婚約破棄されたら、既に婚約者のいる女性と婚約していることが判明しました

hikari

文字の大きさ
4 / 22

久々の実家

しおりを挟む
サーラは久々に実家に戻ってきた。ギーズ家の屋敷はいつも変わらず。蔦の絡まる屋敷はレンガ造り。庭の木々に小鳥たちが集まり、囀っている。こじんまりとした佇まいだ。

サーラはそれまで王宮の一室に住んでいた。アーチュウが特別に用意してくれた部屋だった。しかし、サーラの目を盗み、アーチュウはコソコソとブリジットを王宮に招き入れていたのだ。そして、サーラのパーティードレスや宝飾品等をブリジットに貢いでいたのだ。

サーラは唾を飲んで父親の執務室の部屋をノックした。

「はい、どうぞ」

固いバリトンの声がした。


「お父様、戻りました」

サーラは父にアーチュウとの婚約破棄を告げようと思った。

父親は長身でガッチリで恰幅が良い。茶髪。長い髪を後ろで束ねている。猫のような大きな目にブルーの瞳、高く通った鼻は父親譲りだ。顔はほぼ父親似と言って良い。

「王宮より戻りました。アーチュウ殿下とは婚約破棄になりました」

――勘当される!!

父親は瞼を閉じ、言った。

「それでいいじゃないか。それでいいじゃないか。お前がその道を選んだならそれでいいじゃないか。婚約破棄なんてあってもいい。それに結婚だけが人生じゃないんだ。サーラの幸せを願う事が親の役目だ」

それでいいじゃないか。まさかの答えだった。

「でも、王室とギーズ家は曽祖父の代から交流があるではないですか」

しかし、ギーズ公爵は動じない。

「アーチュウ殿下が了承したなら、それでいいじゃないか」

「実はアーチュウ殿下から一方的に婚約破棄されたんです」

「何!?」

ギーズ公爵は眉を上げた。

「そうなんです。アーチュウ殿下は学園の同級生ブリジットと婚約したんです。しかも、ブリジットはレニエ侯爵のご令息アドンと既に婚約していたんですよ」

「あー。あのブリジットか。そのブリジットが何だと? レニエ侯爵ご令息アドンとの婚約はブルボン王国の王侯貴族なら誰もが知っている話だぞ? にもかかわらずサーラから婚約者を奪うとは何事だ! けしからん」

ギーズ公爵は完全に憤慨していた。

「殿下はそれを知っていて、ブリジットを王宮に招いていたんです」

ギーズ公爵も勿論ブリジットとアドンの婚約を知っている。二人の結婚は秒読みとも言われていた。

事実、ブリジットはアドンを連れてギーズ家の屋敷に挨拶に来たのだから。

「ブリジットもアドンと婚約破棄をしたのかな?」

「そうとしか思えません」

「アドンが太ってきたから嫌気が差してきたのか。いずれにしても許せぬ話だ」

アドンは確かに最近太ってきた。

そうでなくとも、レニエ家は肥満体型の人間が多い。サーラもその事には薄々気づいていた。

「しかし、太ってきたから……は言い訳にならないな」

「なぜです?」

「レニエ家は肥満の遺伝子が流れているからな。レニエ侯爵夫人はどちらかと言えば細身。しかし、レニエ侯爵はまるまると太っているではないか。親を見れば肥満の遺伝子が流れている位わかるだろうが」

――確かに。

レニエ侯爵はまるで熊。夫人は細身だが、アドンはレニエ侯爵の遺伝子には勝てなかった。しかも、顔もどちらかと言えばレニエ侯爵似。太ること位予測がつくだろうに。

「そこには本当の愛は無かったんだな。なあに、ブリジットは金が目的でアドンに取り入ったのか?」

レニエ侯爵は王室専属の弁護士。ブルボン王国12大侯爵家の中で一番の金持ちだった。

「どうなんでしょう。よくわかりませんが」

「アーチュウ殿下もアーチュウ殿下だ。婚約者のいる女性と婚約を結ぶなど……」

「一番気の毒なのはアドンです」

アドンにとっても青天の霹靂だったでしょう。

「アドン。あのときは誇らしげにブリジットを紹介していたのになあ」

ブリジットも学園でアドンとよく嫌味に見える位仲良くしていたのに……。それはまるで幻であったかのようだ。

「アーチュウ殿下は私が魔法音痴だから嫌になったみたいです」

「魔法音痴……か」

「いつも魔法が的に当たらずあさっての方向へ行ってしまうんです」

「だからとは言え、それだけでブリジットに乗り換えるとはな」

と、そこへ部屋をノックする音が聞こえた。

「はーい」

外から母親のレアが入ってきた。

母親は聖女としてギーズ公爵の運営する診療所で働いている。

母親は真っ直ぐに伸びた銀髪を垂らし、スカイブルーの瞳にふくよかな唇をしている。

「サーラが帰宅したと聞いて来たんだよ」

「お母様……」

「サーラはアーチュウ殿下と婚約解消になったらしい」

「え、そうなの? サーラ」

「はい……」

「でも何でまた?」

サーラは事の成り行きを全て話した。

「何ですって!? アーチュウ殿下がブリジットを王宮に招き入れていたの?」

「そう……なんです」

「あらやだ。ブリジットにはアドンがいるじゃない」

「それがアドンも婚約破棄されたみたいです」

これが既婚なら不倫に値する。いや、W不倫か。到底許される話では無い。

「アドン……かわいそうに」

レアは両手で顔を覆った。

「でも、私は言った。サーラの人生なんだから、サーラの好きなようにしなさい、と」

「そうよね。だって、元々はクロエの許嫁だったのだから」

「決められた婚約ではなく、自分から恋愛して結婚した方が良い」

「そうね」

「ありがとうございます。お父様、お母様」

と言って部屋を出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね?

みこと。
恋愛
 鉛色の髪と目を持つクローディアは"鉱石姫"と呼ばれ、婚約者ランバートからおざなりに扱われていた。 「俺には"宝石姫"であるタバサのほうが相応しい」そう言ってランバートは、新年祭のパートナーに、クローディアではなくタバサを伴う。 (あんなヤツ、こっちから婚約破棄してやりたいのに!)  現代日本にはなかった身分差のせいで、伯爵令嬢クローディアは、侯爵家のランバートに逆らえない。  そう、クローディアは転生者だった。現代知識で鉱石を扱い、カイロはじめ防寒具をドレス下に仕込む彼女は、冷えに苦しむ他国の王女リアナを助けるが──。  なんとリアナ王女の正体は、王子リアンで?  この出会いが、クローディアに新しい道を拓く! ※小説家になろう様でも「私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね? 〜不実な婚約者を見限って。冷え性令嬢は、熱愛を希望します」というタイトルで掲載しています。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

処理中です...