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久々の実家
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サーラは久々に実家に戻ってきた。ギーズ家の屋敷はいつも変わらず。蔦の絡まる屋敷はレンガ造り。庭の木々に小鳥たちが集まり、囀っている。こじんまりとした佇まいだ。
サーラはそれまで王宮の一室に住んでいた。アーチュウが特別に用意してくれた部屋だった。しかし、サーラの目を盗み、アーチュウはコソコソとブリジットを王宮に招き入れていたのだ。そして、サーラのパーティードレスや宝飾品等をブリジットに貢いでいたのだ。
サーラは唾を飲んで父親の執務室の部屋をノックした。
「はい、どうぞ」
固いバリトンの声がした。
「お父様、戻りました」
サーラは父にアーチュウとの婚約破棄を告げようと思った。
父親は長身でガッチリで恰幅が良い。茶髪。長い髪を後ろで束ねている。猫のような大きな目にブルーの瞳、高く通った鼻は父親譲りだ。顔はほぼ父親似と言って良い。
「王宮より戻りました。アーチュウ殿下とは婚約破棄になりました」
――勘当される!!
父親は瞼を閉じ、言った。
「それでいいじゃないか。それでいいじゃないか。お前がその道を選んだならそれでいいじゃないか。婚約破棄なんてあってもいい。それに結婚だけが人生じゃないんだ。サーラの幸せを願う事が親の役目だ」
それでいいじゃないか。まさかの答えだった。
「でも、王室とギーズ家は曽祖父の代から交流があるではないですか」
しかし、ギーズ公爵は動じない。
「アーチュウ殿下が了承したなら、それでいいじゃないか」
「実はアーチュウ殿下から一方的に婚約破棄されたんです」
「何!?」
ギーズ公爵は眉を上げた。
「そうなんです。アーチュウ殿下は学園の同級生ブリジットと婚約したんです。しかも、ブリジットはレニエ侯爵のご令息アドンと既に婚約していたんですよ」
「あー。あのブリジットか。そのブリジットが何だと? レニエ侯爵ご令息アドンとの婚約はブルボン王国の王侯貴族なら誰もが知っている話だぞ? にもかかわらずサーラから婚約者を奪うとは何事だ! けしからん」
ギーズ公爵は完全に憤慨していた。
「殿下はそれを知っていて、ブリジットを王宮に招いていたんです」
ギーズ公爵も勿論ブリジットとアドンの婚約を知っている。二人の結婚は秒読みとも言われていた。
事実、ブリジットはアドンを連れてギーズ家の屋敷に挨拶に来たのだから。
「ブリジットもアドンと婚約破棄をしたのかな?」
「そうとしか思えません」
「アドンが太ってきたから嫌気が差してきたのか。いずれにしても許せぬ話だ」
アドンは確かに最近太ってきた。
そうでなくとも、レニエ家は肥満体型の人間が多い。サーラもその事には薄々気づいていた。
「しかし、太ってきたから……は言い訳にならないな」
「なぜです?」
「レニエ家は肥満の遺伝子が流れているからな。レニエ侯爵夫人はどちらかと言えば細身。しかし、レニエ侯爵はまるまると太っているではないか。親を見れば肥満の遺伝子が流れている位わかるだろうが」
――確かに。
レニエ侯爵はまるで熊。夫人は細身だが、アドンはレニエ侯爵の遺伝子には勝てなかった。しかも、顔もどちらかと言えばレニエ侯爵似。太ること位予測がつくだろうに。
「そこには本当の愛は無かったんだな。なあに、ブリジットは金が目的でアドンに取り入ったのか?」
レニエ侯爵は王室専属の弁護士。ブルボン王国12大侯爵家の中で一番の金持ちだった。
「どうなんでしょう。よくわかりませんが」
「アーチュウ殿下もアーチュウ殿下だ。婚約者のいる女性と婚約を結ぶなど……」
「一番気の毒なのはアドンです」
アドンにとっても青天の霹靂だったでしょう。
「アドン。あのときは誇らしげにブリジットを紹介していたのになあ」
ブリジットも学園でアドンとよく嫌味に見える位仲良くしていたのに……。それはまるで幻であったかのようだ。
「アーチュウ殿下は私が魔法音痴だから嫌になったみたいです」
「魔法音痴……か」
「いつも魔法が的に当たらずあさっての方向へ行ってしまうんです」
「だからとは言え、それだけでブリジットに乗り換えるとはな」
と、そこへ部屋をノックする音が聞こえた。
「はーい」
外から母親のレアが入ってきた。
母親は聖女としてギーズ公爵の運営する診療所で働いている。
母親は真っ直ぐに伸びた銀髪を垂らし、スカイブルーの瞳にふくよかな唇をしている。
「サーラが帰宅したと聞いて来たんだよ」
「お母様……」
「サーラはアーチュウ殿下と婚約解消になったらしい」
「え、そうなの? サーラ」
「はい……」
「でも何でまた?」
サーラは事の成り行きを全て話した。
「何ですって!? アーチュウ殿下がブリジットを王宮に招き入れていたの?」
「そう……なんです」
「あらやだ。ブリジットにはアドンがいるじゃない」
「それがアドンも婚約破棄されたみたいです」
これが既婚なら不倫に値する。いや、W不倫か。到底許される話では無い。
「アドン……かわいそうに」
レアは両手で顔を覆った。
「でも、私は言った。サーラの人生なんだから、サーラの好きなようにしなさい、と」
「そうよね。だって、元々はクロエの許嫁だったのだから」
「決められた婚約ではなく、自分から恋愛して結婚した方が良い」
「そうね」
「ありがとうございます。お父様、お母様」
と言って部屋を出た。
サーラはそれまで王宮の一室に住んでいた。アーチュウが特別に用意してくれた部屋だった。しかし、サーラの目を盗み、アーチュウはコソコソとブリジットを王宮に招き入れていたのだ。そして、サーラのパーティードレスや宝飾品等をブリジットに貢いでいたのだ。
サーラは唾を飲んで父親の執務室の部屋をノックした。
「はい、どうぞ」
固いバリトンの声がした。
「お父様、戻りました」
サーラは父にアーチュウとの婚約破棄を告げようと思った。
父親は長身でガッチリで恰幅が良い。茶髪。長い髪を後ろで束ねている。猫のような大きな目にブルーの瞳、高く通った鼻は父親譲りだ。顔はほぼ父親似と言って良い。
「王宮より戻りました。アーチュウ殿下とは婚約破棄になりました」
――勘当される!!
