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危機一髪 3
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「アンリ! 無事か!」
扉を破壊しただろう斧を片手にクロードが入ってきた。
それ、模擬斧……。廊下に飾られた見栄えのいい装飾武器だ。先は丸まっていて、武器にならないこともないけれど……、どんな馬鹿力なんだこいつと思いながらも唇は震えて「クロ……」としか発せなかった。
「どうしてここが――」
今まで見たことのない狼狽ぶりにこちらが驚くほどシン公使は驚愕していた。まぁ扉を粉砕した相手が自分に向かってきたら、怖いよね。
「やったのか……?」
低い声、耳元で囁かれたら腰が砕ける声でクロードは訊ねた。
「やってない!」
この体勢の俺を前によく言ったものだ。
「助けて……」
こんな格好をさらしたくない。足音は一つじゃなかった。
「アンリ!」
クロードはシン公使の足下に斧を打ち付けた。きっとあれで殴られると思ったのだろう。シン公使は白目を剥いて倒れていった。
「クロード。速く縄解いて……」
俺が焦りながら必死になって身体を揺するのをみて、クロードはほんのりと赤くなった。
「アンリ、なんて美しいんだ……」
まるで美術品を鑑賞するように俺を見る。おかしい、頭がおかしい。
「ふざけるな! さっさと解け! 他にも人がいるんじゃないのか?」
「本当に、美しいな……。クロードがメロメロになるというのも頷ける話だ」
やはりいたようで、しかも女性だった。俺は泣きたくなって顔を背けた。
「見るな、これは私のものだ」
クロードは横から来た美女に向かってそう言った後、俺の縄を切ってくれた。そして自分のマントで俺を包んだ。
「ごめん、歩けない……」
どころか身体に力がはいらないのだ。
「薬か。口だけきけるっていうのがやらしいな」
女性は黒い髪に青い瞳の年若い美女だった。
あんな姿を見られるなんて……。
「お前のところの薬だろう、解毒剤は?」
「あると思うけど、この手の薬は時間をおいて自然に抜けるのを待つ方がいい。解毒薬のほうが強いんだ。他には……、何か使われたかわかるかしら?」
クロードに抱き起こされた俺に尋ねる。
「針って言ってました」
「効果は?」
女性に言いたくない。達き地獄になるとか言ってたような気がするけど。
実際こんな状況だけど、俺のアレは勃っている。
「その……」
「アンリ、言いにくいのはわかるけど、今は羞恥心は忘れてくれ」
懇願するようにクロードに頼まれて、俺は視線を逸らした。
「勃起するって……」
「何?」
声が小さすぎて聞こえなかったのか聞き返されて、俺はもういいと声を張り上げた。
「沢山達くようにしたって!」
涙が溢れてくる。こんなことで泣きたくないのに。自分の身体がままならないことがこんなに悔しいなんて。
「アンリ! ごめんね。私があんな仕事をさせたから……。でもどうして来たの。ここは危険な場所だってビアンカが言ってなかった?」
「外務の職員にクロードがが書類を持っていってくれって言付かったって言われて。危ないのは大使だけだと……クロードだけが危ないんだと思ってたんだ。でもあんな仕事って?」
「ここのところやってもらっていた書類だ。シン公使がうちの国の商人にもらった賄賂と商人の名前なんかが入っていたんだ。シン公使はリン国のヤバい薬を持ち込んでいて、商人に売っていた」
ヤバい薬! それは俺が使われたやつだろうかと冷や汗が流れた。
「その薬……」
「多分大丈夫だ。あれは中毒性が酷くて、廃人にするのを目的に使用される。さすがにクロードの恋人を廃人にするつもりはないだろう」
女性は人に命じてシン公使を拘束していた。かなり身分の高い人なんだろう。
「でも何が書いてたか吐かせて虜にさせるとか言ってましたが……」
