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新生編
原書のありか(2)
しおりを挟むグレース様に付き従える朱雀にビクトラを眉を顰めた。
たった一カ月で、あの好戦的で自分本位な朱雀がどうすればあの様に変われるのか?無言で視線を誰とも合わせず、俯き甲斐甲斐しくグレース様のお世話をしている。
「朱雀が気になりますか?」
ビクトラはハッとして、グレースに笑みを返した。
「そうですね。気にならないといえば嘘になりますかね。以前お会いした朱雀様とは全くの別人のご様子。」
グレースは、ソファの後ろに立つ朱雀を後ろ向きに見上げて微笑んだ。
「だって。どう変わった?朱雀。前のお前はどうだった?」
表情を変えず、金の瞳を細めて吐き捨てる様に朱雀は答えた。
「我が変わったとするなら、受肉を果たした事ぐらいだろう。他はかわらん。」
クスクスと笑うグレースは、笑い堪えながら片目を開いてビクトラに視線を送った。
「だ、そうですよ。彼の受肉体は、私が与えました。内面に変化をビクトラさんが感じたならば、私の所為でしょうね。」
ビクトラは朱雀の受肉体がグレースの物だと聞いて、怒りを覚えたが、顔には出さずに頷き相槌を打つ。
「左様でしたか。おめでとうございます。それでは、失礼して候補者を確認して参ります。あぁ、予言の原書の一冊ですが、教会大聖堂の保管庫に有るそうですので、後程参りましょう。他の二冊はエルザード様の陵墓に埋蔵されたと聞き及んでおります。そちらも大司教の許可が出次第捜索致します。」
必要事項を伝えて、感情をコントロールしたい。
頭が割れそうに痛む。
神界の者が受肉する。それはグレース様と朱雀に交わりがあったと言う事か?握る拳が酷く冷たい。
一礼して立ち上がり、ビクトラがグレースに背を向けて扉へ向かおうとした時、声を掛けられた。
「ビクトラさん、私も受肉します。」
ビクトラは固まった。グレースがまた、誰かに組み敷かれるのかと、ビクトラは恐怖した。
「その相手の候補に貴方も入っています。もしも、抵抗があるなら言ってくださいね。決して感情を求める訳ではありません。しかし、この魔道具が胸にある以上、それしか方法が無いのも事実。無理強いはしません。巡行を行うには肉体がどうしても私には必要なのです。ご理解下さい。」
ビクトラはゆっくりと振り向くと、手のひらに自身の核が生み出す魔粒子を集めた。
「グレース様、失礼致します。口をお開け下さい。」
グレースの目の前に立ったビクトラは手のひらの魔粒子を眼前に出した。青、緑、黄色、赤紫の魔粒子がグレースの前で浮かぶ。
急にグレースに近付いたビクトラを朱雀は警戒して、手を出して静止しようとした。
「何をする気だ、ビクトラ。」
「相性を見られたいのでしょう?候補に入れて頂いているのだ。これが手っ取り早い。グレース様にとってこの魔粒子が如何なものか、ご確認頂く。」
グレースは朱雀の手をゆっくり押し退け、両手でビクトラの手をそっと掴むと口に含んだ。ゆっくりと舌でビクトラの指先を舐め上げ吸い付く。指の付け根まで口に含み、指先が喉奥に触れる。少し涙で潤んだ瞳でグレースは見上げている。ビクトラにこの行為の意味を教える様に。
グレースの甘美な行動にビクトラは忍耐力を試されていると感じた。
このまま手を引き抜いて、その舌を味わいたい欲求が抑えられない。
次第にビクトラの魔粒子がグレースの身体を巡って瞳に集まっていく。
吸収を終えるとゆっくりと指は引き抜かれた。引き抜かれる際に、ビクトラの指の腹を舌先がなぞる様に、名残惜しそうに撫でていった。
天界を出る際に、月読命に魔粒子の事をグレースは教わった。
黒の素地とは、闇を生むためのものではなく、その魔粒子を組み合わせて新たな魔粒子の色を生み出す最も重要なものであるという。
ただ、黒の素地に吸収されることの無い純度の高い魔粒子が必要であり、純度が低く掛け合わせに失敗すると、闇が生まれてしまう。諸々教えを乞いグレースは必要な魔粒子の知識を得た。
「あぁなるほど。とても純度の高い魔粒子をお待ちですね。是非、お願いしたい。」
グレースはニコリと笑ってビクトラを目で誘った。
今のグレースには出会った時の様な朗らかな様子はなく、心をくすぐる様な笑顔もない事にビクトラは戸惑いを隠せずにいる。
しかし、あの時の可憐さはなくともその目が、口がビクトラを離さない。驚きと共に恐怖をビクトラは感じた。
「朱雀、我慢できる?いいよね、ビクトラさんで。」
朱雀は目を閉じて、怒りと嫉妬を飲み込み答えた。
「勿論だ。グレースが望む様にすればいい。我はそれに従う。」
ビクトラは朱雀の態度にまた驚いた。
朱雀は出会った時から庇護以上の執着心でグレースを見ていたはず。それが、本当に従者の様に忠実な僕と変わっている。グレース様の変化と関わりがあるのだろうか?
逡巡していると、グレースが立ち上がってビクトラの頬に触れた。
「貴方の知る私は眠っています。」
「心を守るために。」
「今貴方の目の前にいる私はグレースの本能。欲求の集合体の様な物です。気持ちが悪いですか?」
俺に触れる手は暖かい。
その手からは嘘偽りを感じない。酷く悲しみが染み付いているみたいに切ないな。俺達が傷付けた。
「いえ、気持ち悪い物などグレース様にはございませんよ。酷く心が揺れるのです。」
直立不動のビクトラの鳩尾に額をつけて、言い辛そうにグレースは話し続ける。それを朱雀は表情も変えず黙って見つめていた。
「私は、、貴方を誘っています。今この場であっても、原書のありかなどどうでも良いと思える程に惹かれている。抱くか抱かれるかどうするかを考えてもいる。神力の所為でしょうか?黒の所為でしょうか?貴方の魔粒子を全て飲み込み喰らいたいと腹が疼きます。」
「貴方は私の物になってくれますか?」
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