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【後日談】そりゃないぜ、魔女様! 2
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「爽やかだ――」
窓を開けると陽射しが覗いている。気分もいいし、最高だ。
「アンリ様、お食事はどちらでされますか? 温室も気分が変わっていいかと」
「温室なんてあるんだ。いいね、そこで食べようかな」
「では用意させますね。少々お待ちくださいませ」
新婚さんだからとクロードに朝も夜も(昼は寝てたけど)寝台で運動させられていた一週間が過ぎた。
「行きたくない」
そう拗ねるクロードに「何のために長期休暇が許可されたんだ? 嫌なら王都に帰るぞ」と脅しをかけて仕事に行かせた。領地内を監査するのが跡取りとしてのクロードの仕事なのだ。そのために長官であるお義父様が長期休暇を許してくれたのだ。
一週間、地獄のようだった。尻も痛いし、あちこち痛い。ここからしばらくクロードが別行動でなければ途中で逃げ出してたか籠城していただろう。
「一週間身体を酷使された奥方様を休ませるために監査という仕事があるんです」
ユナは俺のパンケーキをテーブルにセッティングしながら説明してくれた。
「え、罠だった?」
「でないと、奥様方が死んでしまいます……」
侍女にこんなに心配されるくらいリスホード家の男達は絶倫なんだそうだ。男としてはうらやましいような気がするが、受け止める側としてはかなりきつい。
「男の俺でこれだから、体力の少ない令嬢だと辛いだろうな」
それとも女性のほうが受け止めるのがたやすいのだろうか。
「女性でしたら妊娠があってその期間はお休みできますけど……」
「俺、この前つわりみたいに胃液を吐いたんだよね」
口でやらされた時のことだけど、そこは言わない。
「ストレスでしょうか。医師に診断していただきます?」
ユナにめちゃくちゃ心配された。
「ストレスで寝てろって言われるのが嫌だから、いらない。もう寝台から見る景色は飽きた」
そうか、俺はつわりは来ないのか……。そりゃそうだ。俺から子供が生まれたら驚きだ。一瞬思ったけれど、ビアンカさんがお義父様と結婚しない理由の仕事をしたいっていうのは……。いや、まさか――。
「身体がマシになったら庭の散歩でもしたらどうでしょう。小川があって、そこに……出るんだそうです」
「え、怖い話?」
歴史ある侯爵家だ。あるだろう、怖い話のひとつやふたつ。
「ふふっ、違いますよ。願いを叶えてくれる妖精がいるんだそうです」
「願いを?」
「はい、私は見たことないんですけど、母は見たことがあるそうです」
ユナは楽しそうに笑う。
「何を叶えてもらったの?」
「恋を――」
「恋?」
なるほど、それは面白そうだ。
「父と結婚できたのは妖精のお陰だそうです。でも対価が必要で、大変だったと言っていました」
対価を求める妖精……。
「会いたいな……」
切実に。例え対価が必要でも、身体の方が大事だ。クロードに潰されるのも嫌だが、クロードが他に女か男を必要とするのも嫌だ。
「会えたら幸運ってぐらいの確率だそうですけど、散歩にはちょうどよろしいかと」
侯爵家のパンケーキも美味しい。モグモグ。
「よし、行ってくる!」
まだ腰は痛いけれど、探検となればわくわくする。
「お供いたします」
「いや、一人でいいよ。侯爵家の外には行かないから」
「ですが、若奥様を一人にするなんて――」
「恥ずかしいから若奥様は止めて……」
ユナと護衛を説得して俺は久しぶりのひとりを満喫することにした。とはいえ、慣れない雪の中、ひとりで出かけるのは危険だから犬をお供にしているけど。いざという時のためだそうだ。寒さに慣れていない俺は上から下までしっかりと防寒されて動きにくい。雪が全部溶けるにはまだしばらくかかるだろう。
王都の侯爵家の敷地も広かったが、ここの規模はそれどころじゃない。昔の名残か、防衛のために城が丘の上にあって起伏が激しい。侯爵家の敷地内を一周するなら馬が必要だ。
「小川に沿って歩いたら迷わないだろう」
綺麗な小川だ。王都周辺の川はあまり綺麗じゃないから王都出身の貴族は川遊びしないけれどここに生活排水は流されていないからか小魚や沢ガニなんかもいるそうだ。夏に来たいなと思った。
「ここで生活するのは大変そうだけど……」
腰がフラフラしてるせいか何度も転びそうになる。
「あ……この辺か。がめつい妖精がいるっていうのは――」
三十分ほど歩いて目的の場所についた。妖精に会えるとは思っていなかったけれど、行って帰るにはちょうどいい距離だと思ったのだ。
「これ、何で広葉樹なのに……」
葉っぱが赤いままで木に残っていて目印になったのだ。赤い、大きくて……そう言えば侯爵家の家紋だ……。かえでの葉に竜の紋だもんな。領地の最北に竜山という山があって、そこにいた竜をリスホード家が倒したとかいう伝説があった。
まぁただのおとぎ話だ。
「樹液を煮詰めれば甘くなるから、この土地での産業の一つだったな」
けれど雪に落ちない楓の葉を見たのは初めてだった。無意識にブチブチと葉をちぎって陽にかざした。
「綺麗だな……。部屋に持って帰ろう」
そうやって振り向いた瞬間、俺はどこかへ滑り落ちた。
窓を開けると陽射しが覗いている。気分もいいし、最高だ。
「アンリ様、お食事はどちらでされますか? 温室も気分が変わっていいかと」
「温室なんてあるんだ。いいね、そこで食べようかな」
「では用意させますね。少々お待ちくださいませ」
新婚さんだからとクロードに朝も夜も(昼は寝てたけど)寝台で運動させられていた一週間が過ぎた。
「行きたくない」
そう拗ねるクロードに「何のために長期休暇が許可されたんだ? 嫌なら王都に帰るぞ」と脅しをかけて仕事に行かせた。領地内を監査するのが跡取りとしてのクロードの仕事なのだ。そのために長官であるお義父様が長期休暇を許してくれたのだ。
一週間、地獄のようだった。尻も痛いし、あちこち痛い。ここからしばらくクロードが別行動でなければ途中で逃げ出してたか籠城していただろう。
「一週間身体を酷使された奥方様を休ませるために監査という仕事があるんです」
ユナは俺のパンケーキをテーブルにセッティングしながら説明してくれた。
「え、罠だった?」
「でないと、奥様方が死んでしまいます……」
侍女にこんなに心配されるくらいリスホード家の男達は絶倫なんだそうだ。男としてはうらやましいような気がするが、受け止める側としてはかなりきつい。
「男の俺でこれだから、体力の少ない令嬢だと辛いだろうな」
それとも女性のほうが受け止めるのがたやすいのだろうか。
「女性でしたら妊娠があってその期間はお休みできますけど……」
「俺、この前つわりみたいに胃液を吐いたんだよね」
口でやらされた時のことだけど、そこは言わない。
「ストレスでしょうか。医師に診断していただきます?」
ユナにめちゃくちゃ心配された。
「ストレスで寝てろって言われるのが嫌だから、いらない。もう寝台から見る景色は飽きた」
そうか、俺はつわりは来ないのか……。そりゃそうだ。俺から子供が生まれたら驚きだ。一瞬思ったけれど、ビアンカさんがお義父様と結婚しない理由の仕事をしたいっていうのは……。いや、まさか――。
「身体がマシになったら庭の散歩でもしたらどうでしょう。小川があって、そこに……出るんだそうです」
「え、怖い話?」
歴史ある侯爵家だ。あるだろう、怖い話のひとつやふたつ。
「ふふっ、違いますよ。願いを叶えてくれる妖精がいるんだそうです」
「願いを?」
「はい、私は見たことないんですけど、母は見たことがあるそうです」
ユナは楽しそうに笑う。
「何を叶えてもらったの?」
「恋を――」
「恋?」
なるほど、それは面白そうだ。
「父と結婚できたのは妖精のお陰だそうです。でも対価が必要で、大変だったと言っていました」
対価を求める妖精……。
「会いたいな……」
切実に。例え対価が必要でも、身体の方が大事だ。クロードに潰されるのも嫌だが、クロードが他に女か男を必要とするのも嫌だ。
「会えたら幸運ってぐらいの確率だそうですけど、散歩にはちょうどよろしいかと」
侯爵家のパンケーキも美味しい。モグモグ。
「よし、行ってくる!」
まだ腰は痛いけれど、探検となればわくわくする。
「お供いたします」
「いや、一人でいいよ。侯爵家の外には行かないから」
「ですが、若奥様を一人にするなんて――」
「恥ずかしいから若奥様は止めて……」
ユナと護衛を説得して俺は久しぶりのひとりを満喫することにした。とはいえ、慣れない雪の中、ひとりで出かけるのは危険だから犬をお供にしているけど。いざという時のためだそうだ。寒さに慣れていない俺は上から下までしっかりと防寒されて動きにくい。雪が全部溶けるにはまだしばらくかかるだろう。
王都の侯爵家の敷地も広かったが、ここの規模はそれどころじゃない。昔の名残か、防衛のために城が丘の上にあって起伏が激しい。侯爵家の敷地内を一周するなら馬が必要だ。
「小川に沿って歩いたら迷わないだろう」
綺麗な小川だ。王都周辺の川はあまり綺麗じゃないから王都出身の貴族は川遊びしないけれどここに生活排水は流されていないからか小魚や沢ガニなんかもいるそうだ。夏に来たいなと思った。
「ここで生活するのは大変そうだけど……」
腰がフラフラしてるせいか何度も転びそうになる。
「あ……この辺か。がめつい妖精がいるっていうのは――」
三十分ほど歩いて目的の場所についた。妖精に会えるとは思っていなかったけれど、行って帰るにはちょうどいい距離だと思ったのだ。
「これ、何で広葉樹なのに……」
葉っぱが赤いままで木に残っていて目印になったのだ。赤い、大きくて……そう言えば侯爵家の家紋だ……。かえでの葉に竜の紋だもんな。領地の最北に竜山という山があって、そこにいた竜をリスホード家が倒したとかいう伝説があった。
まぁただのおとぎ話だ。
「樹液を煮詰めれば甘くなるから、この土地での産業の一つだったな」
けれど雪に落ちない楓の葉を見たのは初めてだった。無意識にブチブチと葉をちぎって陽にかざした。
「綺麗だな……。部屋に持って帰ろう」
そうやって振り向いた瞬間、俺はどこかへ滑り落ちた。
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