「その程度のこと、秘技に長けたものなら簡単だ」
いやだ、やっぱりリン国怖い。
「メイ大使、この借りは大きいですよ。シン公使の手綱を握りきれなかったあなたの責任だ」
「わかってる。クロード、アンリ、すまなかった。こちらだけではどうしても確認できなかったんだ。まさか、こんなことになるとは思っていなかった、許してくれ。いずれ、礼はする――」
メイ大使! リン国の大使でクロードのことが大好きな人だったはず。え、でも年齢が……合わなくない? 確か年は三十半ばのはず。けれど目の前の女性は俺とそんなに変わらないような気がする。
「メイ大使、シン公使は許しがたい。けれど今はアンリの治療が先です。私は行きます。扉の外に待機しているビアンカに任せますよ」
「ああ、ビアンカが相手じゃこちらもごまかせないからな」
さすがビアンカさん、大使にも一目置かれているのか。俺とは雲泥の差で落ち込む。
「あの、クロード……様。俺はいいので、仕事に行ってください」
公私混同していてはいけないと思い、そう言った。抜けるのを待つなら一人でも大丈夫だと思ったからだ。
「アンリ、色々聞きたいこともあるんだ。まだ、ケヴィンとのキスの件もお仕置きしてないのに……」
「ケヴィン?」
キスって、あの中庭でされたあれか。お仕置きの意味がわからない。どうして俺が……。
「まぁ、そのお陰でアンリが助かったから……」
「お陰って?」
クロードの目は怖いくらいに圧が強い。
「ケヴィンが来たんだ。アンリがリン国の大使館へお使いに行ったけれど護衛もいなくて大丈夫なんでしょうかと確認に。会議がちょうど休憩に入ったところでよかったよ。そうでなかったら……」
クロードの雰囲気が恐ろしく鋭利なものに変わった。いや、この部屋に入ったときから猛獣の前に裸で差し出されているような気分はあった。
「クロード様、馬車をお使いください。リスタンドホテルですか?」
「ああ、ビアンカ。後は頼む。メイ大使、失礼いたします」
俺をグルグルに包んでクロードは運んでくれた。
やっと、息を吐くことができた。ここから無事にでられるとは思っていなかった。
扉を破壊しただろう斧を片手にクロードが入ってきた。
それ、模擬斧……。廊下に飾られた見栄えのいい装飾武器だ。先は丸まっていて、武器にならないこともないけれど……、どんな馬鹿力なんだこいつと思いながらも唇は震えて「クロ……」としか発せなかった。
「どうしてここが――」
今まで見たことのない狼狽ぶりにこちらが驚くほどシン公使は驚愕していた。まぁ扉を粉砕した相手が自分に向かってきたら、怖いよね。
「やったのか……?」
低い声、耳元で囁かれたら腰が砕ける声でクロードは訊ねた。
「やってない!」
この体勢の俺を前によく言ったものだ。
「助けて……」
こんな格好をさらしたくない。足音は一つじゃなかった。
「アンリ!」
クロードはシン公使の足下に斧を打ち付けた。きっとあれで殴られると思ったのだろう。シン公使は白目を剥いて倒れていった。
「クロード。速く縄解いて……」
俺が焦りながら必死になって身体を揺するのをみて、クロードはほんのりと赤くなった。
「アンリ、なんて美しいんだ……」
まるで美術品を鑑賞するように俺を見る。おかしい、頭がおかしい。
「ふざけるな! さっさと解け! 他にも人がいるんじゃないのか?」
「本当に、美しいな……。クロードがメロメロになるというのも頷ける話だ」
やはりいたようで、しかも女性だった。俺は泣きたくなって顔を背けた。
「見るな、これは私のものだ」
クロードは横から来た美女に向かってそう言った後、俺の縄を切ってくれた。そして自分のマントで俺を包んだ。
「ごめん、歩けない……」
どころか身体に力がはいらないのだ。
「薬か。口だけきけるっていうのがやらしいな」
女性は黒い髪に青い瞳の年若い美女だった。
あんな姿を見られるなんて……。
