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王都編
瑕
しおりを挟む暴力的な表現があります。
苦手な方は読み飛ばしてください。
宜しくお願いします。
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陛下がグレース様を連れ去って、一刻以上過ぎた。
騎士隊員は皆、不安を感じている。
俺も、リャーレも、マラエカも、ピショットも、マロも、皆んな何か違和感を感じ、自然と体の一部が換装しかかっている。グレース様は外見の幼さに反して、成熟した大人の内面を持ち合わせた方の様に思えた。この世界を憂い、何とかしたいと焦っておられる。そんなグレース様が陛下と二人きりでゆったりした時間を求められるだろうか?疑問が不安に変わる。
「隊長。なんかおかしくないですか?たった一、二言交わしたていどで、陛下がグレース様を連れ出すなんて。」
リャーレも何か不安を感じ取っている様だ。
「あぁ。何がおかしいとは断言出来ねぇがムカつきが抑えられねぇ。」
「そういえば、隊長、グレース様と隷属繋いでますよね?なんか感じませんか?」
「それなんだよ。何も感じねぇ。小屋にいた時は、感じたんだ。不安だとか、戸惑いとかって感情。でも、今は全くだ、」
「何か皇帝宮で起きたのでは?あそこは神域結界がありますよね?」
リャーレの言葉に俺は凍てついた。
「しまった、、やられた!」
「騎士隊の特務班を呼べ。至急だ。」
そうだ、あそこには結界があった。グレース様は顕現されて間もない。受肉もしてない。今ここで魂と肉体を分離されたら消えちまう!
あの、クソ垂れ小僧!何か気付きやがったな。
「宰相はどこにいる!ウォーレン宰相を呼べ!」
ビクトラはバチバチと放電しながら朝議の間へ向かった。
「ビクトラ殿、如何された?」
「ウォーレン宰相!それどころではない!グレース様が皇帝宮で捕まった可能性がある!至急皇帝宮の門を開けてくれ!」
「先程、グレース様がお疲れの為皇帝宮にてお休みになられたと連絡が入ったのだが?捕まったとは、何かの間違いでは?」
ビクトラは隊服のカラーを外し首を見せた。
「俺はグレース様に隷属している!非常に不安定な感情と怒りが先程から強くなってる!急ぎ皇帝宮門番に連絡して欲しい!」
「な!!まさか!貴方が隷属!?真か!?」
「俺は主人を定めた!主人に危険があれば俺も死ぬ!急いでくれ!」
「分かりました。至急手配を。ザッカリー!近衛を連れてビクトラ殿と至急向かいなさい!」
宰相補佐官は急いで手配に向かい、ビクトラは部下を連れて駆け出した。
「隊長、良いんですか?あんな嘘ついて。」
「いや、半分本当だ。ついさっき、グレース殿の断末魔の様な叫びが体には響いた。ヤバいかもしれねぇ。急ぐぞ!」
「‼︎本当ですか?なら、医務官も連れて行きましょう。」
皆、あの日一目でグレース様に魂を奪われた。
どうしようもない程の渇望と充足感、強い獣を半身に持つ者程その感覚は強かっただろう。常に獣達の本能はグレース様を求めて探している。
だからだろう、皆、危機感を感じている。
皇帝宮に着いたビクトラ達は口上無く抜刀し、皇帝宮へ入り込んだ。
そして結界を近衛に解除させ、皇帝の私室前でノックをしようとした時、全てを切り裂く様な叫び声がした。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!もうやめてーーーーー!!!」
そこで、俺の思考は死んだ。
隷属の枷は氷刀と変わり、俺の手に顕現した。
リャーレは全身から樹木の様に枝や蔦を這わせ、マロは闘犬の本能を剥き出しにした。
ドォォォォォォン
扉を破壊した先に見たのは、ベットの天蓋から垂らされた枷に両手を縛られ、背後から皇帝の獣体である龍の舌で嬲られているグレース様の姿だった。その身体には無数の噛み跡や、マーキングの痕が付けられていて、魂と肉体を固定する楔が心臓に打ち込まれており、そこから金の鎖が左右の果実を貫く翡翠の飾りに繋がっていた。しかも、その鎖の真ん中から分かれた鎖が垂れ繋がった先は、男芯の付け根を締め付ける輪だった。
「グルル、グァァァ!貴様!!やってくれたな!」
「いくら皇帝とはいえ、神子に何てことを!」
「その手を離せ!!」
皇帝は突然入ってきた騎士隊に驚きながらも、咆哮し叫んだ。
「我が妃との閨に入り込むとは、何事か!」
何も考えられない。
殺せ、殺せ、殺せ!