父親は瞼を閉じ、言った。
「それでいいじゃないか。それでいいじゃないか。お前がその道を選んだならそれでいいじゃないか。婚約破棄なんてあってもいい。それに結婚だけが人生じゃないんだ。サーラの幸せを願う事が親の役目だ」
それでいいじゃないか。まさかの答えだった。
「でも、王室とギーズ家は曽祖父の代から交流があるではないですか」
しかし、ギーズ公爵は動じない。
「アーチュウ殿下が了承したなら、それでいいじゃないか」
「実はアーチュウ殿下から一方的に婚約破棄されたんです」
「何!?」
ギーズ公爵は眉を上げた。
「そうなんです。アーチュウ殿下は学園の同級生ブリジットと婚約したんです。しかも、ブリジットはレニエ侯爵のご令息アドンと既に婚約していたんですよ」
「あー。あのブリジットか。そのブリジットが何だと? レニエ侯爵ご令息アドンとの婚約はブルボン王国の王侯貴族なら誰もが知っている話だぞ? にもかかわらずサーラから婚約者を奪うとは何事だ! けしからん」
ギーズ公爵は完全に憤慨していた。
「殿下はそれを知っていて、ブリジットを王宮に招いていたんです」
ギーズ公爵も勿論ブリジットとアドンの婚約を知っている。二人の結婚は秒読みとも言われていた。
事実、ブリジットはアドンを連れてギーズ家の屋敷に挨拶に来たのだから。
「ブリジットもアドンと婚約破棄をしたのかな?」
「そうとしか思えません」
「アドンが太ってきたから嫌気が差してきたのか。いずれにしても許せぬ話だ」
アドンは確かに最近太ってきた。
そうでなくとも、レニエ家は肥満体型の人間が多い。サーラもその事には薄々気づいていた。
「しかし、太ってきたから……は言い訳にならないな」
「なぜです?」
「レニエ家は肥満の遺伝子が流れているからな。レニエ侯爵夫人はどちらかと言えば細身。しかし、レニエ侯爵はまるまると太っているではないか。親を見れば肥満の遺伝子が流れている位わかるだろうが」
――確かに。
レニエ侯爵はまるで熊。夫人は細身だが、アドンはレニエ侯爵の遺伝子には勝てなかった。しかも、顔もどちらかと言えばレニエ侯爵似。太ること位予測がつくだろうに。
「そこには本当の愛は無かったんだな。なあに、ブリジットは金が目的でアドンに取り入ったのか?」
レニエ侯爵は王室専属の弁護士。ブルボン王国12大侯爵家の中で一番の金持ちだった。
「どうなんでしょう。よくわかりませんが」
「アーチュウ殿下もアーチュウ殿下だ。婚約者のいる女性と婚約を結ぶなど……」
「一番気の毒なのはアドンです」
アドンにとっても青天の霹靂だったでしょう。
「アドン。あのときは誇らしげにブリジットを紹介していたのになあ」
ブリジットも学園でアドンとよく嫌味に見える位仲良くしていたのに……。それはまるで幻であったかのようだ。
「アーチュウ殿下は私が魔法音痴だから嫌になったみたいです」
「魔法音痴……か」
「いつも魔法が的に当たらずあさっての方向へ行ってしまうんです」
「だからとは言え、それだけでブリジットに乗り換えるとはな」
と、そこへ部屋をノックする音が聞こえた。
「はーい」
外から母親のレアが入ってきた。
母親は聖女としてギーズ公爵の運営する診療所で働いている。
母親は真っ直ぐに伸びた銀髪を垂らし、スカイブルーの瞳にふくよかな唇をしている。
「サーラが帰宅したと聞いて来たんだよ」
「お母様……」
「サーラはアーチュウ殿下と婚約解消になったらしい」
「え、そうなの? サーラ」
「はい……」
「でも何でまた?」
サーラは事の成り行きを全て話した。
「何ですって!? アーチュウ殿下がブリジットを王宮に招き入れていたの?」
「そう……なんです」
「あらやだ。ブリジットにはアドンがいるじゃない」
「それがアドンも婚約破棄されたみたいです」
これが既婚なら不倫に値する。いや、W不倫か。到底許される話では無い。
「アドン……かわいそうに」
レアは両手で顔を覆った。
「でも、私は言った。サーラの人生なんだから、サーラの好きなようにしなさい、と」
「そうよね。だって、元々はクロエの許嫁だったのだから」
「決められた婚約ではなく、自分から恋愛して結婚した方が良い」
「そうね」
「ありがとうございます。お父様、お母様」
と言って部屋を出た。
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