「お前のところの薬だろう、解毒剤は?」
「あると思うけど、この手の薬は時間をおいて自然に抜けるのを待つ方がいい。解毒薬のほうが強いんだ。他には……、何か使われたかわかるかしら?」
クロードに抱き起こされた俺に尋ねる。
「針って言ってました」
「効果は?」
女性に言いたくない。達き地獄になるとか言ってたような気がするけど。
実際こんな状況だけど、俺のアレは勃っている。
「その……」
「アンリ、言いにくいのはわかるけど、今は羞恥心は忘れてくれ」
懇願するようにクロードに頼まれて、俺は視線を逸らした。
「勃起するって……」
「何?」
声が小さすぎて聞こえなかったのか聞き返されて、俺はもういいと声を張り上げた。
「沢山達くようにしたって!」
涙が溢れてくる。こんなことで泣きたくないのに。自分の身体がままならないことがこんなに悔しいなんて。
「アンリ! ごめんね。私があんな仕事をさせたから……。でもどうして来たの。ここは危険な場所だってビアンカが言ってなかった?」
「外務の職員にクロードがが書類を持っていってくれって言付かったって言われて。危ないのは大使だけだと……クロードだけが危ないんだと思ってたんだ。でもあんな仕事って?」
「ここのところやってもらっていた書類だ。シン公使がうちの国の商人にもらった賄賂と商人の名前なんかが入っていたんだ。シン公使はリン国のヤバい薬を持ち込んでいて、商人に売っていた」
ヤバい薬! それは俺が使われたやつだろうかと冷や汗が流れた。
「その薬……」
「多分大丈夫だ。あれは中毒性が酷くて、廃人にするのを目的に使用される。さすがにクロードの恋人を廃人にするつもりはないだろう」
女性は人に命じてシン公使を拘束していた。かなり身分の高い人なんだろう。
「でも何が書いてたか吐かせて虜にさせるとか言ってましたが……」
「その程度のこと、秘技に長けたものなら簡単だ」
いやだ、やっぱりリン国怖い。
「メイ大使、この借りは大きいですよ。シン公使の手綱を握りきれなかったあなたの責任だ」
「わかってる。クロード、アンリ、すまなかった。こちらだけではどうしても確認できなかったんだ。まさか、こんなことになるとは思っていなかった、許してくれ。いずれ、礼はする――」
メイ大使! リン国の大使でクロードのことが大好きな人だったはず。え、でも年齢が……合わなくない? 確か年は三十半ばのはず。けれど目の前の女性は俺とそんなに変わらないような気がする。
「メイ大使、シン公使は許しがたい。けれど今はアンリの治療が先です。私は行きます。扉の外に待機しているビアンカに任せますよ」
「ああ、ビアンカが相手じゃこちらもごまかせないからな」
さすがビアンカさん、大使にも一目置かれているのか。俺とは雲泥の差で落ち込む。
「あの、クロード……様。俺はいいので、仕事に行ってください」
公私混同していてはいけないと思い、そう言った。抜けるのを待つなら一人でも大丈夫だと思ったからだ。
「アンリ、色々聞きたいこともあるんだ。まだ、ケヴィンとのキスの件もお仕置きしてないのに……」
「ケヴィン?」
キスって、あの中庭でされたあれか。お仕置きの意味がわからない。どうして俺が……。
「まぁ、そのお陰でアンリが助かったから……」
「お陰って?」
クロードの目は怖いくらいに圧が強い。
「ケヴィンが来たんだ。アンリがリン国の大使館へお使いに行ったけれど護衛もいなくて大丈夫なんでしょうかと確認に。会議がちょうど休憩に入ったところでよかったよ。そうでなかったら……」
クロードの雰囲気が恐ろしく鋭利なものに変わった。いや、この部屋に入ったときから猛獣の前に裸で差し出されているような気分はあった。
「クロード様、馬車をお使いください。リスタンドホテルですか?」
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