神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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王都編

始まりの日

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 サンザン歴3505年華の月、三つの月が揃って新月となる始まりの日に魔導大国タイレーンは厳戒態勢にあった。国民もこれから何が起きるのか分からず、不安と恐怖を纏い家の中で縮こまりながら、何事もなく夜が明ける事をここ1ヶ月願っていた。

 そのタイレーン国の東に鎮座するオブテューレ山の麓に白銀の鎧を纏った一個師団が陣を敷いており、その陣に配置された騎士達は誰も言葉を発さずその時を待っている。そして静かなる山脈の山頂近くに設置された作戦本部内では、飛び交う各地の情報通信音だけが響いていた。

「ヒブレート湾岸変化なし。海域における変化も見られません」
「トルケート、バレッティ海域10分前より波高変化あり。継続警戒中」
「バララティ高原変化なし」
「ヘルビティ山変化なし」
「モルティ山変化なし」
「ファルケゴ港変化なし」
「ザルディ高原変化なし」

その後も各地に派兵された部隊から情報が入るも特に変化らしい報告は無かった。

「隊長、本当に現れるのでしょうか」

「この状態でもう1週間になります、やはりあくまでも予言は占い程度だったのでは?」

纏めていた深緑色の長い髪を解き、目頭をその長い指で押さえながら魔導騎士参謀長マラエカ・リューンは項垂れた。

「そうですね。予言の日はとうに過ぎてますし。まぁ、確かに、これまでに予言が外れたことなんてなかったのですから当然の様に予言を元に行動してましたけど。」

マラエカの言葉に副参謀のホルー・ブレイカーが肩を回しながら相槌を打った。その他魔導騎士各部隊長達もこの予言を元に行動している事に馬鹿馬鹿しさを滲ませる表情を見せ、溜息を零した。

「外れたなら外れたで良い。これを機に予言などに振り回される国政が変わる事に期待するだけだ」

腹に響く低い声が皆に背を向け壁に広がる国土開図を眺める男から発せられた。撫でつけられた銀とも白とも言えぬ、輝く淡い灰色の髪に潜ませたベレイカと言われる嗜好品を取り出し、そこに爪をガリっと弾き合わせて火をつけた。そして、振り返りながら薄く形の良い唇で挟んで思い切り吸う。その唇から吐き出された煙の隙間からは、翡翠色と瑠璃色のオッドアイが皆を睥睨した。一瞬にして、緩んだ空気を凍り付かせたのは魔導大国タイレーン魔導騎士隊師団長ビクトラ・ライディその人であった。

「はぁ……団長。イライラするのはわかるんですけど、寒いのでその冷気抑えませんか?皆、凍えてしまいます。」

フロア入口の幕を開けて金髪ピンクローズの瞳、美の集大成と言っても過言ない容貌を歪ませ入ってきたのは副隊長でエルフのリャーレ・トハマイカであった。

「腑抜けた事を言うやつが悪い」

ビクトラはドカッと資料や魔道具が置かれたテーブルに両足を乗せベレイカを吸った。

「はぁ。我が国の隊長ともあろう方が本当に……嘆かわしい。」

リャーレは溜息を零しながら、テーブルに置かれた両足のつま先をバシっと叩いて足を下させた。

「しかし、この500年間予言書が外れた事は一度もありませんでした。もしも予言が外れたとなると災厄の前兆なのでしょうか。」

明るい茶髪に柔らかな短毛に覆われた耳をピクピクと動かしながら鳶色の瞳をリャーレに向けたのは、犬人族マロ・ローマン偵察隊隊長。嗅覚・視力・聴覚・魔力感知に優れた彼も周囲の反応を警戒するも、それらしい反応も何も無く漠然とした不安にマズルに皴が集まる。

「どうだかな。王宮からは華月初日としか言われてねぇしな。華月は良い。けど初日ってなんだ?1週間前は華月1の日、今日は三月が揃って新月の始まりの日だし。明日は週の初め。」

指先で机をトントンと叩きながらビクトラは考えあぐねていた。

「一応初日っちゃ初日なんだろうが。情報が曖昧過ぎてこっちもどの程度の軍備を整えるかわからねぇから厳戒態勢敷くしかねぇな。」

ビクトラはベレイカの吸い殻を爪で燃やし消した。

「800万の天災を身に宿し予言を終わらせる……か。800万の天災ってなんだ?」

マラエカは呟いた。その瞬間、すさまじい魔導波がオブテューレ山頂から放たれ、一瞬の出来事に皆動くことができなかった。その中でビクトラとリャーレだけはすぐに行動に移し、魔道通信機を起動させる。

「2番隊山頂へ進行、1番隊周辺警戒、3番隊西側入口より進行、4番隊は各部隊と王宮へ通達!リャーレに一時特務権限を許可する!2番隊を率いて状況確認を行え!3番隊ルビウスには次官・法務権限の使用許可する!行け!」

ビクトラの咆哮に全隊が一斉に動き出した。
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