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いつもの朝

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雨。

寒い。

教室内は少し薄暗い。


「やあ、クララ!」

「おはよう、フリードリヒ!」

フリードリヒはニヤけている。

嫌な予感がする。

「あのね……」

フリードリヒは手を合わせてきた。

はじまった。これはいつもの「宿題写させて」だ。

「うん、わかっているわ」

クララはノートを手渡した。

「ありがとう!」

「もう、宿題ちゃんとやってよね」

「すまない、すまない。次こそは」

この「次こそは」が信用できないこの男。

「次こそは」と言っていつもこれだ。


「あはは。クララは信用されているのね」

「まあ……ね」

そして思い出した。

クララ・フェルトンというキャラは医者を目指していたのだ。


医者と結婚すること。

一度は憧れたものだ。

しかし、その自分が医者になるだなんて……。


神田まりも時代、理科系科目は致命的だった。

というより、勉強自体ができなかった。

運動神経も鈍く、手先も不器用。

おまけに、コミュ障。

クララ同様、友達も少なかった。

しかし、頭が良くなった自分が少し誇らしく感じている。


そう、今世は必ず結婚するの。

だって、コミュ障ではないし、人間関係も円滑にいく。

ただ、悪役令嬢というだけだけど……。


「やっぱり、クララはお医者様になるの?」

「そうよ。だって、お父様は王室従医だもの。

クララの父、グレンは王室の従医で手術が上手で有名。

そんな名医の娘なのだから、医者にならないわけにはいかない。

ちなみにこの設定も『今宵は誰と睦まじく』には出てこない。

王太子妃を目指しながら、医者も目指す。

そういう設定だった。


と、廊下側の席を見ると、ヴァネッサとシンディとチャタの3人が喋っている。

チャタは机の上に座っている。

チャタの声はでかい。黄色い声を出すのだ。

教室中に響く。


そこで、チャタと目が合った。

チャタはクララを指差し、もう一方の手を口に添え、ヴァネッサとひそひそ話しを始めた。


「「ぎゃはははは」」

チャタの黄色い声と、低いヴァネッサの声が教室中に響き渡る。

二人は手を叩いて笑っている。


「誰かさんってさ、娼婦なんでしょ?」

誰かさんとは勿論、クララのことなのだろう。

しかし、クララは娼婦ではない。心辺りも無い。

「王太子殿下に身体売っていたんでしょ?」

と、シンディ。

「そうそう。本当はヴァネッサと結婚が決まっていたのにね」


(そんな訳ないわ!)

「酷いわね、ヴァネッサたち。気にしないことよ!!」

そう言ってくれるマリーが心強かった。


「おお! 悪ぃ、悪ぃ」

フリードリヒはニヤニヤしながら、やって来た。

「もう、フリードリヒったら。次、次、次っていつになったら?」

「ごーめーん。その代わり、これを作ったからさ」

それは何と紙を合わせて作られた犬だった。

「すごい!」

フリードリヒはもの作りが得意。

それが、フリードリヒの魅力なのだ。
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