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神話編
短気は損気(1)
しおりを挟む都の単独行動の騒動から、都は神核に籠ってラファエラに魔粒子の
事や神力、調和や祝福などについて話を聞いていた。
ビクトラ達のお仕置き後、彼らに対して都は距離を置きだしたが、
グレースはそれが気に入らない。また、その事に気付かない三人には
尋常ではない怒りを覚えていた。
あの日のこいつらの怒りは理解できる。でも都に対して『好き』から
毛の生えた程度の『グレースと同じとはいかないが愛している』という
微妙な感情しかない癖に、何故都を抱いたのか?お仕置きならいくら
でもほかの方法があったろう。
グレースは白黒つかない答えが一番嫌いであった、その白黒
つかないのが自身の半身と恋人たちであるという事に短気をおこして
しまった。
ついに帝都戻る前日にその短気が爆発した。
きっかけは、都の獣人の子供たちと触れ合いたいという可愛い我儘
だったが、警護の問題あり却下されてしまった。
代わりにと領主の孫達とのお茶会が催されたのだが、子供たちの柔ら
かいモフモフを堪能したかった都は欲望丸出しの獣人しかいない
セクハラ満載のお茶会に疲れてしまい、ルーナとサリザンド、朱雀と
会いたいと言ったが彼らは調和後の領地調査の為不在で会えなかった。
ビクトラとアガットとリャーレはそんな都のストレスに気付かず戸外で
警備を行っている。ソレスを抱きしめ読書をするしかない都は、外を
眺めて思わず「三人は、部屋で俺とお茶もしてくれないんだな」そう
呟いてしまったから、さぁ大変。
グレースの溜まり溜まった怒りに火がついてしまった。
「都チェ―――――ンジ!」
——— おい!なんだよ急に。どうしたんだ?
「もーーーーー我慢の限界だ!」
「クソが――――――――――――――――――――――!!!!」
急に部屋から大声が聞こえ、慌てて警護の三人が部屋に押し入った。
「都様?どうなさったのですか?大丈夫ですか!」
リャーレが慌ててグレースの側により顔色を窺った。
「なぁ、もうちっとさ俺にベタベタする様に都を可愛がれないもんかね?」
その話し方にビクトラがグレースだと分かると、走り寄り抱きつき
キスを強請った。
「グレース、代わったのか?ならそう言えよ。三人でさ、楽しくやろうぜ」
グレースの怒りに気付かないビクトラはするりとグレースの服の中に
手を差し入れ胸や背中を撫でた。
「ヴィク、お座りだ。そういう所だって言ってんだろうがよ!」
「え?なんだよ。突然」
グレースの顔を覗き込んだビクトラはその表情に、逆らってはいけない
と本能に従いグレースから手を離した。
「お前ら、なんで都の話をちゃんと聞いてやらない。」
ズモモモモ。と黒魔粒子がグレースの背中からたなびき、オパールの
様な神力が粒となってキラキラ浮遊しながら、ローブの様にグレースを
包む黒魔粒子に纏わりついた。
その姿に喜びよりも恐怖を感じた三名は黙ってグレースの言葉に耳を
傾けた。
一つお仕置きするかと、ラファエラに教わった魔粒子での攻撃方法を
試そうとグレースは青と群青の魔粒子を集め、掌に纏わせた黒魔粒子で
合成した。すると、水と氷が絡み合い水の軌道が氷結しながら三人の
周囲を凍らせていく。
おぉ。凄いなこれ。確か、青が水、群青が氷だったか。魔粒子から属性
だけ取り出すの難しいなぁ。俺達魔粒子核持ってないから外から補うし
かないし、神力もなぁ集中力がいるんだよ。練習しなきゃな。
氷結に苦悶の表情を浮かべる三人を見つめながら都は力を解いた。
「なぁ?都も俺もさ、そんなに我儘言ってるか?外にでたいとか、あれが食いたい、これが欲しい、ああして欲しい、こうして欲しいって言ってるか?」
「いや、何を言っているんだグレース。俺達はそんな事思ってねーよ。そん位の我儘なら逆に言って欲しいもんだけどな。」
その言葉にグレースはイライラし始めた。
我儘言わせるだけで、叶えられないなら聞くなよ!ムカつくなぁこの野良猫。
「都は、あとどれ位拘束されてればいいんだ?」
アガットは何を言っているのかが分からず首を擦りながら聞いた。
「拘束だと?俺達が都様をか?何を馬鹿な事を言っている。そんなことする訳がないだろう」
「そうだぞ、都が外に出たいなら俺達が連れて行くし。」
リャーレはグレースがなぜ怒っているのかが分かり頭を抱えた。
「すみません、お寂しいのですね?都様は。この部屋にはソレスだけ、彼は今も鑑定眼での警戒を続け意識を都様に向けられない。だから、我々と居たかったのですか?」
「リャーレ、気付くのが遅い。俺がそんな気持ちになっていたら、速攻お前等は俺よりも早く気付くのにな?」
三人は面目無さ気に頭を下げた。
「悪かった!都、出てきてくれないか?話がしたい!」
ビクトラがグレースの目を見て都に話しかけたが、グレースはビクトラ
の言葉を結界で防いで神核には届けさせなかった。
「出さねーよ。なんの話があるって言うんだ?」
「いや、だからさ。寂しいなら表に出てきてさ、俺らとグレースの5人でさ、お茶でもしようかと。なら寂しくないだろ?そーならそうと言ってくれりゃ良いのに!相変わらず都は恥ずかしがり屋だな?ちょーっと卑屈すぎるぜ!お前みたいにズバズバ言う男の方が俺は好みだがな!」
グレースはチャッカマン。
些細な言葉尻に簡単に火がともる、その事を忘れていたビクトラは
ルンルンとお茶を適当に入れ始めた。そんなビクトラにリャーレと
アガットは目を瞑り背を向け合掌するしかなかった。
ラファエラ直伝、喰らえ【炎鎖】!!!
