので支えている。冷たい飲み物でも運んできてくれ」
まぁ顔も赤いし、息も整えてる最中だし、見た感じ具合がわるそ――なわけあるか!
「それでしたら、救護室へお連れしますわ。クロード様に移っては大変ですもの」
カチンときたけれど、それよりクロードの方がお怒りモードにはいった。
「お前は言われたことを理解できないのか?」
それに気づいた女は、慌てて踵を返した。
「は、はいっ、ただいまお持ちいたします」
「行け――」
冷や汗を掻いた。酷い、職場で襲われるとかありえない。これはお家に(財務に)帰っていい案件ではないだろうか。
「ごめんね、アンリ。我慢できなかったんだ」
叱られた犬のようにしょんぼりしたクロードは、そう言って来客用のソファに俺を運んだ。胸のボタンをはめて、名残おしそうに指が離れていった。
「俺は財務に帰る――」
「そんなこと言わないで――。帰ってきたばかりで慣れてないんだ。私を厳しく叱ってくれるアンリがいないときっと仕事ができないよ」
「お前、大使だろう。めちゃくちゃ優秀じゃないか」
「違う違う、名前だけだよ。ほら、家柄だけはいいから――。皆優しいから、仕事できなくても大丈夫なんだよ。だから、ほら、アンリのように私を甘やかさない人が側にいて欲しいんだ」
手を握られて、ジッと緑の瞳が不安そうに揺れているのをみると、思わず頷いてしまった。駄目――駄目なのに。
「嬉しい、アンリ。私も頑張るよ。もう大使は返上したんだ。ずっとここで、アンリと一緒にお仕事できるよ。昼ご飯は会議で潰れることが多いから、十時と十五時におやつを食べようね」
「ずっとって――、補佐官が帰ってくるまでじゃ――」
「アンリは、私と一緒にいたくないの?」
「そういうことじゃないけど!」
「良かった。大丈夫。前の補佐官はきっと帰ってこないと思うんだ。寿退職してると思うから、安心して?」
きっぱり断れない自分がうらめしい。
「寿退職って男じゃなかったっけ? 結婚しても仕事を続けるだろう」
「うん、でも向こうの王子に見初められて結婚だから、帰って来られないんじゃないかな」
「王子様に見初められたってすごい人だったんだな」
「凄く優秀だったからね――。だから困るんだ。私一人じゃ……」
自分の犬がそんな不安そうな顔をしていて見ていられる飼い主がいるだろうか。いや、いない。
「わかったよ、でも俺そんな人と比べられても困るからな……。頑張るけど」
「うんうん、嬉しいよ。私もアンリが見ててくれたら頑張れるよ」
そうやって情だかなんだかに訴えられて俺はクロードの補佐官になることになってしまった。
冷たい飲み物は、何故か先にクロードが飲もうとして女が悲鳴を上げて取り上げた。
え、毒味? しかも何をいれたの。怖い、怖いよ外務。
次の日、俺が補佐官として正式に紹介されたとき、その女の人の姿は見えなかった。
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