許されざる恋の代償【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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兆珠の企み

歪ませた縁

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宝亀と一緒に、三日月の屋敷に帰宅している途中だった。

「万珠さん、万珠さん」

白髪の老婆が、声をかけてきた。

「どうされた?」

「せがれが、せがれが…。来てくだされ」

そう言われて、引っ張って行かれた。

宝亀も、兆珠を追いかけて行く。

「一つ赤子をこの腕に♪」

その場所に行くと若い女が、血だらけで歌を歌っている。

「このまま、一緒に行きましょうか♪」

「師匠…。」

宝亀は、兆珠の腕を掴んでいた。

「もう、死んでおる」

兆珠は、おなごから包丁を奪い取った。

「あぁぁぁ」

その場に崩れ落ちた、沼田いすづ。のちの、三日月美佐埜だ。

「こんな、酷い事が良くできたの」

兆珠は、そう言っていすづを怒った。

「思い人がいたのよ。私とあの子を捨てて、茂夫さんは…あぁぁ」

「せがれを返せ、せがれを返せ」

兆珠は、茂夫を見ていた。赤子を抱いている。

「おっかぁ、いすづを許してくれと言っておる。いすづを裏切ったのは、自分だから許してくれと言っておる。」

兆珠の言葉に、泣き崩れた。

岡っ引きが、現れていすづを連れて行った。

兆珠は、宝亀と共に帰る。

腹の中で、笑いが止まらなかった。

カエを功から引き離し、八重を宝亀にくっつけた事によって生じた歪みだった。

八重は、ここで無理矢理縁を繋がれなければ、笹森光彦と言う伴侶が現れていた。それは、のちの水石亮であった。

本来ならば、八重は案内人をやめて笹森と幸せに暮らす事になっていた。

そして、先の世で八重は案内人ではなく、普通の人として生きていく事が決まっていた。

しかし、兆珠が宝亀を先の世で殺害する為に八重を巻き込んだのだった。

それは、あの方が今から300年以上前からずっと案内人を気に入っていたのを知っていたからだった。

そして、兆珠は自分を黒き能力者から引きずりおろしたあの方を許せなかった。

実は、兆珠には先の世が見えている。

だから、何度も何度も書き換えをおこなっているのだ。

その度に、八重は抹消されるのだ。

笑いをこらえるのを押さえながら帰る。

「師匠、お怪我はありませぬか?」

「ああ、大丈夫だ」

いすづの先の世も見てしまった。

伊村の姉として生まれ落ちるのがわかった。

おかしい、おかしい。

腹を抱えて、笑い転げてしまいたい。

どうして、他人の不幸はこんなにも楽しいのだろうか?

「宝亀」

「はい」

「八重を思うているのなら、きちんとするのだぞ。悲しませるなよ」

「わかっております。」

屋敷に近づいた兆珠は、宝亀にそう言った。

一条を殺害してしまうのは、いつにしよう。

「では、八重に文でも書いてやりなさい」

「師匠」

「わしが、届けてやるから」

「本当ですか?」

「ああ」

「わかりました。考えます。」

宝亀は、ニコニコ笑いながら言った。

「じゃあ、出来たら部屋に持ってきなさい」

「はい、失礼します。」

ニコニコの宝亀を見つめながら、我ながらうまくいった事を喜んでいる兆珠。

「兆珠、帰っておられたか!大変じゃったの」

「はい、師匠」

彼は、三日月蜜珠《みかづきみつじゅ》、のちの三日月億珠である。400年以上前から続く親子関係だ。

この人は、可哀想だと兆珠はいつも思うのだった。

せがれである自分が、生まれ変わる度に人様の縁を歪ませておる事をなにも知らぬ人。

満月の歪みを作ったのも、今から400年前の兆珠であった。

それをいつも兆珠は、不憫に思っていた。

可哀想な人。

何も知らずに、自分にニコニコ笑いかける。

哀れな存在。

「最近は、あやかし退治はむこうさんらしくてな!理条が、新しい依頼を持ってきた。」

千川理条《せんかわりじょう》、のちの千川美条《せんかわびじょう》である。

「新しいとは、何でしょう?」

「何か、亡き人の声を届けてもらいたいという依頼だ。どうじゃ、引き受けるか?」

「はい、勿論です。師匠」

笑いながらも、生ぬるい依頼に吐き気がしていた。

もっと、戦をするような退治がしたいと兆珠は思っていた。

しかし、仕方のない事だった。

あやかし退治は、有名どころに頼むのが決まりになっている。

どれだけ、生まれ変わろうが三日月は小さすぎるのだった。

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