我が半身を奪う物は何人とも許さぬ。
殺せ!喰い殺せ!
ビクトラは枷を振り切り換装して皇帝に斬り掛かった。皇帝は獣体から人の姿に戻って、後ろへ下がる。すると、突然グレースとオルポーツとの間に壁を作る様にとてつもない数の光の筋が取り囲んだ。
その光から異国の装束の男達と、見たことの無い男とは違う姿の者達が現れた。
「おい、お前。やってくれたな。我らが使徒を慰み者にするとは、、覚悟は出来ているだろうな。」
「この星、今消してしまおうか。構わない。この子が消えればどのみち災厄は起きる。そうなれば皆道連れだ。」
「ちょっとぉ、貴方のところのクソ神の尻拭いに出向いた使徒にぃ、この扱いはひどくない?青龍、アンタさぁ、とことん落魄れたね。私達伊達に八百万と言われてる訳じゃないんだよ?どんどん集まるよ、アンタを屠る神々が。」
ビクトラも、皇帝もその異様な光景に動けなかった。
「おい、白虎。貴様何のために隷属したんだ。守れなきゃお前の存在意義はどこにあるんだ。だが、結界を解いたことは褒めてやる。あとはこっちに任せとけ。」
ぐっと白虎は歯を食いしばった。
自分の不甲斐無さと情け無さに、グレースの瑕に心が粉々になる。けれど、引くつもりはなかった。
「申し訳ない、異国の神々よ。我が国の不始末、こちらで引き受けたいのだが、許しては戴けぬだろうか。」
ビクトラの言葉を無視して、神々の真ん中に立つ、
一番神力の強い男が前に一歩進んだ。
すると部屋中に満ちたオルポーツの汗と、体臭と混じって甘ったるく酸味のある香水の香がふっと消え、空気が変わった。
それは静謐。
森の奥深くに立ち入った様な静けさと清々しさが部屋を包んだ。
鈴の音が、聞こえる。どこからともなく、人の歌の様でいて、呪文の様でもある響きが伝わる。この世界では聴いたことが無い楽器の音も。
「我等が愛し子を返してもらおう。おいで、グレース。もう帰っておいで。」
グレースの枷を祓って外すと、グレースの身体が大国主の胸に倒れ込んだ。自我を失い、焦点は定まらず口は締まり悪く開いたまま、吹いた泡が垂れていた。大国主はグレースを一撫でして、穢れを払う。
身体に付けられた瑕も、跡も綺麗になった。けれど、グレースの意識は帰ってこない。
「地球は、我々の力を使って護る。また、神は生まれるだろう。だから、心配しなくていい。」
遠くで、泣いている声が聞こえる。
この泣き声を聞くと、両胸がジンと痛くなる。
あの子が生まれて、初めて母乳をあげた。
こんな幸せがあっても良いのかと思った。
何が理由でも無い。ただ、そこにある命。
大人は無意識に意義を求め、理由を欲する。
大抵の人間に、自身の存在意義と必要性を見出せる者は、
…少ないと思う。
でも、親になるということは、その二つを叶える事だった。
社会では居ても居なくても、誰も気付かない。
そんな自分。
でも、この子は私が育てないと死んでしまう。
絶対的な責任を負える喜びがあった。
あぁ、あの子が泣いている。私を想って泣いている。
守らなきゃ。あの子は私の存在意義なんだから。
ママは強くなるよ。負けない。君を守るよ。
遠い場所からでも。必ず。
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