神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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王都編

奪われた半身

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 異世界の神々が、グレース様を奪って行った。
いや、奪うというのは語弊がある。連れ帰った。と言うべきか。
しかし、俺にとっては奪われたも同然だった。隷属の主人が奪われると言う事は、己の半身を奪われたも同然。

その日、皇帝宮は封鎖され皇帝は軟禁状態となった。
皇帝をどう遇するのか、上位貴族による会議は紛糾する。
皇帝擁護派は財務大臣、皇帝直轄領領主代行達、外務大臣等であったが擁護材料が少なく、各派の提案はどれも納得出来るものではなかった。
中には、神子が神によって天界へと戻ったのであればこちらとして動く必要は無いといった愚かな発言すらある。彼等は分かっていない。何故、神子が天界より舞い降りて来たのかを。
これから起こるであろう災厄を、皇帝がどうにか出来るわけもないのに。

「騎士隊の意見はどうか?」

議長として宰相が聞いた。

「騎士隊の総意として、皇帝の暴挙は許される物ではない。神子が天界へ戻ったと言う事は、この国及びこの世界が見放されたということだ。天界で何が起こっているのかは分からん。テュルケット神はおられなかった。代わりに異界の数万とも言える神々が顕現された。」

その場に居た誰もが信じられないと言った顔をしていた。
直轄領の者達は、神などと、と嘲った態度。

「ピショット。監視投映を。」

「はっ、はい。今すぐ。」

「こちらは近衛隊長と騎士隊付き通信司令官私し、ピショット•フルエルタの規定監視紋章による現場の模様となります。グレース様降臨の際の映像はリャーレ副隊長の物がありますが、それも流します。

「また、先日の映像には一部、皆様にはお見せし辛い箇所がございますが、如何しますか?音声のみでよろしいですか?」

「当たり前だ、あの様な現場。俺は二度と目にしたくない。」

「しかし、音声だけでは真偽のほど計りかねます。」

下衆な下心が見える領主代行に、側に控える騎士隊と近衛達が刀に手をかけた。

「これが、現場に居た者達全員の意見だ。それでも見たいと言うならば、私はその両目を抉ろう。それでも見たいか?」

騎士隊、近衛隊の圧に領主代行は慄き、黙って視線を卓に落とした。

それから、グレース降臨の際の映像と、皇帝宮へ突入する前から突入寸前の映像と音声が流れる。突入の瞬間から映像は消え音声だけが響いた。泣き叫び助けを求める悲鳴、響く鎖のぶつかり合う音、そして騎士隊や近衛のざわめきと怒号がひとしきりながれた。

ビクトラは組んだ両手に額をつけ目を瞑り、苦痛と戦っていた。

もっと早くに気付いていれば、俺が枷を着けなければ、あの方はこんな目に遭わずに済んだのに。もう会えないあの方の記憶に染み付いた、瞳が、手が、唇が、笑顔が胸に苦しい。

そして、ビクトラと皇帝が対峙した所から映像が映し出された。
そこに映る、騎士隊の隙間から見えるグレースの胸元には本来であれば魔獣の調教に使われる器具が打ち付けられていた。血を流し痙攣するグレースを見たその場の全員が目を瞑り天を仰いだ。
そして、神々が現れた映像に皆椅子から転げ落ちたり、椅子を降りて跪く者もいた。

「この星、今消してしまおうか。構わない。この子が消えればどのみち厄災は起きる。そうなれば皆道連れだ。」

この言葉にその場に居た上位貴族達は目を見開いた。

「八百万の天災を身に宿し、預言を終わらせる……まさか。預言通りに、、」

「いや、違う。逆だ。グレース様がいなけばそうなる。」

「皆様には、この内容をお教えする。」

これまでの朱雀やグレースから聞いた言葉をすべて伝えた。
そして、グレースがテュルケットの神子というのは、多分にこの国の者に受け入れてもらうための嘘だったのだろうと皆理解した。

「我が皇帝は、この様なお方に何と言う事を。」

宰相のウォーレンが涙声で搾り出す様に言葉を発する。
誰も、もう皇帝を擁護できなかった。

「採決を。」

満場一致で皇帝の退位と、離宮への永久蟄居。長子のサリューン殿下の即位、宰相が摂政として補佐する事に決まった。

ビクトラは未だ動く心臓に、グレースへの希望を抱きながら帰途につく。


















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