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第11話 カフェを開くのに必要なものを買いに行きます
しおりを挟むとはいえ、いきなりカフェを開くことはできない。開業届やその他諸々の書類を提出しないといけないし、お客さんのためのテーブルや椅子、皿といった家具や食器も買わなくちゃいけない。
私はユリクと一緒に再びフェルタ街に行くことにした。
「……カナメ」
フェルタ街を歩いている途中。ユリクが苦笑いをしながら私の顔を見つめてきた。
……それもそうだよね。
フェルタ街にカフェに必要なものを買いに行くと伝えたら、ユリクが俺も行くよ、と言ってきた。だがバスローブ姿で歩かせるわけにもいかない。私一人で住む予定の家だから、男性の服は一着も持っていない。そしてたどり着いた答えは……
「君は出会ったばかりの俺に女装をさせるなんて、そういう趣味でもあるの?」
「一切ない! 服がないからだってば!」
私が普段着ているワンピースを着せたのだった。
踝くらいまで丈はあるし、ユリクもいかつい顔をしているわけではないので似合わないわけではない。
肩幅も男性にしては狭い方なので、あんまり違和感はなかった。あるとしても短い髪くらい? 獣耳が良い感じに可愛く見える。
フェルタ街に着いてもそこまでジロジロ見られていないし、ユリクの洋服を買うまでちょっと我慢して欲しいところだ。
さすがにユリクの姿を見てからかう人なんていな……
「お前、男だよな? 何してんの?」
いたああああ!
サスペンダーをつけた背の高い男性——しかも兎の耳がついているから獣人だ——が私たちを見下ろしている。
しかもその男性の横には犬の耳がついた獣人。整った顔の美青年だが、兎の男性にくっついてなぜか私をキッと睨んでいた。
ユリクはゴゴゴ……と効果音がつきそうなくらい不穏な笑みを浮かべている。ユリク、ごめん……。
「この方はちょっと事情がありまして……この服は私のものなんです」
「ああ、そうなのか! ごめんごめん、フェルタ街で見たことない顔だったからさ、つい声かけちまった。ごめんな!」
兎の男性がぽんぽんとユリクの肩を叩く。ユリクは「はぁ……」と魂まで吐き出されそうなくらい深いため息を吐いていた。
「俺はケイ! 兎の獣人なんだ。フェルタ街で父が家具屋をやってて、時々手伝ってる。で、こっちは犬の獣人のルット」
「……よろしくお願いします」
ルットは私に目を合わせず、ユリクにだけ挨拶した。……私、嫌われてるのかな?
「私はカナメといいます。今日からこの街にやってきました。彼はユリクです」
「よろしくね。ケイ、女の子の格好に興味あるなら君も着る?」
「いや着ないよ! ……にしても……ふーん」
ユリクはさっきの言葉に腹が立ったのか、挑発気味な笑みを浮かべて言った。
即座に否定したケイはというと、私とユリクを交互に見てにやにやと笑みを浮かべていた。……? なんだろう。そんなににやにやされても困るんだけど……。
それよりも、私はさっきケイが言った言葉が気になった。
「あの。家具屋を開いているというのは本当ですか?」
「ん? ああ。多分フェルタ街の中で一番大きい家具屋だと思う。値段もお手軽だし、家具といったら俺の店だな」
「もしよければ、連れてっていただけませんか?」
ケイの赤い瞳がぱあっと明るくなった。
「いいぞ! 来てくれ!」
◇◇◇
フェルタ街を歩いて十五分。
ケイの家具屋はフェルタ街の市場から少し逸れたところにあって、大量に家具が売っていた。濃いブラウンの家具だけでなく、白やベージュを基調としたシンプルなものもあれば、薄いピンクで飾りがついた姫系の家具まである。
しかもケイのお父さんの説明を聞いたら、売っている家具一つ一つに補助魔法がかかっていて、すごく強力な魔法がない限り壊すことは不可能だそう。
ユリクは幸い空間魔法で自分のお金を別の空間にしまっていたらしい。亜空間ってやつかな? 猫に変えられる魔法をかけられる直前に急いでしまったそうだ。
ユリクは両親もいなく、家も取り壊されていて行く場所がないため、しばらく私の家に居候することにした。二階に一部屋余っているから、そこを使ってもらえればいいだろう。物置に使えばいいってリネスは言ってたけど、そんなに物は持っていないし。
