婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

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第20話 開店前のノック

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「カナメ、ユリク、おかえりー」
「おかえりー」
「うん、ただいま」

 家に帰ると精霊たちが羽を揺らして迎えに来てくれた。
 淡いピンク色の光が私たちを照らす。

 私は買ってきたバターやチョコレートをカバンから出して戸棚に補充し、開店準備を始めた。

 ユリクはテーブルにメニューを一つ一つ置き、精霊たちもみんなでボウルや泡だて器をキッチンの引き出しから取り出して、ワークトップに準備している。

「ありがとう」

 私が精霊たちにお礼を言った、そのとき。

 ドンドンドン!

 玄関のドアが誰かに乱暴に叩かれた。
 あまりにも荒っぽく叩かれているので、扉が壊れないか心配だ。

 誰だろう、クレームのお客さんかな……。

 今までにクレームが来たことはほとんどなく、あるとしても「チョコレートのお菓子を出すなんて信じられない」みたいな、カフェを始めたばかりの頃に来たお客さんのような文句だった。

 そういう人たちにチョコレート菓子を提供したら黙々と食べ、完食してくれるんだけど。

 でも、今来てるお客さんはそういうクレームじゃないと思う。

 じゃあなに……?

 ドンドンドン!

 外の人は大きな音で何度もドアを叩いている。

 もしかして、お客さんじゃない……?
 開店前に来るなんて不自然だ。

 盗賊とか……? それとも、すごい魔力を持った魔物……?

 ドンドンドン!

 どくんどくんと心臓が早鐘を打つ。
 私は怯えながらも、開けなきゃ、と思ってドアに近づいた。

 開けないとずっとこの大きな叩く音が続いたままだし、店も始められない。

 私が恐る恐るドアノブに手を伸ばすと、ユリクがそれを制した。

「いい、俺が開ける。カナメはリビングか二階にいて」

 ユリクが静かに言う。

 私は無言で頷き、リビングの玄関からちょうど見えない位置に隠れた。

 息を潜めていると、ギギ……とユリクがドアを開ける音が聞こえた。
 開けた拍子にドアの上につけていた鈴がカラン、と鳴る。

「はい、なんでしょ——」
「やっと開いた! 何してたんですか! 遅いですよ!」

 ユリクが言い終わる前に聞こえてきたのは、若い女の人の怒鳴り声だった。

「お願いします! 話を聞いてください!」

 少なくとも盗賊でも魔物でもなさそうだ。
 ちらりと玄関を覗くと、そこには緑色の髪の焦った表情をした女性と、具合の悪そうな男の子が女性に背負われているのが見えた。

 女性は私と一瞬目が合うと、ユリクを押しのけてずんずん私のところまで歩き、手をぎゅっと握られた。

 私の手を握る女性の両手は熱くて汗ばんでいて、少しだけ震えている。

「カナメさん、助けてください! 息子のテノが大変なんです!」
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