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東のガーライドナイト領
この手を離さない
しおりを挟む私が調和をする時マルスさんの言うような忍耐の極限に挑む、
そんな事したっけかな?よくわからないけど、一般的にはマルスさんの
やり方を神職者は使っているらしいし、正攻法はこれなんだろうな。
「マルスさん、本当にありがとう。これでサリザンドの権能を使わせてあげられるかもしれない。」
「それはようございました。都様のお力になれた事が何よりも嬉しい。また、なにかございましたらいつでもご相談ください。」
マルスさんの微笑んだ顔、悪感情は見えないな。何か吹っ切れた物が
あったのかな?そうなら良いけどね。これからの巡行でもみんなと上手
くやっていって欲しいし。よかった、よかった。さて、権能だけど。
サリザンドにやってもらう前に私も試してみようかな。
グレース?やってみていい?
――― 良いけどさ、黒出し過ぎないようにね?俺もしかしたら分離しちゃうかもしれないし!
おっと!そうだった!昨日の今日でやらかすところだったよ。
気を付けるよ!でも、私の体内では白作れないから黒…全部出すしか
なくないかい?グレースちゃんよ。
――― そう、なるのか。でも、俺との繋がり切らなきゃ大丈夫だろ?
多分…ね。
――― 勘弁しろよ。頼むぜ相棒。
「みんな、ちょっと動くのやめて」
都の声に、皆が振り向き歩みを止めた。都は集中して黒魔粒子を体の
外側に纏うように放出し、黒魔粒子を逃がさない為に外からの魔粒子
吸収を行い抑えつけた。極限まで放出したところで、意識が消えかけ
たが声が頭の中で響いた。
豊穣、祈祷、祝福、護国、祓い、浄火、調和、抱擁、神座、、、相克、
何、この意味分からない言葉、、まだ言葉続くの?苦しい!!
——— 何でも良い!どれか叫んで!
「そう、こく!」
都の言葉に魔粒子が反応する。
「うぉ!!マジか!?」
その言葉に都は目を見開いた。
え、嘘でしょ?分離させちゃったの、グレースを…。
「都?俺、今魔粒子で身体、、できてる、、のか?」
「うそ、やだ。やだ!なんで?」
魔粒子の依代じゃない、、俺の、身体?でも心臓も、魔粒子核も、
神核も無い。人間、、なのか?都に触れられるのか?この身体。
そっと手を伸ばし都の泣き出しそうな頬に触れた。
「グッグレースっ‼︎ 嫌だよ‼︎ 側に居るって言ったじゃない!」
「み、都っ、都!権能解いて!」
焦る二人は抱き合い互いを求めた。
都は周囲の魔粒子を吸い込みグレースを飲み込もうとしたが、それも
出来ずに分裂してしまった。
「嘘よ!嘘だよ!グレース!」
ビクトラと朱雀が慌ててグレースに近寄り手を取り都と交互に目を
やるが、表情の違いでしかどちらがどちらであるか判断出来ない。
「お前は、グレースだよな?」
「そうだよ。」
マルスが都に近づき抱きしめた。
「あぁ、良かった。グレース様と離れられて。本当に良かった。」
その言葉に都は目を見開き愕然としていた。
「お前、今なんて言った!」
グレースはマルスを掴み押し倒して馬乗りになり叫ぶ。
「分かってて都にやらせたのか⁉︎」
嘘、嘘だよ。マルスさん、そんな事ないでしょ?だって私が何を
言うかなんて分からなかったよね?
「どんな権能を使っても、魔粒子を全て放出すれば魂は抜ける。我々はそうやって神との交信をする。都様の神核にあるもう一つの魂、それが出ただけだ。」
声が遠のく。やめて、私からグレースを奪わないで。
グレース、私の半身。何も要らない、誰も要らない。グレースを
返して。
静かに意識を無くした都はサリザンドの腕の中で倒れた。
光の中で、何故ここが光の中なのかと考える。
影も何もない真っ白な世界。自身の体さえ見えない。
心が泣いている。叫んでいる。グレースを返せと。
神の愛子よ。泣かなくていい。
「だ、れ、、?」
我が名は……
「誰?名前、無いの?」
我が名は……
「忘れたの?」
我、、名は、、
「ならあげる。だから、グレースを返して。」
よか、、ろう。名をつけよ。
「私の、セカンドネーム、あげる、、」
「ラファエラ」
ラファエラ。我が名はラファエラ!
「ラファエラ、助けて、助けて、助けて!私のグレースを返して」
我は其方の力となり、今その有り様を理解した。
相克とは矛盾せし物を切り離し滅する力。我が力を以って今一度
其方の魂を合わせよう。しかし、力を使う時は相手を定めて行使せよ。
「私が適当に力をつかったから?」
そうだ。
弾き出された魂を完全に絶ったのは、其方の力。
愛しき者の手を決して離すな。
我に名を与えたこと感謝する。いつでも名を呼ぶとよい。
其方と繋がれた事、嬉しく思う。
目が覚めた時、我に触れよ。
「都!都!起きろ!死ぬな!」
「都様!目を覚まして下さい!グレースを一人にするな!」
「都、起きて!俺の恋人だろ!」
沢山の呼ぶ声が聞こえる。でも、身体が言う事を聞いてくれない。
ラファエラは手を離すなって言った。離さない。絶対に離さない。
「グレ、ス、グ、、、ス」
出し切った魔粒子は戻らず、ルーナとサリザンド、朱雀が神核に
指を入れ直接流し込む魔粒子で、なんとか腕だけを動かせた。
グレースは泣きながらその腕を掴んで都を抱きしめる。
「都、嫌だよ。死ぬなら一緒だろ?なぁ、目を開けろよ!」
「グレ、、ス、ラファ、、エ、ラ、たすけ、て、」
都がグレースの指を掴んだ瞬間光が二人を包み一つになった。
——— その手を二度と離すでないぞ。
柔らかで、幼さの残る少年の声が聞こえた。そして、その力は
都から離れていった。
グレース?どこにいるの?
——— 神核の中にいるよ?どうやって戻したんだ?
ラファエラが助けてくれた。奇跡が起こったんだ、これは奇跡だよ。
——— ラファエラ?都の名前じゃん。
グレースが離れた事に泣いていたら声をかけられた、名前が無いって
言うからあげたの。それに、私が無闇に権能使ったからグレースの
魂が切り離されたって。
——— そうか。でももう、マルスには近づくな。アイツは害悪だ。
何でこんな事。最期に話したい。マルスさんの気持ちが知りたい。
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