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十二話 お見舞い
しおりを挟むそれから、私は少し病院に通うようになった。義務というより、強迫観念に近かった。私にもそんなものがあった。
母とは別で、自分のペースで行くことにした。
母はそれに対して、何も言わなかった。
あの日、うまく演技できなかったことを怒られるかと思ったけれど、そんな余裕もないらしい。
母は見舞いに行く以外は、ぼんやりと椅子に座るか、仏壇の前に手を合わせてずっとぶつぶつ何事かを願っていた。
行かねばならない。
電車に乗りながら、「やっぱりやめようかな」なんて思う日の方が多かった。
だってすべて今更だから。
今まで何も気にしないで、姉の事なんて放っておいた。
なのに、いざ死ぬかも、というあの姿を見たからってこんな風に通うなんて、ひどい嘘っぱちで、自己満足の行動だと思った。
本当に姉を心配する気持ちが、私の中にどれくらいあるというのだろう。
死ぬとなると頑張れるなんて、いっそ死ぬのを待っているみたいだ。
実際に、私はあの姉を見た時に、「この人は死ぬ人だ」と、少し姉から心を切り離し出した。不用意に、傷つかないように。
それでも、結局姉の元へ向かった。
「気持ちはどうあれ、今行っておかないときっと後悔する」
と自分をごまかして焚きつけることで、病室の扉を開かせた。
しかし、来たといっても、話すこともなかった。姉とはずいぶんしばらくちゃんと話していない。死が迫ってきたからと言って、すらすらと話せるわけじゃなかった。とても当たり前のことだったし、私はそこまでうそつきじゃない。。
「お姉ちゃん、来たよ」
だから、そんな挨拶と、花瓶の水をかえるとか、少し換気をするなどの事務的な言葉と。
「具合どう?」
と言う馬鹿みたいな問いをして――後は話すことはもうなかった。
だから、時間がくるまで、椅子に座ってじっとしている。
久しぶりの見舞い以来、時々は顔を見せるようになった妹を、姉はどう思っているのだろう。
少なくとも、不審でしかなく、私なら自分の病気の状態に不安を覚えるだろう。
それがわかっているのに、私は会いに来ている。
いい、どうせ私は、自分ばかりかわいいのだ。
姉のうっすらと浮かべてくれる笑みからは、不安や怒りとか、そんなものが感じられないのが救いで、罪悪感のもとだった。
太腿と椅子の間に手を突っ込んで、ぶらぶらと足を揺らした。
何をするわけでもない。なのにここに来て、私は何をしたいのだろう。
気まずさという退屈を覚え始めると、居心地の悪さから、自分に対する問いかけばかりになる。寺か山にでもこもるみたいに。
私みたいな者が、姉に今、何を話してあげられるだろう。
姉は今、何が聞きたいのだろう。
好き勝手話すことはできる。どうせなら、自分が後悔しないためにも、話したいことを全部話してしまえばいいんじゃないだろうか。
そう思うけれど、喉で詰まってしまって、何も言葉を発することは出来ない。
ただ、風にそよぐカーテンを見たり、姉の姿をじっと見下ろしたり、靴の裏を合わせたりして、いつも面会は終わる。
せっかく来てるのだから、今日こそ、と思う。
けれど、もういっそ来ないでおこうと思いながら帰るばかりだった。
そして何度目かの今日こそ、の時。
ふと私は、
「前にもこんなことあったね」
とつぶやいた。
不意に、姉の部屋を避難所がわりにしていた事を思い出したのだ。
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