赤と黄と黒魔粒子の凶悪属性コンボがビクトラを襲う。
炎の鎖はビクトラの身体を縛り上げて燃やしていく。燃えた側から黒魔
粒子が回復させてまた燃やす、その地獄で受ける拷問の様な責めに
ビクトラは咆哮し悶えた。
「グレース!やめろグレース!なんだよ、お茶をしようと言っただけだろ!」
ブスブスと丸焦げになったビクトラは、煙を吐きながらグレースの
胸ぐらをつかんで持ち上げた。
「あ?誰が茶ぁーなんか飲みてぇって言ったんだ。この野良猫がっ!都が卑屈だと?都のはな、卑屈じゃねぇ!思慮深いって言うんだよこの脳筋が!」
ブワリと熱風が部屋に充満して、リャーレとアガットも流石に息が苦し
くなり止めに入ってきた。
「グレース!分かった、分かったから!俺達が悪かったからその辺で許してくれ!都様も俺達とグレースの姿を見るのはお辛いという事は分かった!分かったからやめるんだ!」
アガットの『俺達が悪いと言えば満足なんだろう?』そんな心を読んだ
グレースは目を瞑り考えた。
俺が悪いのか?都を愛せと言った事がそんなに苦痛だったのか?
ならなんでこいつらは都を抱いたんだ?こいつらと都なら俺は当然
都を選ぶんだが、なんなんだろうか、こいつらの都よりも俺達を取る
だろうといった自信。
「そうだな、俺が馬鹿だったわ。いや、お前達は悪くなかった。抱ければ誰でもよかったんだ、お前たちは。」
「だってそうだろ?なんで都を抱けるんだ?そんな中途半端でさ。この前お前等は都も受け入れたって言ったじゃないか。それに、俺は全力でお前達を好きだし、抱かれたい。」
「俺は左手、都は右手。左は愛せて右は愛せない。でも抱ける理由ってなんだ?」
「ルーナやサリザンドの方がよっぽど誠意があるよ。俺には絶対手を出さない。俺を愛していないからだ。はっきりしてる、俺はそんなあいつ等が好きだ。都を任せられるからな。でも、お前等は何なんだ?俺が都を大切にしてるから仕方なく都を抱くのか?ならやめてくれよ。もう俺に触れないでくれ。」
純粋な疑問をぶつけられたビクトラ達もこの質問には困った。
焦りから頓珍漢な答えしか出せずにビクトラはグレースを抱きしめた。
アガットもリャーレもしどろもどろになりながら慌てて答えを探して
いる。
「いや、グレース。俺達だってな、男に変わっても変わらなくても都を大切に思っているんだ。だから、寂しいなら寂しいって言って良いんだよ!そんなに俺達が信用できないのか?都は。」
「そうだっ!グレース。我々もあの日、都様との繋がりを辿って街や鉱山、屋敷内をくまなく探したがその姿を見つける事が出来なかった。その時の我々の恐怖を想像できるか?だから、甘えられる方がまだ嬉しいんだよ!そうすぐに閉じこもられると俺達だってどう接すれば良いか分からないじゃないか!」
「ゲホゲホッ!グレース様、それは…分かっていますとも。この前は、やり過ぎたかもしれません!しかし一人で出るとだけ言い残して供を付ける間もなく出歩かれれば何かあっても私達がお守り出来ないではないですか。お一人になられたかったのであればそう仰って頂ければ場所をきちんとご用意いたしましたよ?」
「だから、都は素直に打ち明けただろ。お前等が好きだって、俺を愛する様に愛して欲しいって。その時のアガットやリャーレの答えは嘘だったのか?」
こいつらの大切ってさ、軽くないか?それによそよそしいんだよなぁ。
アガットなんて朝起きて都だったら挨拶だけして出ていくし、
ビクトラは表に出ているのが都だと分かったら、あの日以来抱こうとし
なかったしな。リャーレもなぁ、なんだかんだで俺に義理立てしてんの
か知らないけれどもキス止まりだしな。はぁ、本当に大国主命の言う
通りだよ。朱雀が如何に優秀で、可愛い小鳥なのかが身に染みるよ。
このグレースの短気により、都と別れる事になるとは誰もまだ知る由も
無かった。
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