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37. 黒き獅子登場②

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「いや、全く何もできないわけではない」

 キールが発した言葉は今まで言っていた言葉と真逆のものだった。だったら最初からそれを言ってくれ、と思ったが、協力していただく立場であるのでぐっとこらえる。

「教えてください。なんでもします」

 トーマスは覚悟を決めた。

「いや、お前にできることはない」

「は?」

「お前ではなく、そこの使用人二人にやってもらいたいことがある」

 今までずっと黙っていた二人は急に話しを振られ、非常に驚いた。が、自分たちにできることがあるのならばと絶望の目からやる気のある目に変わった。

「「なんでも仰ってください、黒獅子様」」

 なんだってやってやる。呪いを解くまたとないチャンス。国のトップ2が揃っているのだ。これで解呪できなければ、もう2度と解呪できないだろうことを2人は察した。

「じゃあ、聞くがこの呪いはなんだ?」

「は?」

 予想だにしていなかった言葉にトーマスが反応してしまう。

「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!!」

 思わず、怒鳴ってしまうトーマス。そんなトーマスに怒るわけでもなく、淡々と説明するキール。

「まあ聞け。呪いとは《欲》だ。こうなって欲しいと思って相手に呪いをかけるわけだ。もちろん魔術量やコントロール、高い技術も必要だが……何よりも一番大事なのはその思いの強さだ」

「じゃあ、呪いをかけることができる人間は結構いるってことですか?」

「いや、そもそも高度な魔術を操れる人間なんてこの世には少ししかいないだろう。それに人間何かしら迷いがあったりするものだろ。誰かに復讐したい……でも、バレたときに家族はどうなる?。バレてもかまわない……でも、関係ない人も巻き込むかもしれない。呪いをかけようとしたときに目的とする以外のことが頭をよぎれば呪いは弱いものになったり、そもそも発動しない。これだけの規模の呪いだ。かなり強い思いで発動したのだろう。だから、なぜ呪いをかけたのかわかれば、それを解消、もしくはその気持ちを和らげることができれば、打ち消すことはできなくても弱めることはできるかと思ったんだが。弱まればヒルデと俺でなんとかできなくもない……と思う」

「最後の方、少し不安なんですが……」

 キールの言葉の最後の方が自信なさげだったので、不安になってくる。

「だが、言葉とか思いというのは結構重要なんだぞ。例えば勉強が苦手な子供に母親ができそこない等、マイナスな発言をしたときに、子供は劣等感を強く持つし、自分に自信がなくなったり、自分なんかと思うようになったりすることがあるだろ。それだって、自分はできないやつだっていう思い込みからだろ。それだって、呪いっていえるんじゃないのか?母親の言葉によって自分にかけてしまった呪い。でもそんな呪い……暗示を誰かの言葉によって解かれたりすることあるだろ。それから自信持てるようになったり」

 あってるようなあってないような……あんまりピンとこないトーマス。だが……

「まあ、思いが大事ってところはわかりますよ」

 病は気からと言うが、脳筋のトーマスは色々気合で乗り切ってしまうところがある。なので、思いが大事というところはまあわからないでもない。

「とりあえず!この呪いの原因を話すんだ、そこの二人!」

 またもや話しを急に振られてキョトンとするアイルとミランダ。少々納得いかない部分もあるが、とりあえずできることはそれだけなのだから、やってみるしかない。二人の方に視線を向ける。だが、その視線の先にいる二人は困惑しているようだった。

「……あの~……申し訳ありませんが私達が知っていることは何やら呪いにかかっていて、坊ちゃまが連れて行かれるということだけなのですが……」

「なんだと!?」

 思わず大きな声を出してしまうトーマス。いや、なんか知ってる感出してただろう、と理不尽な怒りが出そうで耐える。キールが冷静に尋ねる。

「先代男爵から詳しい話しは聞いていないのか?」

「……はい。先代は詳しいことをしれば何かしら巻き込まれるかもしれないから教えられない、呪いを解けるものを必ず探し出すからそれまで、坊ちゃまの側にいてくれ、と言われただけなのです……」

 二人は自分たちが役に立てないことに恐縮しているようだった。別に二人は悪くないのだが、トーマスとキールの目つきが少々悪かった。

「参ったな……」

 そうなってくると、お手上げ状態だ。キールの実力では、これだけの強力な呪いをどうこうすることは無理だ。だが、弱められればなんとかなると思ったんだが、呪いに対する強い思いを弱める以外の手段はないだろう。
 そして、キールが思いつかないのに、呪いのことをほとんど知らない5人に何か案があるわけもなし。

 これはもうヒルデ一人に全てを任せるしかないか……自分の不甲斐なさに皆が心を痛める中……



なにか、聞こえてきた。



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