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閑話
名探偵S サリザンドのSはSWEETのS
しおりを挟む元伯爵邸の二階からホールを見下ろしサリザンドは考える、呪法の
選択が余りにも矛盾している。
「殺したいのか、蘇らせたいのか…どちらだ?」
足元でゴロゴロ転がり鎖に絡まるルキフェルを冷めた目で
サリザンドは見下ろした。
「ルキフェル、自由が欲しいなら暴れるな、無駄口を聞くな、働け。分かったか?」
フルボッコされて顔中をパンパンに腫らしたルキフェルは涙目で
頷いた。
「この屋敷で呪法を使った術者を冥界で探してこい。そして理由を聞いてこい。できるな?」
無言の縛りを解除されたルキフェルは、舌打ちすると冥界へと
消えていった。
「サリザンドさん?」
屋敷の戸口から都はひょこっと顔を出し、中を見渡しサリザンドを
探した。
な、何で都がここに!いくら都でもこの呪法の残滓に触れたら穢れに
呑まれる。何で来たんだ?
戸口に立つ都の姿にサリザンドは慌てて駆け降り外に連れ出した。
「何故ここに!?」
「え?サリザンドさんがここで待ち合わせようって言ったんじゃ
ない。」
「え?」
「さっき書庫で…その…話があるって」
都は周囲の雰囲気に恐怖を感じながら、サリザンドの袖口をキュッと
掴んで屋敷の中を覗き込んだ。
「いや、俺はずっとこの屋敷の調査を…」
「いや、いい。ここは危ないから、部屋に帰ろう。送るから」
スレイブか!あいつ、余計な事をしてくれた!くそ。戻ったら覚えて
いろよ。
「おかしいよね?何でサリザンドさんが二人もいるの?」
部屋で寛ぐサリザンド姿のスレイブと、仁王立ちするサリザンドに
都は目を白黒させている。
「こいつは使い魔だ、スレイブ…どういう事だ」
こいつ、絶対都の魔粒子欲しさに都に声掛けたな…
後でマジ半殺しにしてやる。
「まだ、汚染除去完了していないだろ。貴様、また苦しみたいみたいだな角を折るぞ」
「都ちゃんの力が要るんだよ」
スルリと尻尾を伸ばし都を引き寄せると、やれやれとスレイブは都を
抱きかかえため息を吐いた。
「ダントも悪魔の吐息の呪法に触れてる」
「どういう事だ?」
「ダントが冥界から元恋人を蘇らせようとして失敗し、悪魔か、魔物か、怨念か…何かを呼び出した。呼び出された者が何かは分からんが、悪魔の吐息を使ってダントを殺そうとした。」
「ダント様は無事…という事は他に誰があの場に居た?」
「さぁな?伯爵か、魔道隊員か、ダントに力を貸した者だろうな」
「ルキフェル!戻ってこい」
サリザンドの影から現れた不機嫌なルキフェルが、ポンと何かの塊を
投げた。
「こいつはマキシム。あの屋敷で術を使ってまた冥界に落ちた魂だ。」
「話は聞けるか?」
ルキフェルは魂を人形に変え、また影に消えた。
「なんだ、あいつスレイブより扱い易いなあいつ。」
サリザンドは硬直して動けない都を抱き上げると、腕に抱えたまま
人形の魂に話しかけた。
「さて、お前はどこの家の者だ?」
「俺は…セルギル伯爵家…にいた。俺は何故ここに…」
「お前、セルギル伯爵の元邸宅で呪法を使用した事は覚えているか?」
温厚そうな垂れ目の男は急にクワっと目を開くと「ダント‼︎」と叫び
禍々しい気を放った。咄嗟にサリザンドは保護結界を張ったが漏れた気
が都とスレイブを覆う。
「都‼︎」
「都ちゃん、ここどこだかわかる?」
暗闇に様々な憎しみに塗れた光景がスライドショーの様に次々に
現れては消えてゆく。
「いえ、それより貴方は?」
「俺?俺はスレイブ。あの悪魔より悪魔なサリザンドに物質取られててさ、お仕事手伝ってんのよ」
「そう、なんですか」
悪魔に悪霊って言われてるよ…サリザンドさん。何したら悪魔から物質
取れるんだろ。怖いわー…。
「ここはマキシムって男の怨念の記憶だな」
「怨念?」
「そ。惚れた男を掻っ攫われた挙句、戦争で親友殺されて伯爵に殺されたみたいだな」
「そんな…踏んだり蹴ったりな」
「そ、拗れちまったな。だから浄化してやってくんねぇか?」
「…想いを告げたくは無いのでしょうか」
「ただあの男を呪い殺す執念しか残ってない」
「せめてさ、想い人がこいつをまだ思っている内に綺麗に逝かせてやってくれよ」
「まだ、想われているんですね」
「あぁ。こいつが現れたのは元恋人が呼んだからだ。でも間違った陣のせいで怨念だけが出てきちまった。」
「どう…すれば?」
「その手で触れてやってくれ」
都は黒くなったその塊に触れ願う。
次は愛する人と共に歩める人生が得られる様に、と。
都の身体から溢れる七色の光は怨念を包み呑み込んでゆく。全てが
光に呑み込まれた時、何かに掴まれる様に現実に引き戻された。
「都‼︎」
サリザンドに抱きしめられ目覚めた都は、ほっとした。
「何でだろう、凄く寂しくて。悲しくて…サリザンドさん」
「なんだ⁉︎苦しいのか?」
身体をあれこれ調べるサリザンドの慌てている顔に、都は言い表せない
想いが込み上げてくる。
「違うの。サリザンドさんが…生きてて、私もここに居る。沢山触れて欲しくて、触れたくて…もうそれも出来ない彼の悲しさが、切なくて」
サリザンドの首に顔を埋め都は更にぎゅっと抱きしめた。
「…あぁ。俺はここにいるから、大丈夫だ。して欲しい事は?」
「甘やかして」
「ははっ!珍しい。都がそんな甘え方をするなんて」
「何でかな?彼がそうして欲しかったのか、そうしてあげたかったのかな…サリザンドにくっついていたい」
「スレイブ、ダント様の様子を見てこい」
「へーへー。二時間は時間作ってやる、見返りを期待しとくぜ」
「三時間だ。行け」
舌打ちしながらスレイブは影に潜んでダントの元へ向かった。
「さぁ、どうして欲しい?」
「キスして、撫でて」
サリザンドは涙を溜めて、微かに震える都を抱き上げベットに腰を
下ろすと、優しく下唇に触れ食む様にキスをする。
頬を撫で頭を抱え込み、顔中にキスをして涙を舐めとった。
「予言の所為?彼があんなに苦しんだのは…」
「そうだな、予言の所為でもあり本人の所為だ」
胸の魔道具を苦し気に眺めるサリザンド都は宥める様にサリザンドの
耳元で囁いた。
「これはこのままで良いや。解除出来てたら…多分こんな風にはなれなかったから。私は…これが外れなくてもいい」
サリザンドの頭をクシャクシャと撫で回し、ニコリと微笑む都にサリザ
ンドは深いキスをした。
「今日は都に従おう、どこに触れて欲しい?」
「ふふふ、嫌だよ。サリザンドさんの方が私の事知ってるから、何言っても嘘にされちゃう」
その言葉にサリザンドは破顔し二人は笑い合った。
俺達は身体を重ねても、互いに心を預け合う事は出来なかった。
俺もまだ全てを受け入れていなかったし、都も越えられない心の壁が
あったんだろう。けれど、都から踏み込んで来てくれた…。
それが嬉しい。心を許す甘い感覚に溺れそうだ。
「都、おいで。今日は腕の中から離さずいよう、だから欲しい物を教えてくれ。全部、全部都にあげるから…ここにいろ」
サリザンドの見た事の無い陽だまりの様な笑顔に、都は思わず赤面し
その甘さに飛び込んだ。
「私はあげれる物があるかな?」
「……都がくれるならなんでも構わない」
都はサイドテーブルの引き出しの中からハサミを出すと、自身の髪を
一房切り、サリザンドの襟足の髪を一房切ると結んで黄と赤紫の魔粒子
で混ぜ合わせた。
「それは?」
「組紐。悪魔でも、怨霊でも…サリザンドを私が、私をサリザンドが守る約束で、縛り…離さないでね」
手渡された金赤の長い組紐にサリザンドは口付けすると、それを都の
手首に結び、残りを自身の首に巻きつけ魂縛の呪法を掛けた。
組紐は身体に溶け込み消え、サリザンドの魂を縛り都の神核と繋
がった。
「俺が死んでも、魂は都の物だ。ずっと側にいる」
「俺もまさか、誰かを奪い尽くしたい程求める日が来るなんて…思わなかったけど…」
サリザンドの言葉に思わず笑った都と、少し恥ずかし気なサリザンドは
抱き合い戯れあって、愛し合い、浅い眠りについた。
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