婚約破棄したら悪役令嬢の妹に転生していたことを知る。ヒロインに婚約者を差し上げたら、この国の第一王子から求愛されました。

hikari

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アントニオサイド 清めの川

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この日は晴れていた。

空は見事な初春の晴れだ。

やはり、この青空を見ると、春の訪れを感じる。


ついに、この日を迎えた。

名残り雪のお陰で、川へお清めに行く儀式は何日も延期になっていた。

「やっと晴れたな」

「はい、アントニオ様」


儀式では川に入らなければならない。

二人は水着にミンクのコートを羽織っている。

「寒いな、シモーネ」

「そうですわね、アントニオ様」

「女王殿下は結婚に反対だったけど、パウロ・エンリケ王子殿下が自由恋愛なら、俺たちも自由恋愛が認められてもおかしくはないよな」

「そうですわね」


そもそも、政略結婚など理不尽この上ない。

なぜ、自分の意図に反して婚約者が決められているのか。

一番好きな人と結婚するのが一番上手くいく。

フィリッパよりも、シモーネが勝っていた。

だから、シモーネを選んだ。

モテモテのシモーネが自分の元に来てくれた。

何とも名誉なことだ。


「さあ、お二人とも、馬車にお乗りください」

コーエンが言った。


「そうだな。そろそろ馬車に乗らないとな」

「はい」

アントニオは馬車に乗り込んだ。

続いてシモーネが馬車に乗り込んだ。


川は山奥にある。

魔物も出る。

そんな時のために、シモーネがいる。

シモーネは土魔法使いだ。

山に出る魔物は土魔法に弱い。

こういう時に頼りになる。

それに、コーエンも魔物に対峙できる。

コーエンは物理攻撃が得意だ。

だから、コーエンは今日は槍を持ち込んでいる。

コーエンは年こそ取っているが、まだまだ戦闘の腕前は一目置くものがある。

アントニオは得意な召喚魔法で対峙する。


「じゃあ、出発だ!!」

馬車はオゴール邸を出発した。


やはり、馬車の中は寒い。

晴れているとはいえ、まだまだ寒さは残る。


外は相変わらず雪の壁。

「今年の冬って長そうですわね」

「本当だな」

冬は必ず春となる……という言葉があるが、冬のトンネルはまだまだ出口が見つからない。

今冬は長い。


街中は人々が忙しなく行き交っている。

行商人が特に目立つ。

街を抜け、湿地帯を抜けたところに山がある。

「アントニオ様」

「なんだ、シモーネ」

「魔物……怖いわ」

「そうだな。シモーネは魔法こそ習得したものの、野生の魔物を相手に戦ったことがないからな」

魔法の授業では、魔物を使わず、物を相手に戦う。

だから、野生の魔物と戦うことはないのだ。


「大丈夫だ。俺を信じろ。それに、コーエンも強いからな」

コーエンは実際に魔物と戦ったことがある。

だから、その腕前は群を抜いていると言っても過言ではない。

「頼りになりますわ、アントニオ様」

「わあああ」

シモーネが首に抱きついてきた。

アントニオはシモーネの顎を掴み、唇にキスをした。

「うふふ」


そこで、コーエンが後ろを振り向いた。

「若いっていいね」

こうやってじゃれあうことができるのも、若さの特権だ。

コーエンがいようと、お構いなしにキスができるのだから。


馬車は湿地帯に入った。

湿地帯にも、魔物がいることもある。

魔物はどこにでもいる。

魔物は時に街を襲うこともある。


馬車は独特のジョイント音を奏でながら、つつがなく湿地帯を通過した。


「魔物、来なかったわね」

「ああ。俺たちの日頃の行いが良いからだろうな! わはははは」


馬車はついに山の中へ入った。

山には鬱蒼と木が生い茂っている。

薄暗い。

今にも魔物が出てきそうだ。

山道の勾配はそれなりにある。

馬にとっても酷だろう。


と、そこへ……。

馬車の上に何かが通過した。

「来たぞ!!」

コーエンが槍を構えた。


アントニオとシモーネは馬車から降り、戦闘態勢に入った。

黒い巨大な魔物が襲ってきた。

ガーゴイルだ。


アントニオはファイアを呼び出した!!

ファイアはガーゴイルに炎を繰り出した。


ガーゴイルは大きな呻き声を上げた。


別のガーゴイルの攻撃が来た!!

何とかかわす事ができたが、別のガーゴイルに腕を噛まれてしまった。

「痛い!!」

「大丈夫?」

「大したことない」

つとめて平然を装った。


コーエンは槍でつつく。

シモーネは土魔法で戦う。

戦闘は長引けば長引くほど不利になる。

しかし、3人集まれば、あっさりといくものだ。

ゴーゴンの群れを倒した。


「良かったわ!!」

「ああ、怖かったな」

二人は抱き合った。


「まだまだ油断はできぬな」

と、コーエン。


アントニオとシモーネは馬車に乗り込んだ。

「さすがアントニオ様ですわ! 強い!」

シモーネが頬にキスをしてきた。


しばらく行くと、川のせせらぎが聞こえてきた。

ついにアシリ川だ。

この川で二人は儀式を行う。

「さあ、お二人共、川に着きましたぞ」

「ありがとう、コーエン」

「ありがとうございますわ」


アントニオはコートを脱ぎ、馬車から降りた。

追うように、シモーネもコートを脱ぎが馬車から降りてきた。

コートを脱ぐと、寒さが全身を襲う。


アントニオは恐る恐る川に足を突っ込んだ。

初春の川は冷たかった。


続いて、シモーネも川に足を突っ込んだ。

「冷たいわ!!」

「そうだな」


しかし、足を突っ込むだけではお清めにならない。

川で全身浴をしなければならないのだ。

身体は震えている。

足が千切れそうな位冷たい。

そして、寒い。


空では雲が太陽を隠していた。

「さあ、腹をくくるぞ!!」

アントニオは腰からお腹、胸、肩と順に水に身体を委ねた。

冷たい。今すぐ出たい。

しかし、数分入っていなければならないのだ。

我慢だ。

我慢しなければ、シモーネと結婚ができない。

「シモーネ。冷たいよ!!」

叫びたくもなる。

シモーネも川に身体を沈めた。

「冷たいわ!」

「でも、耐えないとな。これがシモーネと俺との結婚がかかっているんだからな」

「そうですわね。私も、アントニオ様との永遠の愛を誓いあいたいから」


身体は冷たくなってきた。

しかし、我慢……だ。


「私は寒いの平気ですから、こんなの大したことありませんわ」

シモーネがウインクした。

シモーネのその言葉にほっと胸を撫で下ろした。


そして……。

「さあ、上がるか」

「そうですわね」

これでお清めが終わった。


このアシリ川は聖なる川と言われている。

この国の建国主が、戦いの前にこの川で沐浴したのがその始まりだと言われている。

結婚式がある前だけでなく、呪いをかけられた時や、戦争に行くときなどもこの川にお清めにくるのだ。


二人はお清めの儀式を終え、邸に戻ることにした。
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