52 / 68
第五十二話「誕生日プレゼント」
しおりを挟む◇◇◇
「……ん」
目を覚ますと、ベッドに座って蒼馬が水を飲んでいるのが見えた。
そうだ、俺はテーマパークで遊んで、一緒にホテルに行ってすぐ抱き合って……それから、蒼馬が「まだしたい」って言うから何度も何度も身体を繋げたんだった。
カーテンは開けられていて、朝日が部屋のテーブルを照らしている。
テーブルに、昨日なかったティーカップが置いてある。蒼馬が飲んだのだろうか。
全身がだるい。朝食を食べに行くのが面倒だ。
「あ、湊、起きた? もう朝だよ。八時半」
「八時半? そんなに寝てたのか」
ついさっきまで裸だった気がしたのに、俺は部屋に元々置かれているルームウェアを身に着けていた。
着た記憶がないから、俺が眠っている間に蒼馬が着せてくれたのだろう。
暖房も暑いくらいついているし……気遣ってくれたことがすごく嬉しい。
「着替えて一緒に朝ご飯食べに行かない?」
まだ起きたばかりでぼうっと蒼馬を眺める。
……何か忘れている気がする。
首をゆっくり回して時計を見遣る。
あれ、俺今日の零時に蒼馬に用があって……。
「……あ!」
思い出して、俺はベッドから瞬時に起き上がり自分のカバンのチャックを開けた。
急に起き上がってカバンの中を探り始めたから、蒼馬が心配そうな声を出して駆け寄ってくる。
「湊、身体だるいんだから、そんないきなり起き上がらないで――」
「零時に渡そうと思ってたんだ。過ぎちゃってごめん。ほんとごめん」
「……? 何の話?」
カバンの奥まったところにあったソレを、蒼馬に差し出す。
「……ほら」
ソレはラッピングされたそこまで大きくない袋が二つ。
蒼馬はソレを差し出しても一体なんなのか気づいていないみたいで、俺は顔に熱が集まりながらもお祝いの言葉を告げた。
「お誕生日、おめでと」
「え……」
蒼馬の顔が太陽みたいに輝きだす。
渡された誕生日プレゼントを二度見して、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとう。すっごくすっごく嬉しい」
「ほんとは零時ぴったりに渡そうと思ってたんだけど……寝ちゃってごめん」
「ううん、そんなの気にしないよ。気持ちが嬉しいんだ。……実は、俺も用意してて」
蒼馬も? と言う前に、蒼馬はリュックの中から箱を取り出した。
家電製品のようなものが入っている箱で、少し大きい。
「これ、くれるの?」
「そうだよ。湊はお誕生日まだだけど……今日、渡したかったんだ。……おめでとう。生まれてきてくれて、ありがとう」
蒼馬が笑顔で祝ってくれて、胸の奥が温かい気持ちになる。
今まで一緒に演奏したことのある人から誕生日に花束を貰ったりしていたけど、恋人から貰う誕生日プレゼントがこんなに嬉しいものだなんて思わなかった。
生まれてきてくれてありがとう、なんて、誰からも言われたことがない感謝の言葉に涙が出そうになる。
「……生きててよかった」
ぽつりと放った俺の呟きは、蒼馬には聞こえていないようだった。
蒼馬がうずうずと俺が渡した紙袋を見つめていて、「ねえねえ」と期待の眼差しを向けて来た。
「開けてもいい?」
「あ、うん。大したもん入ってないけど」
「はぁ、嬉しい、何が入ってるんだろう……。湊も開けていいからね」
話聞いてないな、と思いつつ、お言葉に甘えて箱を開ける。
その中には……黒のワイヤレスヘッドホンが入っていた。
日本の有名な電機メーカーのヘッドホンで、上品なデザインのものだ。
説明書も同封してあって、読んでみるとAACコーデックに対応しているからスマホでも聴くことができ、連続再生時間は二十六時間、急速充電にも対応……と、便利すぎるヘッドホンだった。
「……すご、こういうヘッドホン欲しかったんだよな」
「ほんと?」
「うん、ありがとう。……でも、高かったんじゃないか? ワイヤレスイヤホンって安くても結構かかるし」
「心配しないで。昔父さんのピアノ教室を手伝ってたときに貰ってた給与がまだあっただけだから。こういうときのために貯金は使うんだよ。全然気にしなくていいから。……それより、湊からのプレゼント、最高だよ! めちゃくちゃ良い!」
蒼馬は既に俺があげた誕生日プレゼントを開けていた。
俺が買ってきたのはピアノの形をしたブローチと、少々バカップル臭いがペアで使えるマグカップだ。
「このマグカップ、湊とペアで使うってこと?」
「そう。白が俺でもいい?」
「うん! 湊、大好き!」
「うわっ、急に抱きつくなよ……」
俺が選んだマグカップは白と黒の二つのもの。
イニシャルが書いてあるわけでもなく、一色のシンプルなものだ。
蒼馬にぎゅうぎゅうと抱き着かれたあと、俺たちは朝食に向かった。
朝食はブッフェ形式で、パンやオムレツなどの洋食から納豆やご飯、お新香などの和食も充実している。
和食コーナーにはそばもあって、俺は温泉卵とネギ、おくらをトッピングして皿に置いた。
「湊、またそば食べてる。あ、温泉卵あったんだ! 俺も取って来ればよかったなぁ」
「そばのコーナーに置いてあったぞ。蒼馬ってゼリー好きなの?」
「朝は食べやすいから取っただけだよ。特別好きってわけじゃないけど……」
「ふーん」
桜と桃のゼリー食べてたときは、嬉しそうだったけどな。
「湊って、オーストリアに留学するときオーケストラ奏者になるための指導を受けるの?」
「留学持ちかけてきた講師にもソリストが夢じゃないこと伝えたし、そうだと思う。でも、帰国したときに父さんが受け入れてくれるかわからない。だから……ソリストの指導に変更してほしいって言うかも」
「湊は、それでいいの?」
オムレツにナイフを入れた蒼馬が、真剣な表情で訊いてきた。
俺は蒼馬と目を合わせて、箸が止まってしまう。
――ソリストになるなら、絶対にウィーンは勉強になる。
父さんは電話越しにそう言っていた。
それはつまり、ソリストとして勉強してこい、と言っているのだ。
父さんはソリストになりたいと言うけど、俺はなりたくない。
なるとしても、オーケストラ奏者になって、夢を叶えてからなりたい。
でも……今まで父さんに歯向かってこなかったのに、正直に告げることが怖い。
俺が下を向いていると、蒼馬に「湊」と優しく呼ばれた。
「本当にやりたいことをすればいいんだよ。自分で自分の人生選んでいいんだよ。お父さんに話したら、きっとわかってくれる。……自分を信じて」
蒼馬が温顔を向ける。
その瞬間、今まで不安だったものがふわりと吹っ飛んだ。
そうだ、父さんに何言われても、説得が大変だったとしても、俺の傍には蒼馬がいる。
恋人で、番という唯一の存在。
俺が父さんを説得するのに失敗したって、蒼馬は隣にいてくれるだろう。
「……そうだな。父さんと話をつけてくる」
俺の好きな人が俺の隣で生きていてくれるのなら、俺はどんなことでも乗り越えていけると感じた。
その日寮に帰って、すぐに父さんに話があると電話し、一週間後に帰省することにした。
0
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
今日も、俺の彼氏がかっこいい。
春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。
そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。
しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。
あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。
どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。
間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。
2021.07.15〜2021.07.16
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる