許されざる恋の代償【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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兆珠の企み

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「師匠、出来ました」

「なっとらん」

兆珠は、宝亀の文を突き返す。

「師匠、出来ました」

「ダメだ」

何度も、何度も、何度も突き返されるせいで、宝亀は八重を深く愛していった。

「師匠、出来ました」

宝亀の心を見た、兆珠はニッコリ微笑んだ。

「明日、渡しておこう」

「本当ですか!ありがとうございます」

宝亀は、嬉しそうに何度も頭を下げた。

ピシャリと襖が閉まったのを見つめながら、「馬鹿め」と兆珠は笑っていた。

黒き能力者を破門になってから、ゆっくりと、ゆっくりと皆の縁を歪に歪ませ続けてきた。

一気にやると、あの方にバレるし…。

反発が強くなり、元に戻ってしまう事を知った。

頭の中には、前世の自分が蓄えた膨大な引き出しがある。

何も知らぬ皆を見ながら、晩酌を飲むのが兆珠の幸せだった。

いつの世でも、子が出来ん事を蔑まれていた。

今回の世では、カエが産んでくれる。

そして先の世で、そいつは…。

憎き宝珠の赤子の生まれ変わりを殺してくれるのだ…。

腹を抱えて笑い転げたい気持ちを我慢しながら、口を押さえた。

兆珠の計画のお陰で、先の世の全てが歪んでいってるのだ。

先の世で、起きた全ては、この時代の兆珠が蒔いた種が花を咲かせたからだった。

「兆珠さん」

「あー。志摩か。何の用だ?」

「今日は、夕餉はどうなされますか?」

「いらぬ」

「わかりました。」

志摩は、兆珠の妻だった。

兆珠は、志摩を愛していなかった。

父親が、無理矢理に連れてきた縁談だった。

自分の赤子を産まない人間なのは、わかっていた。

これは、前世からの深い縁になってしまったのを兆珠は知っている。

まあ、今の自分にはカエがいる事、自分ではなく志摩のせいであった事を兆珠は知っていた。

しかし、志摩を責める気持ちはない。

志摩も、また何百年も罵られてきた人間だったからだ。

しかし、それと志摩を愛する事は違う。

黒き能力者を破門になったあの日、兆珠は愛するおなごとの縁を抜かれた。

それをずっとずっと、心の奥底に持ちながら生まれ変わりを繰り返した。

そのせいで、兆珠は誰も愛せなかった。

それは、先の世もずっと同じだった。

黒き能力者が、産まれない事だけを願い続けていたのだ。

「師匠」

「何だ、一条」

「宝亀は、誰か思い人がおりますか?」

「なぜ、そんな事を聞くのだ?」

「先ほどから、文を書いておりましたので」

「そうか、そうか。宝亀も人に恋をしたのだな」

ドクン…………。

「一条、どうした?顔色が悪いぞ」

兆珠は、わざと一条の肩を叩いた。

能力を全開にして…。

「いえ、大丈夫です。失礼致します。」

一条は、顔を真っ青にしながら部屋を出ていった。

愉快だった、暫くしたら一条に桜というおなごが現れるのを兆珠は知っていた。

桜とは、のちの三咲東治だ。

そして、桜は一条の子を身籠ったのち…。

ハハハハハハハハハハハハハハハ

腹の中で、笑っている。

声を出せなくて、口を押さえる。

顔がニヤケる。

転げ回ってしまいたい。

コンコン

「はい」

「失礼します。」

「伊村か、どうした?」

「婚礼の義をしたのち、私は三日月を出るのが決まっていますね。」

「そうじゃな」

この頃の三日月家は、婚礼したものは外に出ていく決まりだった。

「師匠、宝亀と一条の事、宜しくお願い致します。」

「伊村、お前はわしに話していない事があるのではないか?」

「いえ、ございません。」

白々しい伊村を見つめながら、こいつの事もぐちゃぐちゃにしてやりたいと思った兆珠だった。

もし、この時伊村が一条と宝亀のまぐわりを説明していたならば、兆珠は伊村を許していた。

しかし、伊村は頑なに貝のようにしっかりと口をつぐんでいたのだった。

それは、宝亀と一条への愛ゆえだった。

しかし、兆珠は愛を失い、愛の感情が欠落していた。

だから、兆珠には伊村の愛など到底理解できるはずがなかったのだ。

「そうか!さっき、一条が来て!やっと、宝亀が、恋をしたのだよ」

「えっ?」

伊村の顔から血の気が引いて、ひきつった笑みを見せた。


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