神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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閑話

大福が食べたい時がある

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 それは突然に訪れた。

誰しも経験したことがあるであろう、甘いものが食べたいと言う欲求。

「あ…大福食べたい」

都は神核で眠っていたはずであったが、突然その欲求に襲われた。

「あ、モチモチで甘塩っぱいあれがたべたい」

ビクトラと睦み合っていたグレースを押し退け都が現れてしまい、

ビクトラは目を瞬かせた。

「グレース?」

都は四つん這いで背後のビクトラを見上げた。

揺れる白銀の髪の影に、瑠璃色の瞳が月に照らされ困惑の表情を映し

出す。

「あ…ごめん」

たまにある突発的交代にも慣れてきて、都はグレースの振りをした。

「悪い、ちょっと…気分が悪いんだ…」

スルリと褥から抜け出すと、都はガウンを羽織って部屋を飛び出した。

ビクトラも慌てて後を追ったが、既に都の姿はそこに無かった。

「グレース…?」





 深夜の厨房には、夜間勤務の調理師達が翌日の料理の下拵えを行

なっており、突然の都の訪問に慌てている。

「グレース様、こんな夜更けに如何されたのですか?」

「…ごめん。厨房貸してくれない?」

「え?あ、はい…こちらをどうぞ」

厨房の端にある菓子作り用の台を都は借りて、ニニギに貰った材料を

広げ出した。

「あぁ…素敵…小豆缶」

都は餅米の代わりに切餅を茹で、小豆を温め塩をまぶし餅に包み、

小麦粉をふってパクパクと食べ出した。

「遠い…遠いけれど、満足。」

思っている塩豆大福とは遠い出来栄えであったが、腹の求める欲求は

満たせる物であった様で、結局都は四つも平らげると台を片付けて

厨房を後にした。

「あ、残り良かったらお腹の空いた方、食べてください。お邪魔しました」

都は半覚醒のまま、厨房を後にしてふらふらと歩いて自室に戻った。

——— 都、どうしたんだよ…俺折角ビクトラとヤってたのに

「ごめん…どうしても抗えなかった」

——— ん?何に

「塩豆大福」

——— さっきのか?

「そう。モチモチでフワフワで餡子が最強。生クリームもあればもっと私好みだったんだけど…」

——— お、おう。…大丈夫か?

「何が?」

———  いや、なんつーか…都らしくねーなと思って

「私らしい?」

——— 都はさ、欲求があってもそれに従う事ってないだろ?だから不思議

「あぁ……。和菓子への欲求はね、止められない。私、ババアリーチ入ってたから、洋菓子より和菓子と緑茶が欲しくなるのよ」

——— ばっ、、ババアリーチ…なんだよそれ

「なんだろうね?麦茶や緑茶にどら焼きとか…黒糖饅頭とか…金つばとか、蕎麦ボーロとか…凄く食べたくなるのよ」

——— あー…俺には食に対する欲求はねーからな…都に残ったか

「うん…胡麻鯖茶漬け…豚骨ラーメン…豚骨…焼きラーメン…水炊きラーメン…焼きカレー…市民プールでリアカー売りされてたモナカで挟んだわらび餅…はぅ…うぅぅ…止まらない…どうしよう」

——— お、おい…大丈夫かよ?

「…だめかもしれない…あぁ…厨房へ戻らなきゃ」

——— おっおい!都っ!

走り出した都は、曲がり角でガットとぶつかり尻餅をついた。

「グレース様!申し訳ありませんっ。お怪我はございませんか?」

「ガット…さ、ん?」

下着の上にはローブだけという姿で、涙目のグレースにガットは

赤面しながら腕を取り引っ張り起こした。

「如何されたのですか?こんな夜更けに…」

「ガットさん…ガットさん…もう、我慢出来ない。助けて」

「ッ!!!グレース様⁉︎」

ヨロヨロと壁にもたれ掛かり、両手で顔を覆う都にガットは困惑してい

る。オロオロと都の顔を覗き込むガットは、その大きな体を縮め膝を

着いた。

「もしかして…都様でらっしゃいますか?」

「うん…そう。良くわかったね」

ハハッ、とガットは笑い頭を掻いた。ガットは猿人族の獣人だか、

体格が良く欲望を含まないその笑顔は、爽やかラガーマンみたいだなと

都は思った。

「して、何にお悩みで?」

「ふぐっっうっっ…甘いお菓子や美味しいご飯が食べたい」

眠気の我慢が限界に達し、グズり出した子供の様な都をガットは

「失礼致します」と言うと抱き上げ、背中をトントンと叩きながら

廊下を歩き出した。

「…うっ…うっ…甘いもの食べないと…」

「都様、お寂しいのですね?」

「…?」

ガットの肩に頭を乗せて、その優しい顔の好青年に都は不思議そうに

答えた。

「誰が?私が?」

「えぇ、都様が、です」

「寂しい?なんでそう思うの?」

「甘い物を欲する時は、身体や心が疲弊している証拠です。何かあったのですか?」

「何も…だって神核で寝てただけだし…何もないよ」

「そう、ですか。ですが、今は少し落ち着かれた様に見えますが」

高い体温のガットから伝わる熱に、都はうつらうつらとし始めた。

「うん。甘いの沢山食べたから…お腹いっぱい…ガットさん、ありがとう、ごめんね」

ガットが横目で都をみると、涙を薄ら目尻に溜めて眠っていた。



















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