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第19話 レインボードリンク
しおりを挟む「二人ともごめんな、店に行けなくて。二人の店が噂になってたのは知ってたんだが、店が忙しくて行く暇がなかったんだ」
「あ、ううん、大丈夫。私もケイたちに場所とか教えてなかったし」
「……怒ってるか?」
ケイが眉を下げ、うさ耳をしゅんと垂らしてこちらを見ている。
瞳が潤み、これでもかというほどあざと可愛さを主張していた。
でも少しだけ怯えているようにも見えて、私は思わず背伸びをしてうさ耳をそっと撫でた。
ユリクの耳よりちょっと固くて短毛だけど、これはこれで十分モフモフできる。
私は優しく撫でながら、ケイに言った。
「怒ってないよ。全然怒ってない。ね? ユリク」
「ああ」
「……そうなのか? 良かった」
私とユリクの笑みに安堵したのか、ケイの表情がふわりと綻ぶ。
うさ耳もゆっくりと立ってきて、私はうさ耳から手を離し、バターが入ったカバンをよいしょと持ち直した。
「それじゃあ私たちは買い物に行くから。良かったら『カナメ喫茶』に遊びに来てね」
「ああ、引き留めてごめんな。またな!」
手を振って別れ、菓子店に行ってチョコレートを買いに向かう。
ケイは私たちが人ごみで見えなくなるまでぶんぶん手を振ってくれた。
◇◇◇
チョコレートはやはり売れ残っていて、商人のおばさんにいつも通り売れ残った分全部をください、と言って購入した。
でもおばさんによると、前よりチョコレートは売れてきているそうだ。
「カナメさんたちのおかげかもしれないねぇ」と言っていた。
……だとしたら、嬉しいな。
バターとチョコレートをカバンに詰めて、まだ時間があるので市場をユリクと一緒に回る。
ケイたちと以前回ったときは人間たちから悪態をつかれてショックだったけど、最近はそこまで差別発言を聞かなくなった。
時々ひそひそ話しているのは聞こえるんだけど、獣人が商人をやっているところもあるし、逆に獣人が買い物することも当たり前だがある。
そういうときのコミュニケーションは、人間同士でするときと同じで一切嫌味を言ったりしない。
でも王都だったら、獣人が買い物をするだけで嫌味を言ったりしてくるのはしょっちゅうある。実際に私も王都にいるときに見かけている。
歩いているだけでも聞こえるように文句を言ってきたりするのだ。
だから獣人がいることにひそひそ嫌味を話す人たちは、意外と王都出身の人たちが多いのかもしれない、と思った。
「ユリク、あれなんだろう?」
まだ時間が余っているため市場を回っていると、人がたくさん集まっている店を見つけた。
人ごみで何が売っているのかは見えない。
「……なんだろう。ちょっと覗いてくるよ」
ユリクは店まで歩き、人ごみの後ろから背伸びして覗いている。
……背が高いって便利だなぁ、と思っていると、ユリクはそのまま人ごみの中に飛びこんでしまった。
「……え?」
ユリク、もしかして気になって買いたくなってしまったのかな。
そんなに気になるものが売っているの? と、私も人ごみの中に入りたくなってしまう。
私も何が売っているのか見たくて店に駆け寄ろうとしたら、ユリクが人ごみを縫って帰ってきた。
両手には、何やらカラフルなジュースを持っている。
「これが売ってたみたい。レインボージュースだって」
「わ、本当だ、虹色だ」
「魔法で綺麗に段にしてるみたいだよ」
ジュースは上から赤、オレンジ、黄色、緑……と七色にグラデーションになっていて、一番下は紫色だった。
ストローでぐるぐる混ぜても色が混ざらなくてびっくりだ。
上にはホイップクリームが乗っかっていて、星型のスプリンクルやアラザンがデコレーションされている。
ハート型の小さなクッキーも一枚クリームに刺さっていた。
これがもし日本で売られていたら、SNSに映えそうだ。
「……ん、美味しい」
試しに一口飲んでみると、ブドウの味が口に広がった。
これは一番下の紫のジュースの味なのかな。
「本当だ、すごい美味しいね」
ユリクもストローでごくごく飲んでいる。
結構甘ったるい気もするが、味が変わるから飽きないで飲めるのだろう。
……それにしても意外だ。
ユリクがこういう飲み物に興味を持って、人ごみをかき分けて買いに行くなんて。
なら今度、チョコレートドリンクを作って飲ませてみるのはどうだろうか。
こんな感じにホイップクリームで可愛くデコレーションして、冷たいチョコレートと牛乳を混ぜてユリクにあげれば、喜んでもらえるかもしれない。
美味しいって言ってくれたら、メニューに加えようかな。
私は美味しそうにレインボードリンクを飲んでいるユリクを見ながら、一緒に家まで帰った。
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