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東のガーライドナイト領
一体三身
しおりを挟む最期の使徒ラファエラの力によりグレースは都と身体を共有し、
神核の中に互いの人格を収めた。その神核の中に一冊の本が鎖で
繋がれている。その鎖は魔道具の楔を抜けぬ様に留めると共に
二人を縛るように絡み合っていて、二人を分けていたグレースが
男で都が女という感覚が薄くなっている事に気付いた。
「都、俺らはなんなんだろうな?」
「うん。そうだね。私、、いや、僕?いや、俺。俺っていうのがしっくりくるかな。なんだろう、この世界に定着した気がしているよ。受け入れはしてたけど、やっぱり異世界の人間って意識が強かったんだよね。今は前世との繋がりが確実に切れた気がする。女である自覚があったことさえおかしく思えるんだよね。」
「双葉のことは?以前の様な強い気持ちじゃないのか?」
「それは無いよ。あの子は俺の子だよ。あの子への想いは変わらない。もう前世の時の様な悲しい思いをさせたくない。俺がもう一度あの子の笑顔が見たいんだ。だから、八百万の神の願いは叶えるよ。」
「うん。俺達、一つになっちまうのかな?それも良いけど。」
「そうなのかな?俺はちょっと違う気がしてる。」
「どんな感覚?」
「俺がお前に寄っている。でも、魂はきっとそれぞれにあるんだ。だから、コインの表に俺も居るって感じかな?以前はコインの裏が俺だった。今は、俺も表でグレースも表。そんな感覚だ。」
「あぁ、それは俺も感じる。そうだな。しっくりくる」
「俺の気持ちでルーナやサリザンドをもう一度好きだって思えるかな?なんか、不安だよ。」
「あー。好みまで俺に寄ってたら朱雀やビクトラ、アガットとやりたくなるかもね。今夜確かめてみろよ。」
「分かんない。それってやっぱりこの世界が男しかいないからなのかな?」
「相手に惹かれるのに男も女も関係ないさ。好きだと思ったなら手に入れればいい。」
「あぁ、以前はそんな感情が不道徳な事に思えたのにな。それもそうだと思ってしまったよ。」
——— 主人よ。其方ら二人はこの世界で完全に受肉しこの世界で生まれた者として魂が定められた。故に過去は過去として終わりを迎えた。
——— この世界の理に違和感はなくなったであろう。
「ラファエラか?」
——— そうだ。其方らは表裏一体のようで既に一つの人格へと統合された。双方の意識も同時に表で思考する。故に考えも統合されるであろう。
「都か俺か、無くなるってことか?」
——— そうではない。我では魂は消せない。どちらが思案しても同じ結論を導き出すという事。其方らの言うコインの裏は我になった。
「なんだよ。多重人格に新たな人格が追加されちまったのか」
「悪いなグレース、俺が作った様なもんだ。」
「ハハッ!良いんだ。なんだか俺はコイツの事嫌いじゃない。」
——— 我は其方らをエルザードの予言とテュルケットの罠から護るのが役目。調和は始まった。残り三箇所の神殿の回復でこの世界の崩壊は止まる。後は自然の浄化に任せて良い。調和は始まったが、テュルケットの残した崩壊への布石は残っている。これを壊さねばこの身体が狙われる。詳しくはまた話そう。
「東の神殿跡の調査ってのはお前が居たからなんだな。流石八百万。」
「ラファエラ、俺達に付いて良かったのか?」
都は神核の予言書を撫で囁く。本来の役目を捨てさせた事に同情
していた。
——— 構わない。我は我の存在意義を探していた。我は消耗される為に産まれたのでは無いと思いたかったのだ。故に都には感謝している。
名を得て、我が存在する意味を理解した。我を存分に使うと良い。
「「ありがとう、ラファエラ。俺らは死ぬまで三人で一人だ。」」
——— ‼︎ 感謝、、、する。ありがとう、神々の愛子よ。
「都、俺さラファエラと話がしたいから、後の事任せてもいいか?」
「分かった。任された!」
「都!グレース様!早く帰ってきて!」
俺の都、なんでいつも俺をこんなに心配させるんだよ!
グレース様だったとしても良い、都が生きたこの身体失わせたり
しない!
ルーナはひたすらに魔粒子を神核に流し続けて祈った。
「マルス、お前のした事で都様までも消え、宵闇の神が失われた場合、俺達はお前を殺すが文句はないな?」
ビクトラはマルスの首筋に氷刀をあてがい壁に身体を押し付けた。
「構わないですよ。これは神では無い。悪魔に堕ちた邪神だ。」
「マルス、俺はお前に視野を広く持って欲しかっただけだ。」
その言葉に皆視線を都に移し駆け寄った。
「グレースか⁉︎無事だったんだな!驚かせやがって‼︎」
ビクトラは都に抱きつき顔を見たが、違和感に戸惑った。
「グ、グレースか?」
未だ力の入らぬ手でビクトラの頬をスルリと撫でた都は微笑み首を振った。
「違いますよ、ビクトラさん。俺は都だ。安心して?グレースはちゃんと生きてる。今はラファエラと話をしているだけだから。」
話し方や雰囲気の変わった都に、サリザンドとルーナは顔を見合わせ
都の顔を覗き込んだ。
「みや、、こ?本当の都なの?なんだか変わったよ?どうなったの?」
違う、都だけど、、都じゃない。可愛い都には変わりがないけれど、
細工物のガラスの様な儚さが無くなって、刃物の様な強さに変わった
気がする。何があったんだろう?
「ルーナ、ルーナ!あぁ、俺のルーナだ。良かった、変わらずに君を好きだと思える気持ちのままだ。サリー、俺を見てよ?生まれ変わった俺はサリーにとってまだ愛してもらえる存在かな?まだ、俺は二人を好きでいても良いのか?」
グレース様の様な話し方だが、グレース様では無い。あの屈服させたい
衝動を掻き立てる縋る様な甘さは消えたが、この瞳は未だ俺の征服欲求
を掻き立てる。都だ、彼はまだ俺の都だ。
「あぁ、ずっと都を求めてるさ。変わらずにね。都が俺から逃げたくても、逃さない。良く戻ってきたね、偉いよ。」
頬を撫で、神核に触れる指から魔粒子を流して伝えよう。
都を愛しているんだと。
「良かった。良かった、俺、二人に嫌われるかもしれないって怖かったんだ。グレースは心配無いって言ってるけど、怖かったんだ。何もかもが変わってしまって。」
良かった、嫌われなくて。私って言うのはなんだか恥ずかしくて、
俺って言っちゃったけど、大丈夫みたいで良かった。
「都様なのですか?グレース様ではなく?」
地べたに座り込んだマルスは愕然とした表情で都を見つめた。
「ここはね、エルザードが残したトラップ。予言書の中なんだよ。
鉱物みたいなのは、神域結界だ。じきにこの姿は消えて元の鉱山に
戻るだろうってラファエラが言ってる。とりあえず屋敷に戻ってから
話そう。皆、急いで出よう。」
調査に入った一同は、都を抱えて外に出た。そして、結果を待っていた
外で待機していた者達に説明をし、肩を落とすピッヒ達を引き連れて
その日はその場を後にした。
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