男女が一つの屋根で住むのはいささか良くないけど、ユリクに「夜は私の部屋に入ってこないでね」って言ったら「もちろん。夜に女性の部屋に入るわけないだろう?」ってふんわり笑って答えてたから大丈夫だと思う。
ユリクの家具を一緒に選び、カフェの家具も選んでいるところで「あれ?」とケイに声をかけられた。
「そんなにテーブルと椅子買って、パーティでも開くのか?」
「あ、えーと……パーティじゃなくて……」
「じゃなくて?」
「カフェを開くの」
「カフェ!?」
「チョコレートのカフェを開くんだ」
「チョコレートのカフェ!?」
ケイは目を見開いて驚いていた。が、私たちは至って冷静。ユリクが微笑みながら話を続ける。
「カナメが作ったチョコレートのお菓子は絶品なんだよ。良かったら、来てほしいな」
「行ってみたい! フェルタ街もお前たちのいるルッカ村もカフェなんてないだろう? いや、チョコレートのカフェなんてこの国に存在しないと思う。でも絶品って言うほど美味しいんなら、行くに決まってる。オープンしたら、ルットと一緒に行くよ」
「……ふふ、ありがとう」
ユリクが礼を言う。
隣のルットの表情を見るにあんまり行きたくなさそうだけど。でも、これで二人客が来てくれることはわかった。それだけでも嬉しくて心が温まる。
ケイとルットが自分のカフェの客として来てくれることを想像していたら、ケイの口から爆弾発言が出た。
「夫婦でカフェを開くなんて、俺にとっては憧れだよ!」
「夫婦!?」
私は思わず大声で叫んでしまった。ユリクも目をぱちくりさせている。ケイは私たちの表情を見て、頭をかきながら首を傾げた。
「違うのか? 二人の雰囲気からそうなのかと思ったんだが……」
ああ、だからさっきにやにやしてたのか。逆にどうやったら夫婦に見えるのか教えて欲しい。ユリクも私もお互いに一切そんな感情は持っていません。
私は首を横に振って否定した。
「私たち、夫婦じゃないよ……」
「そうだよ。彼女とは初めて会ったばかりだから」
ユリクも私に続いて言う。
「え!? そうだったのか、変な勘違いをしてごめん……」
私たち二人で否定したのが責めてるように見えてしまったのか、兎の耳がしゅんと垂れた。……可愛いな。許す。
それから私たちは家具を買ったあと、食器、茶葉、食料を買いに行った。
……その前に「さすがにこの服で歩き回るのはきついよ、カナメ」とユリクに言われたので、ユリクの洋服を買ったのだが。
ケイとルットも一緒についてきて、洋服を買ったあとおすすめの雑貨店や茶葉店を案内してくれた。
雑貨店は、綺麗な花柄のティーカップやプレートがたくさんあって、目が釘付けになってしまった。銀色に光るティースプーンや金縁の皿、蝶や花が描かれたティーカップ……。
どれもチョコレートの菓子に似合いそうで、たくさん買ってしまった。
茶葉の店は元気なおじさんが商人で、紅茶の茶葉意外にもコーヒーを売っていた。「チョコレートのカフェを開きたいので、合う茶葉はありませんか」と聞くと大笑いされたけど、いろいろ選んでくれた。
でも本人もチョコレートをあまり口にしないし、ましてやチョコのお菓子なんて食べたこともないのでわからず、いろんな茶葉の紅茶とコーヒーを売ってくれた。
それから食料はお菓子を作るのに必需品であるバター、卵、砂糖、薄力粉の異世界版であるメル粉、それから洋酒やナッツなども買った。
その後村の役所で開業届やその他の書類を書き、ケイとルットと別れてへとへとになりながら帰宅。
終始ルットは全然喋ってくれなかったけど。……でも、それも理由があるのがわかった。
私が全然喋らず時々睨んでくるルットに、勢いで話しかけたら「どうせ俺たちのこと、嫌っているんでしょう」と低い声で言われたのだ。
もしかしたら人間から虐げられて生きてきたのかもしれない。そう思うと、獣人のユリクに好対応で人間の私には素っ気ないのが納得いく。
獣人も人間も、分け隔てなく通えるカフェを開きたいな。
もう家具はお父様が私の家に送ってくれたように、移転魔法で既に置かれている。
食器も洗った。食料も保管した。
その家具や食器たちを見て、私はカフェを開くのが楽しみで仕方なかった。
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