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心の枷編
エルザードの苦悩
しおりを挟む心が落ち着かない。
予言に踊らされている人々の営みが紡いだ歴史の終着が、
すぐ近くにある様な気がしてならない。
臆病な俺が気にしすぎているんだと、誰かに笑い飛ばして欲しい。
そっと、結ってもらった髪を撫でる。
今朝アガットに結ってもらった髪の花が咲いている。
とても器用で、アガットの節くれて、剣胼胝だらけなのに細く、
長い指先からは想像出来ない程、美しい花を生み出した。
アガットがまだ髪を撫でている様な気がして心が癒される。
グレースは、大聖堂のテュルケット神像の前に並ぶ長椅子に
腰を下ろして見上げた。
「あんたはこの世界に何を望んだんだ?」
「なんでアマルマを見捨てた。」
「神って何なんだ?ここはお前の遊び場なのか?」
「未来が見えないと刺激的だったのか?毎日が。」
「お前にとってこの世界はさ、玩具だったのかよ。」
「この世界を守りたくて権能を渡したんじゃないのか?」
グレースは自分の言葉にハタと気付いた。
……あんたまさか、楽しく無くなったから、、、
権能をエルザードに渡したって言うのか?
そこまで愚かじゃないよな?テュルケット。嘘だろ?
そしてアマルマの言葉を思い出す。
〈 理性と自制が効き過ぎる。面白味に欠ける 〉
「っっ!あんたって奴は、本当に神様に向いてないよ!」
「狂ってゆくエルザードを見て、楽しんでたのか!」
エルザードは歴史書を見る限り、とても素晴らしい為政者だった。
国政の形を民衆に還元できる物に変えて、法制を整え、学びを広めた。
魔獣や略奪者からは、自ら剣を取り民を守って、国の発展の為に
命を削って創造の権能を使った。それをアンタが留めを刺したのか?
だから、エルザードは俺を、都を呼んだ、、、この世界に。
アイツを堕天にする為に?
———未来視を持っていたなら、彼には見えていた筈だね。
都が囁く。
———エルザードの苦悩、痛み、恨みが。それでも権能を渡したのはただ、刺激が欲しかったからなのかな?
なぁ、テュルケット。本当にクズだよ。
だから、アンタはエルザードに足元を掬われたんだ。
アンタが双葉を殺す。
そうすればアンタは自分の都合で命を弄ぶ悪魔になる。
神の座を追われる。
そうか、そうだったんだな。
後ろで扉が開く音がした。
「グレース様、こんな所で何を?テュルケット様とお話を?」
リャーレが隣に座っても?と目で訴える。
「リャーレ、膝に乗せて?」
甘えたい。この大樹の様に強く優しいこの男に。
「喜んで!神からのご褒美ですね?頑張りました!私。」
ふふふと笑って額にキスをしてくれた。
優しいね。リャーレは。
ビクトラと変わらない身長だが、ビクトラの様に
ガチリとした肉体ではなく、しなやかで柔らかく
しっかりとした肉体でグレースを抱き上げる。
リャーレの膝の上で横抱きにされて、その胸に頭を預けと
トクトクトク、、リャーレの少し早い心音が聞こえる。
「リャーレ、エルザードが、可哀想だ。」
グレースはテュルケット像を見上げ、
流れる涙をリャーレには見えない様に隠した。
「そうですか。何かが見えたのですか?」
リャーレはグレースを見ない。
グレースの頭に頬を当ててステンドグラスの窓の神話に
思いを馳せた。
「八百万の天災を身に宿し予言を終わらせる。」
「この予言は、裏も表もなく正しかった。」
リャーレは抱き締める手を少し緩めた。
「そう、ですか。それでも、私は貴方の側に居ますよ。」
グレースは涙を拭わず振り向いた。
「俺がリャーレを殺しても?」
リャーレは破顔した。
「貴方になら、殺されたい。エルフは長寿です。他の誰もが死に絶えても、最後は私だけが大樹となり貴方の側に侍るでしょう。」
グレースは笑って答えた。
「ならば、俺はそこで暮らしていくよ。リャーレの側で。」
二人はフフッと笑って抱き合った。
「そう言えば、グレース様の感。ビンゴでした。対策を直ぐにでも考えませんと。」
「やっぱりか。サリザンドはいるかな?」
「サリザンド殿は今神殿跡の調査に向かっています。連絡してみますが、本日は戻られないでしょう。」
「わかった。サリザンドが戻ってから詰めよう。まだ余裕はあるかな?」
「えぇ。爆発が起こる量まで溜まるまでに、後半年は時間があります。」
「そうか。」
グレースはリャーレの尖った耳に口を寄せて囁いた。
「八百万の天災を身に宿し予言を終わらせる」
「テュルケットにとっての天災が俺だったんだ。」
リャーレは眉間に皺を寄せてグレースに問いかける様な顔をした。
「エルザードは俺にテュルケットの信仰を破壊して欲しかった。だから罠を敢えて調べればわかる物にして、この魔粒子の暴走を止めさせたかったんだ。テュルケットは民を守る神ではないと伝える為に。」
「テュルケットにとって、エルザードの苦しみも、アマルマの悲しみも、俺の前世の終わりも、ただの余興だったんだ。」
「世界の崩壊を楽しい遊びの仕上げにしたかったんだ。」
リャーレの首に手を回し、その真っ直ぐで美しい金糸の髪に顔を埋めてグレースは泣き続けた。
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