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王都編
予言の綻び
しおりを挟む「ビクトラよ。お前だけには伝えよう。主人の真実のカケラを。」
呼び止められたビクトラは静かに振り返り朱雀の金の瞳を見た。嘲るでもなく、見下す訳でも無い、仲間として信を以て語りかけていると感じた。
「何だ。真実のカケラとは。」
朱雀はビクトラの盲信する主人はテュルケットではなく、神々の使徒であり神の権能を授かりし愛し子、グレース•クラリスである事、また、予言によって歪みが生まれた場所を戻す事が使命であり、その為に巡行を行う事と、世界の崩壊の被害を抑える準備が必要である事を簡単に説明して聞かせた。
「…それは、、なんと言えばいい。歴史を全て否定する行いだ。賢帝を貶める者と捉える者もいるだろう。現皇帝は穏やかな良き為政者だか、予言を絶対と信じて疑っておられない。」
ビクトラはまさかの展開に頭をガリガリとかき、目を閉じて唸った。
朱雀はビクトラのテュルケットと偽り巡行させるべきという意志を感じて問うた。
「しかし、テュルケットと名乗り巡行し、歪みを正せばどのみち賢帝とやらの行いの過ちは露見する。すでに予言の終わりは伝聞され各地は混乱しているのだろう?」
「予言は外れない。それが民を安心させてきた。恐怖という感情さえ持たぬ者も多くいる。その予言が終わると言われれば、憶測が飛び交う。混乱と言うよりも、今は不安に満ちていると言った方が正しい。」
「ならばどうする。我と主人だけでも成せるが、時間がかかる。その間にも崩壊が始まれば、幾ら神々の力を以てしても止められぬ。」
俺は祖父の治める西域のイスラ領で育った。あそこは王都から一番離れた場所で、魔獣やらなんやらがいつだって湧いてくる。武力統治でしかあそこは納められなかった。必然的に俺も強くなった。
だから、王都に騎士として招聘された時は余りに腑抜けが多く唖然としたものだ。予言に甘えた結果だと分かっていたが実害よりも得る物の方が大き過ぎた。安寧、飽食、富に享楽。挙げればキリが無い。故に綻びに気付かなかった。
「はぁ。考えても二人じゃ答えが出ねぇ。王都へは既に連絡が行ってる筈だ。朱雀、駒を一人、いや、二人増やしたい。」
朱雀は眉を吊り上げドスの効いた声で唸った。
「お前に加えて主人に侍る者を増やすだと?」
「どのみち、グレース様が巡行を行うなら従者は増えるだろう。ならば絶対服従を誓う者がもう少し必要だ。アンタだってグレース様の寝食を雑にはしたく無いだろ。それに、まだカケラしか教えてくれねーんだろ?なら護衛は多い方がいい。違うか?」
ビクトラは扉前の壁にもたれて朱雀を見てニヤリと笑った。
「心当たりがあるのか。その者は絶対服従が出来るのか?」
朱雀は心配そうに目尻を下げて眠るグレースを見つめた。
ビクトラは自分への態度との温度差に思わず吹き出しならがら扉を開けた。
「安心しろ、俺の部下だ。裏切りの制裁は良く分かってる奴等だ。とりあえず、拝謁が叶うまでテュルケット様として扱わせて頂く。」
朱雀は光差す扉に目を細めながら静かに頷いた。
「主人よ、主人に触れるのは我のみ。安心しろ。」
朱雀の緩やかなカールした髪がグレースの頬に触れ、彼の唇がグレース唇にそっと触れた。そしてその繊細な手はそよ風の様にそっとグレースの頭を撫でた。
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