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第33話 私の前世の話
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その日の閉店後。
私はユリクや精霊と一緒に店内の掃除や庭の手入れ、足りない食材を確認していた。
ユリクはリュザがいなくなって以降、仕事はしてくれるのだが私とあまり会話してくれない。
前世の記憶があるとか、いろいろと喋っちゃったもんね。
警戒してしまうのはわかる。
精霊が床を拭き、私がテーブルを拭いていると、お風呂を沸かしてくれたユリクが近くに来た。
「カナメ」
「ん?」
「そっちのテーブルはまだ拭いてないだろう? 拭いておくね」
「あ、うん。ありがとう」
ユリクが消毒液を湿らせたタオルで向こうのテーブルを隅々まで拭く。
私もテーブルを少しの汚れもないようにきっちり拭き、時々疲れた精霊たちに今日のスイーツの残りをちまちま食べさせていた。
ピカピカに拭くのがこれまた気持ちよくて、キュッキュと音が鳴るまで拭いていると。
「カナメ」
再びユリクが私を呼ぶ声が聞こえた。
中性的な澄んだ声が私の耳に響く。
振り向くと少しだけ微笑んでいるユリクと目が合った。
「どうしたの?」
「リュザ様と話していたとき、前世の話をしていただろう。その話、聞いてもいい?」
「え……」
戸惑っていると、ユリクが優しい瞳を向ける。
「カナメのこと、もっと知りたいんだ」
◇◇◇
「『すまほ』……。そんな便利なものがあるんだね」
「それ一つでなんでもできるんだよ。さっき言った『電話』もできるし、『メール』っていう、伝書鳩に持たせたり、馬車でわざわざ手紙を届けなくても通信だけでメッセージが送れたり……」
私たちは一旦休憩して、フルーツティーを飲みながら前世の世界について話した。
ユリクはこの世界には存在しないものの話を聞いて、興味津々でいろんな質問をしてくれ、答えるたびに驚いてくれた。
今話したスマホやメール、他にもテレビやゲーム、電車、バスなんかの話もしたり……。
そういう便利なものがある代わりに魔法が存在しないと話したら、「魔法がない世界なんてあるのか」とすごく驚いていた。
私としては、魔法がある世界の方が驚きだよ、って言ったら「なるほど……」って考えてくれたりして、私は日本についていろいろ知ってくれるのが嬉しかった。
「カナメの前世の両親は、どんな人だったの?」
「両親かぁ。うーん、お父さんもお母さんも私が死ぬ前に亡くなってて」
「え……」
申し訳ないことを訊いてしまった、というように、ユリクは視線を下げる。
私はあわてて両手を振った。
「お父さんは私が生まれてすぐに死んじゃったけど、お母さんは私が大人になるまで一緒にいてくれたよ! たくさん愛情くれたし……。それに、お母さんが亡くなって一人暮らししてからはリリーっていう猫飼ってたから、寂しくなかったよ」
「……そっか、猫飼ってたんだね」
ユリクが再び顔を上げる。
銀髪の髪が、さらりと揺れた。
「この世界で前世の記憶を思い出したあと、ユリクに会ったんだけど……ユリクが、リリーにすごく似てて」
「そうなの?」
「リリーは前世の私の唯一の家族だったの。可愛くて仕方なくて! 今頃どうしてるだろうって思ってたときに、ユリクが現れたんだ。すっごく似てるんだよ。銀色の毛並みとか、赤い瞳とか。もう、本当にそっくりで……」
私が止まらずに話していると、ユリクはむっとした表情を浮かべて立ち上がった。
「……?」
そのまま私の前まで来て、私の両頬を両手でむにゅっと掴んで、ユリクの方に向けた。
至近距離にユリクの整った顔がある。
ユリクの瞳に驚いた私の顔が映っている。
長い睫毛と高い鼻が綺麗だなぁと見上げていると、ユリクが澄んだ声で言った。
「俺はユリクだよ。リリーじゃない。……俺を見て」
「え……」
ユリクの前髪が私の額にかかる。
真剣な表情で私をじっと見つめていた。
心臓がとくんと鳴って、どんどん早くなり、頬からユリクの体温が伝わって身体が熱くなっていくのがわかる。
落ち着け私、と呼吸を整えて、言われた言葉を反芻した。
ユリクは、リリーに似ているって言われたのが、あんまり嬉しくなかったのかな。
ユリクとリリーを分けて考えて欲しかったのだろうか。
リリーに似ているとは言ったけれど、一緒にお店を開いて数ヶ月経つのだから、ちゃんとユリクという一人の仲間として見ているのに。
ぼうっと私が考えていると、ユリクはハッとして私から距離を取った。
そのまま踵を返して向かい側の席に座り、フルーツティーを啜る。
「……とにかく、俺はリリーじゃないからね。リリーとして見られても、困るから」
「う、うん。ごめんね」
私も身体が一気に熱くなったから、ぱたぱたと手で扇いだ。
さっきの真剣なユリクの表情を思い出して再び心臓が早く鳴りそうになる。
ぶんぶんと頭の中の想像をかき消して、落ち着くためにフルーツティーを飲んだ。
翌日の朝。
身支度をして市場で必要なものを買いに行き、仕込みを終えて開店準備をしていると、コンコンとドアがノックされた。
「……? 誰だろう」
サナさんのときと違って、控えめなノックだ。
もしかしてまたリュザかな?
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何度もコンコン叩いていないし、怪しい人ではないだろう。
私は「はーい」と返事をしてドアを開けた。
思えばもっと警戒しておけば良かったのかもしれない。
私は彼を見た瞬間に固まってしまったのだから。
だってそこには……。
「シェイラ、久しいな」
厳格な顔をした、お父様がいたのだから。
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