神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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最終章

記憶が作る姿(1)

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 もし、目の前にある光景が幻であったとして、俺達はそれでも構わな

いと思った。例えば今、都に良く似た誰かが目の前に現れて、俺達に

微笑みを向けたなら、きっと過去なんか忘れてその誰かを愛して

しまうだろう。それ程、俺達は都を求め続けている。

何故、彼で無くてはならないのか…そんな事を考えもしたが、そこに

意味は無かった。ただ、彼に心を預けた時の幸せに満ちた記憶が忘れ

られ無かった。そう、俺達はあの双黒の美しい光に恋をした…ただその

記憶に縋って生きている。

だから…甘い声で俺の名を呼ぶ憎らしい姿形の男を目の前にして、どう

して奴が都だと思えるだろう?でも、間違い無く都なのだと思った。


皆、都のあのふわりと甘い笑顔を見て、わっと声を上げて取り囲む様に

近づいた。喜びで皆思わず獣体が出ている事にも気付かぬ程、興奮して

いる。しかし、その姿は紛れもなくマルスであって奇妙な緊張感も

そこにはあった。


「「都⁉︎」」

「サリー!ルーナ!朱雀さんにソレスも!あぁ……グレース…」


光の中で、都の記憶を宿したマルスが腕を伸ばしてグレースを求めた。


「グレース…グレース!俺の半身!」

「都…都なのか?」


アガットは腕の中でもがくカムイをそっと下ろし、骨の浮き出た背を

押した。


「都なんだ…お前の都だ…カムイ」


カムイが振り返ると、見上げたそこには穏やかな笑みで彼を見つめる

3人がいた。


「うん…うんっ…」


都は裸のまま、細く皺くちゃになったカムイを抱きしめ頬擦り

しながら涙を流した。


「グレース!あぁ、俺のグレース!」

「都っ都ぉ!何で…俺を置いて行ったんだよぉ!俺…お前が居なくなって…辛くてっ…辛くて!何度も死のうと思ったんだぞ!」

「うん…ごめん。ごめんな…俺はここに居たよ…ずっと皆んなをマルスの目から見ていたよ…」

「うぇっうぇぇ!やっぱりぃ…都がいないと俺っ!俺ぇ!」

「うん、うん。グレース、辛い思いさせてごめん」


都は、グレースの頬にペタリとへばり付いたごわごわの髪をそっと

掬うと耳に掛けて頬を両手で包み込んだ。


「グレースは俺なんだ」

「…うん」

「グレース、俺はここに居るけど…ここには居ない」

「あぁ!でも!大国主がお前の魂がもう直ぐこの世界に戻るって!」


その言葉に、都はグレースの身体から離れると目を伏せ呟いた。


「…それは…もう…俺じゃないよ」

「何…言ってるんだよ…魂が戻ればまた昔みたい一緒に居られる!」

「俺の魂は壊れて消えたんだ…もし…転生していたとしても…そこで新しい人生を生きてる」

「でもっ…お前の魂は…お前の物だろ⁉︎」


その言葉に、都はゆっくりと首を横に振ると天井の太陽と月サンルナサークル

見上げた。



グレース、君は納得しないだろうけど、俺の魂が新しい人生を

送っているなら…魂に新しい記憶が刻まれた時点で、もう俺の魂では

無いんだ。

俺は死んだ。そう、死んでいるんだ。

みんな…俺は…新たな人生を生きる新たな命を、俺の我儘で

奪いたくは無いよ。


「都?」

「うん…グレース…俺の魂がさ…新たな生を生きてるとしたら、俺の様に…誰かと恋をしたり…家族と過ごしたりして…きっとその人の人生を歩んでるはずなんだ。それを奪う事は、俺にはできないよ」


「都!ふざけるな…俺達は…俺達は…ずっとお前を取り戻す為だけにここまで来たんだ…なのに…お前は!またっ…俺達を捨てるつもりなのか⁉︎」


サリザンドは、太腿を拳で殴り、全身から絞り出す様に声を荒げ

グレースからその身体を引き離すと殴りつけた。



「「サリザンド‼︎」」

「痛っ‼︎サリー⁉︎殴るなよ‼︎」

「ふざけるな!殴っても殴っても…殴り足りないっ!」

「サリー…」

「その顔でサリーだなんて呼ぶな!」

「…マルスは悪くないだろ?彼は…俺の記憶を起こしてくれたんだ。今だって…魂を貸してくれている」

「だったら!俺でも、ルーナでも良かっただろ?」

「…赦したかったんだ」

「え?」

「マルスの魂はずっと赦しを求めていて…魂を…俺に投げ出したんだ…全てを捧げると…心や意識を空っぽにして…俺に差し出した。それに、あの時記憶を残せるのは彼の魂の中しか無かった」


ルーナはサリザンドの肩を押し退け都の前に立つと、上着を脱いで都の

肩に掛け涙を堪えつつ笑って名を呼んだ。


「都…ねぇ都、俺達をさ…今でも愛してる?」


ルーナは殴られ赤くなった頬に手を当て、今にも泣きそうな

マルスの瞳の中に都を探した。


「当たり前じゃないか…俺だって…身体があれば…皆んなを抱きしめたいさ…でもさ…もう俺には魂も身体も無いんだ…ずっとマルスの魂を押さえ付ける訳にもいかない…」

「もし…新しく身体を得られたら…側に居て離れないって約束してよ」

「…そんな事が可能なら…約束なんか無くてもずっと側にいて離れないよ…でも…どうやってマルスの魂から離れるのかも分からない」

「俺達はさ、この10年で沢山研究したんだ…都を取り戻す方法を」

「…」


都はルーナの目を見つめた後、朱雀やソレス、ビクトラにアガット、

リャーレを一人一人見て首を激しく振った。


「俺も…帰りたい…グレースの中に帰りたい!皆んなの側に…帰りたい。でもっ…」


ルーナはマルスの身体を抱き寄せ、震える背を撫でた。

そして『分かってる』と言い続け、都を宥めている。

しかし、納得出来ないサリザンドは、都に背を向けると

『グレース神に会ってくる』と言って禊の間を後にした。


残された者達はいっその事、このまま都の記憶さえあれば良いと

サリザンドを追う事はしなかった。















































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