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第10話 ユリクをモフモフします
しおりを挟む「この食べ物はなに?」
いろいろ考えてたら、ユリクがテーブルに置かれたガトーショコラを指さして訊いてきた。
「これはガトーショコラっていう、えっと……チョコレートのお菓子」
「チョコレートのお菓子!? 自分で作ったの?」
「え、ええ、まあ、そうね」
ユリクが首を傾げて訊いてくる。
ユリクは「へえ、がとーしょこらって言うんだ……」と呟きながらガトーショコラをじっと見つめていた。ユリクはしばらく見つめたあと顔を上げ、私と視線を合わせる。
「もっと食べてもいい? 君の作ったガトーショコラ、すごく美味しかったから。もっと食べさせてくれる?」
「……わかったわ」
そんな風に強請られたら断れないでしょ! と思いながら、私はキッチンからケーキナイフを持ってきて、ガトーショコラを切り分ける。生地が重いのでゆっくり切っていると、微笑みながらユリクがじっと見つめているのが視界越しに伝わってきた。
最後に粉砂糖とイチゴを飾って、ユリクの席に置こうとする、のだが……。
ユリクが手を伸ばした瞬間、私はひょいっと皿を自分の方に戻した。
「……? くれないの?」
「その、ガトーショコラをあげる代わりに、お願いがあるんだけど……」
私はテーブルに皿を置いて、両手を顔の前で合わせた。
「猫耳と尻尾を、触らせてください!」
◇◇◇
「はぁ~~モフモフ~~」
「……ふふ、そんなに好きなんだ」
ユリクの猫耳と尻尾を思うがままにモフモフする私を見て、ユリクがくすりと笑った。
ユリクは私にモフモフされながら、ガトーショコラを口にしている。
傍からみれば異様な光景だが、お互い満足できるならそれでよし。私はユリクのモフモフを思う存分堪能した。
猫耳はあんまり触ると外の音が聞こえづらくなるから嫌かな、と思い尻尾を触りまくる。
フワフワで一本一本の毛が長くて細い。ずっと触っていたくなる柔らかさで、思わず頬にすりすりしてしまう。このモフモフに埋もれて眠りたい……。
ユリクもユリクで気にせずガトーショコラを食べていた。
というより、若干嬉しそう……?
少なくとも触られて不快ではない様子なので、私も遠慮なく尻尾を触る。
銀色で、時々白が混ざった毛並み。異世界でもメインクーンみたいな種類があるんだな。本当にリリーにそっくり……。
「……ありがとう。すごく美味しかったよ」
私が感慨に耽っていたら、ユリクは食べ終わったみたいで皿をキッチンに持っていくところだった。この家は日本でいう食洗機がキッチンに置かれている。この世界だと洗浄魔法があって、それが機械に付与されているんだけど。
ユリクは食洗機に皿を置いて白い椅子に再び座り、私に向き直った。
「……カナメ、このお菓子でカフェを開くのはどう?」
「カフェ?」
「チョコレートカフェ、すごく良いと思うんだよね。チョコレートは飾りつけでしか使わないから、誰もこういうお菓子を作ろうと思わない。でも、カフェとして売り出せば意外な美味しさにみんな喜んでくれると思うんだ。もしカフェを開くなら、俺も助けてくれた恩として毎日手伝うよ。君は見たところ仕事をしていなさそうだし、俺も王国騎士団から外されて仕事がなくなってる。今後の生活費をお互い稼ぐためにも、どうかな? 開いてみない?」
「……」
「俺もこの美味しさを伝えたいと思ってるから。初めて食べた味だったけど、とても美味しく感じたよ」
私はしばらく黙りこみ、ユリクの言葉を反芻して考える。
この世界ではチョコレートのお菓子が存在しない。
私はチョコレートの美味しさをみんなに知ってもらいたいと思っていた。
ただの飾りじゃなくて、チョコレートの美味しいお菓子があることを広めたい。ルッカ村だけでもいいから、美味しさを伝えたい。
カフェを開くというのはとてもいい案だ。お父様からお金が毎月支給されるなんて話は聞いてないから、お互いに生活費を稼がなければならない立場にある。それに一人でカフェを開くより苦労はしないだろう。今すぐにでも開きたい。
それって、つまり……。
モフモフと一緒にカフェを開ける!?
やるしかないでしょ!
私はガタッと椅子から立ち上がり、尻尾を振って意見を待つユリクをまっすぐに見た。
「ユリク、提案ありがとう!」
鏡を見なくても満面の笑みを浮かべていることがわかる。ユリクと一緒に美味しいショコラカフェを開くことに、楽しみと期待と嬉しさがこみあげてきて、私はふふっと笑いを零した。
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