16 / 52
16 たこ焼き食べたかったな
しおりを挟む
ぜいはぁ! やった! やったよ!
私は一年前に発売された乙女ゲーム『花咲き誇るフラワーガーデン物語』に嵌まった。その中でも特に推してるのは、炎の王太子アルフォンスと宰相の義理の息子、氷の貴公子サイラスだ。ヒロイン気分で何度も繰り返しゲームをやっていたけれど、ヒロインではなくこの二人のキャラクター同士の恋がみてみたくて、漫画を描き始めた。何を隠そう美術部だ。お絵描きは好きだけど漫画は描いたことがなかった。私が打ち明けると美術部の友人たちは『同人誌』というものを教えてくれた。
こんな世界があったとは――。
美術室にタブレットを持ち込んで描き方を教えてもらった。
16ページとはいえ、初心者には大変だった。まぁ、ゲームしながら一生懸命まねてたからね。満足できた。
硬く凍てついた氷が少しずつ溶けていくように、サイラスはアルフォンスの前に崩れ落ちた。
『私を捨てていけ――』
自嘲気味に笑みを浮かべたサイラスに、アルフォンスは無言で熱い口づけを与えた。
驚くサイラスに、威厳も何もかもを捨ててアルフォンスは乞う。
『お前のいない世界などくそくらえだ!』
アルフォンスらしくない言葉に意表を突かれたサイラスは笑いながら頬を伝う涙を袖で拭いた。
『なら、共に行こう』
二人は手を繋いで魔王に向かっていく。二人でなら死をも怖くない――。
「16pでよく書けたよ!」
自分を褒めて褒めて褒めまくっていたら、兄が帰ってきた。昨日で受験は終わったのに授業に出るとか、真面目か。そう、兄の御堂怜一は真面目なのだ。
「お兄ちゃん、お帰りなさい! お腹空いた」
両親は仕事人間で、私は幼い時から兄に育ててもらったようなものだ。
「ただいま。漫画描いてたのか」
「終わったの! できあがったの! 嬉しい~! アルサイ本だよ。私の愛が詰まってるよ」
「できあがったんなら見せてくれよ」
「……お兄ちゃん、人には見せてはいけないものがあってね。お兄ちゃんがエロサイト覗いてても私は気にしないから、私のことも気にしないで」
少し遠い目をしてから、兄は私の頭を撫でた。これも子供の時からの癖だ。
「人様に迷惑はかけないこと。わかったか?」
「かけないよ!」
「ならいい。じゃあ、お祝いにたこ焼き買いにいこうか。昨日からソースが恋しくてな」
私のお祝いにかこつけて、自分が食べたいだけのようだ。
「お腹一杯食べるよ!」
「好きにしろ」
呆れたような兄と連れだって駅前のたこ焼きやさんに並んだ。
「ちょっと待ってね、すぐあっついのできるからね」
たこ焼き屋のおじさんがそう言ってクルクルと千枚通しを回す。
「おっちゃん、沢山欲しいから後ろの子供に先に入れてやって」
たこ焼きを大人買いする気だ。兄の本気に驚きつつ、少年を前に通してあげた。
「おお、それならジュースをおまけにつけてあげるよ。ちょっとまってな~」
たこ焼き屋のおっちゃんがバックヤードに消えた瞬間、車がタイヤを軋ませながら突っ込んできた。
「澪!」
兄は私と少年を庇うように抱きしめた。けれど車の勢いは収まらず、私達は皆死んでしまったのだ。
「たこ焼き……食べたかったな」
三人の誰の言葉かわからないけれど、気持ちは一緒だった。
私は一年前に発売された乙女ゲーム『花咲き誇るフラワーガーデン物語』に嵌まった。その中でも特に推してるのは、炎の王太子アルフォンスと宰相の義理の息子、氷の貴公子サイラスだ。ヒロイン気分で何度も繰り返しゲームをやっていたけれど、ヒロインではなくこの二人のキャラクター同士の恋がみてみたくて、漫画を描き始めた。何を隠そう美術部だ。お絵描きは好きだけど漫画は描いたことがなかった。私が打ち明けると美術部の友人たちは『同人誌』というものを教えてくれた。
こんな世界があったとは――。
美術室にタブレットを持ち込んで描き方を教えてもらった。
16ページとはいえ、初心者には大変だった。まぁ、ゲームしながら一生懸命まねてたからね。満足できた。
硬く凍てついた氷が少しずつ溶けていくように、サイラスはアルフォンスの前に崩れ落ちた。
『私を捨てていけ――』
自嘲気味に笑みを浮かべたサイラスに、アルフォンスは無言で熱い口づけを与えた。
驚くサイラスに、威厳も何もかもを捨ててアルフォンスは乞う。
『お前のいない世界などくそくらえだ!』
アルフォンスらしくない言葉に意表を突かれたサイラスは笑いながら頬を伝う涙を袖で拭いた。
『なら、共に行こう』
二人は手を繋いで魔王に向かっていく。二人でなら死をも怖くない――。
「16pでよく書けたよ!」
自分を褒めて褒めて褒めまくっていたら、兄が帰ってきた。昨日で受験は終わったのに授業に出るとか、真面目か。そう、兄の御堂怜一は真面目なのだ。
「お兄ちゃん、お帰りなさい! お腹空いた」
両親は仕事人間で、私は幼い時から兄に育ててもらったようなものだ。
「ただいま。漫画描いてたのか」
「終わったの! できあがったの! 嬉しい~! アルサイ本だよ。私の愛が詰まってるよ」
「できあがったんなら見せてくれよ」
「……お兄ちゃん、人には見せてはいけないものがあってね。お兄ちゃんがエロサイト覗いてても私は気にしないから、私のことも気にしないで」
少し遠い目をしてから、兄は私の頭を撫でた。これも子供の時からの癖だ。
「人様に迷惑はかけないこと。わかったか?」
「かけないよ!」
「ならいい。じゃあ、お祝いにたこ焼き買いにいこうか。昨日からソースが恋しくてな」
私のお祝いにかこつけて、自分が食べたいだけのようだ。
「お腹一杯食べるよ!」
「好きにしろ」
呆れたような兄と連れだって駅前のたこ焼きやさんに並んだ。
「ちょっと待ってね、すぐあっついのできるからね」
たこ焼き屋のおじさんがそう言ってクルクルと千枚通しを回す。
「おっちゃん、沢山欲しいから後ろの子供に先に入れてやって」
たこ焼きを大人買いする気だ。兄の本気に驚きつつ、少年を前に通してあげた。
「おお、それならジュースをおまけにつけてあげるよ。ちょっとまってな~」
たこ焼き屋のおっちゃんがバックヤードに消えた瞬間、車がタイヤを軋ませながら突っ込んできた。
「澪!」
兄は私と少年を庇うように抱きしめた。けれど車の勢いは収まらず、私達は皆死んでしまったのだ。
「たこ焼き……食べたかったな」
三人の誰の言葉かわからないけれど、気持ちは一緒だった。
200
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる