憧れの先輩の結婚式からお持ち帰りされました

東院さち

文字の大きさ
7 / 53

職場変更に異議あり 2

しおりを挟む
「こちらです」

 値踏みから始まり、勝ったという優越感を漂わせて女が案内してくれた。わかりやすすぎる。狸や狐の巣窟とまで言われた外務がそんなことでいいのかと思いながらノックした。

「どうぞ」
 
 軽やかな声、声までイケメンて――と思いながら、あれどっかで同じように思ったなと思い出した。

「アンリです。財務長官から命じられてこちらに来ました」

 扉を開けるとイケメンがいた。おお、金色キラキラなサラサラ王子様。いや、金色サラサラなキラキラ王子様か。間違えると砂になっていく王子様になるなと思いながらやはり既視感が。

「やぁ、アンリ。待っていたよ」

 大使は軽やかに立ち上がり、俺を抱きしめた。

「えっ」

 ギュッと抱きしめて俺の匂いを嗅ぐ。
 フンフン……って、まさかクロ?

「クロ? 髪の色も目の色も違うけど……」
「ワン」

 金髪緑の瞳のキラキラ王子様がワンと鳴きました。

「クロ……ード……だったっけ」

 かろうじて覚えていた。

「そうだよ。クロード・リスホード。やっと名乗れて嬉しいよ」
「……どうして。俺のこと知ってて呼んだのか?」

 突然の移動は嫌がらせかなんかだろうか。

「もう一度会いたかったんだ、アンリ」

 低い声が耳朶を打つ。

「俺は別に会いたくなんて――」
「好きだ」

 チュッと鼻の先にキスされた。

「す、好き? 会ったばかりで――」

 運命の出会いなんて信じてない。そもそもこの男は新婦を諦められなくてあんな愁嘆場を演じていたのではなかったか。

「時間なんて関係ないよ――」
「あ……っ、ちょっと――クッ」

 クロと呼ぼうとしたところをヌルッと舌が入ってきた。俺の好きなところという上顎の丸い部分をクロが舐めた。背筋を走ったのは紛れもない快感だ。

「んっ、アンリ――。可愛い」

 器用な指が乳首を摘まんで、先を人差し指がなぞる。

「あっ! クロっ、やめ――」

 脚が震えて立っていられなくなったところにガチャっと人が入ってきた。さっきの女だ。

「呼んでない、勝手に入ってくるな」
 焦りをみせない冷静な声、胸元が開けた状態でなんてごまかすのかとドキマギしていたら、ひっくり返ったような声で女が訊ねた。

「クロード様? 何を――」
「具合が悪そうなので支えている。冷たい飲み物でも運んできてくれ」

 まぁ顔も赤いし、息も整えてる最中だし、見た感じ具合がわるそ――なわけあるか!

「それでしたら、救護室へお連れしますわ。クロード様に移っては大変ですもの」

 カチンときたけれど、それよりクロードの方がお怒りモードにはいった。

「お前は言われたことを理解できないのか?」

 それに気づいた女は、慌てて踵を返した。

「は、はいっ、ただいまお持ちいたします」
「行け――」

 冷や汗を掻いた。酷い、職場で襲われるとかありえない。これはお家に(財務に)帰っていい案件ではないだろうか。

「ごめんね、アンリ。我慢できなかったんだ」

 叱られた犬のようにしょんぼりしたクロードは、そう言って来客用のソファに俺を運んだ。胸のボタンをはめて、名残おしそうに指が離れていった。

「俺は財務に帰る――」
「そんなこと言わないで――。帰ってきたばかりで慣れてないんだ。私を厳しく叱ってくれるアンリがいないときっと仕事ができないよ」
「お前、大使だろう。めちゃくちゃ優秀じゃないか」
「違う違う、名前だけだよ。ほら、家柄だけはいいから――。皆優しいから、仕事できなくても大丈夫なんだよ。だから、ほら、アンリのように私を甘やかさない人が側にいて欲しいんだ」

 手を握られて、ジッと緑の瞳が不安そうに揺れているのをみると、思わず頷いてしまった。駄目――駄目なのに。

「嬉しい、アンリ。私も頑張るよ。もう大使は返上したんだ。ずっとここで、アンリと一緒にお仕事できるよ。昼ご飯は会議で潰れることが多いから、十時と十五時におやつを食べようね」
「ずっとって――、補佐官が帰ってくるまでじゃ――」
「アンリは、私と一緒にいたくないの?」
「そういうことじゃないけど!」
「良かった。大丈夫。前の補佐官はきっと帰ってこないと思うんだ。寿退職してると思うから、安心して?」

 きっぱり断れない自分がうらめしい。

「寿退職って男じゃなかったっけ? 結婚しても仕事を続けるだろう」
「うん、でも向こうの王子に見初められて結婚だから、帰って来られないんじゃないかな」
「王子様に見初められたってすごい人だったんだな」
「凄く優秀だったからね――。だから困るんだ。私一人じゃ……」

 自分の犬がそんな不安そうな顔をしていて見ていられる飼い主がいるだろうか。いや、いない。

「わかったよ、でも俺そんな人と比べられても困るからな……。頑張るけど」
「うんうん、嬉しいよ。私もアンリが見ててくれたら頑張れるよ」

 そうやって情だかなんだかに訴えられて俺はクロードの補佐官になることになってしまった。
 冷たい飲み物は、何故か先にクロードが飲もうとして女が悲鳴を上げて取り上げた。

 え、毒味? しかも何をいれたの。怖い、怖いよ外務。
 次の日、俺が補佐官として正式に紹介されたとき、その女の人の姿は見えなかった。


 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。  オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。  そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。 アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。  そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。 二人の想いは無事通じ合うのか。 現在、スピンオフ作品の ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中

【完結】顔だけと言われた騎士は大成を誓う

凪瀬夜霧
BL
「顔だけだ」と笑われても、俺は本気で騎士になりたかった。 傷だらけの努力の末にたどり着いた第三騎士団。 そこで出会った団長・ルークは、初めて“顔以外の俺”を見てくれた人だった。 不器用に愛を拒む騎士と、そんな彼を優しく包む団長。 甘くてまっすぐな、異世界騎士BLファンタジー。

処理中です...