113 / 200
神話編
脱兎
しおりを挟むヤルダとの邂逅から、ジジは城門近くの物陰に隠れて認識阻害結界の
中にいるソレスとグレースのコピーをどうやって回収するかを考えてい
た。時間を置いて回収しに行くか、一騒動起こして近くにいる隊員を
誘き寄せ、目が逸れている間に回収するか、どちらにせよ来た道を
戻ることとなり危険度が上がる。ジジは自身に認識阻害結界を張ると
壁伝いにゆっくりと進む。
ちょうどヤルダを見送った角まで来て、通りを確認するとソレス達が
いる木の根元付近にある排水溝がガタガタと動いた。
サッと隠れたジジは目を凝らし、何が起きるのかを見ていた。
ピョコン
真っ白な兎の耳が排水溝から飛び出し、次にヒクヒクと鼻が出て匂いを
嗅ぎ分けている。耳は周囲の音を探るように動きだし、ピンクの瞳が
そっと警戒する様に現れた。
ジジは、敵か味方か分からなかったがその様子から内部から抜け出して
きたのだろうと察して、捕縛の呪法で兎を縛り上げると認識阻害結界で
囲った。
「‼︎」
ジジは耳を掴んでもち上げると、声を落として問いかける。
「お前、隊員か?何故抜け出した。ヤルダの部下か?」
「…お前こそ誰だ?俺は急いでいるんだ…離せ‼︎」
暴れる兎の首には24色の魔粒子がオーロラの様に煌めくペンダントが
二重巻きに付けられていて、その魔粒子を見たジジは顔を近付けた。
「お前…都の者か?」
その言葉に兎はジジを見上げ、手をバタつかせる。
「お前…今、都と言ったか?」
「あぁ、俺は都を皇城に居る本体に戻すために探りに来た」
「あいつの依代は俺が消してしまったから、今仮の身体に魂を入れているが、本体に戻すにはポータルを敷かなきゃならない。入り口を探っていたら城の内部からお前が出てきた…中に入れる道を教えろ」
「都は生きているのか?」
「あぁ。四聖獣の宿った身体とソレスはそこにいる。都は俺の家に隠れている」
「都が…生きてる、生きてるんだな?」
兎はポロポロと涙を零す兎を地面に下ろすと、着いてこいとジジは
ソレスとグレースのコピーを抱き上げ踵を返した。
「ここなら大丈夫か」
城の東門に程近い廃墟となった建物に入り込んだジジは、認識阻害の
結界や呪法を解いて姿を現した。
「初めましてかな、俺は西のモルトゥーレの隠し村で薬師やらなんやらをしているジジだ。お前は?」
「…、俺はルーナだ。特務所属の医務官ルーナ。都は俺の恋人だ…都は生きているんだな?結界が戻ったって聞いて…せめて何か…残っていればって…西に向かうつもりだったんだ」
ジジはソレスに気付け薬を嗅がせながら笑い出した。
「ハハッ!そうか。あいつに恋人がいたんだな、大分箱入りだと思ったが」
ルーナはソレスに近づくと、魔粒子を探り状態確認をする。
「ソレスはどうしたんだよ…なんでこんなに魔粒子の属性が活性化されてる」
「あぁ、都の魅了に当てられた」
「魅了?都にそんな権能はなかったはず…加護か?」
ジジはここまでの経緯を話し、何とかしてグレースの本体の場所まで
行きたい事を伝えた。
「分かった。言いたい事は山程あるけど、後にするよ。今グレース様は教会に居るが、そこに転移するのは危険だから俺の部屋に都を転移させてくれ。で、あんたらは怪しまれない様に総局長の指示ポイントに行ってくれ。これが座標だよ」
ルーナは医療道具の中から包帯を出すと、座標を刻みジジに渡した。
「良いだろう、だが都の魅了の力は生半可な制約や呪法では防げない。
急に転移するとお前も、周囲も危ないぞ。キツめの制約でも構わないなら俺がしてやるがどうする?」
「…俺は既に都に魅了されてるから、要らない。もう、大分狂ってるからね。」
ルーナの、さも当然とばかりの態度にジジは可愛い孫を見る様な眼差し
を向けた。
「そうか、しかしな…あれは強すぎる。四聖獣ですらコレだ。せめてこの呪法は付けておけ」
ジジは陣をルーナの胸元に描くと古代呪法を掛けた。
「これは?」
「魅了の呪法だ。都の物の力と比べると雲泥の差だが、反発しあって影響も少ない筈だ。意識は保てるだろう」
「…そうなると俺…他の奴等に言い寄られたりすんの?」
「………さぁ、一度出直しだ。家に戻って都を迎えに行くぞ」
「おい!俺、大丈夫なんだよね?都以外に言い寄られたくないんだけど!ねぇっ‼︎」
ルーナが問い詰めるも、さっさと簡易ポータルに入り込んだジジは
合掌し姿を消した。
「嘘だろ?」
ブツブツと文句を言いながらも簡易ポータルに入り込み、ルーナは自身
の中から溢れる喜びに涙した。
都に会える…無事、なんだよね?
良かった、良かった…都が生きていてくれるだけで、俺は幸せだ。
0
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
BLゲームの脇役に転生したはずなのに
れい
BL
腐男子である牧野ひろは、ある日コンビニ帰りの事故で命を落としてしまう。
しかし次に目を覚ますと――そこは、生前夢中になっていた学園BLゲームの世界。
転生した先は、主人公の“最初の友達”として登場する脇役キャラ・アリエス。
恋愛の当事者ではなく安全圏のはず……だったのに、なぜか攻略対象たちの視線は主人公ではなく自分に向かっていて――。
脇役であるはずの彼が、気づけば物語の中心に巻き込まれていく。
これは、予定外の転生から始まる波乱万丈な学園生活の物語。
⸻
脇役くん総受け作品。
地雷の方はご注意ください。
随時更新中。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる